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01.禁忌から生まれた奇跡


 国が二つに分かれたその時、火種が落ちた。

 聖リオス王国の王となる男が、ル・ナルナ王国の女王となる女を殺したのだ。


 二人は将来を誓い合った仲だったが、価値観の相違からそれぞれの道を選び、一つの国が分断する事となった。

 ただ分かれるだけならば、それぞれの王に従う民は異を唱える事はなかった。


 しかし、国主を失ったル・ナルナ王国の民の憎悪は凄まじく、瞬く間に復讐の炎は燃え広がり、生まれたばかりの二つの国が衝突した。

 その後百年続く事になる戦争は、女王の弔いの為に、そして新王を守る為に繰り広げられた。


 二つの国が武器を手にしてから数十年の月日が流れ、聖リオス王国の初代国王ルチェル=リオス一世が崩御した。


 これで戦争が終わるのではないか、過ちを犯した国王の亡骸を差し出す事で、和平を結べないか。

 魂の抜けた器とはいえ、それを差し出すのは断腸の思いであったが、聖リオス王国の民は平和を望んだ。


 長い戦いは人も物資も損耗させる。

 ル・ナルナ王国と地質の異なる聖リオス王国の大地は、戦火に晒された状態では民を満たすほどの食料を作れない。

 聖リオス王国は確実に疲弊し、飢餓で多くの民が死ぬのは時間の問題だった。


 当時聖リオス王国の国王であったルチェル=リオス一世の息子スプレンド=リオス二世は、信頼できる臣下を和平の使者に任命し、護衛の騎士と共に送り出した。

 そして戻ってきた使節団の姿に、リオス二世は嘆き、憤慨した。


 誰一人生きて帰る事はなかった。無二の臣下も、家族を残して旅立った騎士達も。

 己の首を抱いた状態で、粗末な棺桶に入れられていた。


 戦争は続いた。それぞれの怨嗟を糧に、どちらかが滅ぶまで。


 先に領土侵攻を許したのは聖リオス王国だった。

 ルチェル=リオス一世の蛮行故に、民の心が離れてしまった国は資源も尽き、飢饉の影響で兵も市民も失っていった。


 降伏しようにもル・ナルナ王国の要求は聖リオス王国に住まう全ての人間の処刑であり、それは名実共に聖リオス王国の滅亡を表していた。

 到底受け入れる事のできない降伏勧告に、スプレンド=リオス二世はある事を決意した。


 禁忌の解放である。


 聖リオス王国初代国王ルチェル=リオス一世は、魔導研究の第一人者であった。それ故に禁忌と呼ばれる類の魔導を知り尽くしていた。

 スプレンド=リオス二世は父王が遺した魔導を活用し、とある騎士を作り出した。


 生まれたばかりの赤子に魔力を宿した宝石を飲ませ、人知を超えた力を授けるという禁忌の魔法は多くの犠牲を代償に成功した。

 幻想騎士と名付けられた彼らは一騎当千の兵となり、最終戦線まで後退していた味方を押し上げ、奪われた領土を奪い返した。

 それだけには留まらず、ル・ナルナ王国の国土をも奪取し、飢えていた聖リオス王国の国民を救った。


 まさに奇跡と呼べる戦果を上げ、猛攻を受けたル・ナルナ王国は和平の使者を送ってきた。

 スプレンド=リオス二世は己の使節団が惨殺された事を記憶していたが、繰り返せば惨劇が長引くと判断してル・ナルナ王国の使者を無碍に扱う事はしなかった。


 幾らかの談合の後、聖リオス王国とル・ナルナ王国は終戦した。

 それから数年の月日が経ち、ル・ナルナ王国との友好を築けたスプレンド=リオス二世は幻想騎士達にある命令を下した。


『和平を結んだ今、戦争の遺物は必要ない。幻想騎士達よ、永久の平和の為に己が命を捧げよ』


 禁忌から生まれた奇跡の騎士達は、忠誠を捧げた王に死ねと命じられ、命をかけて守った国に見捨てられた。

 戦争の為に作られた殺戮の人形に、平穏な暮らしは出来ない。そう判断されての事だった。


 ごく一部の幻想騎士は王の命令に従い、処刑場で自ら命を絶った。

 その亡骸は光となって消え、命の核であった結晶だけが落ちていた。


幻想騎士は骸を残さない。命を落とした時に現世に留まるのは、赤子の時に飲まされた宝石が固まって出来た花の形をした結晶だけ。


 それすらも踏み砕かれ、彼らの生きた証は何一つ残らなかった。

 その事実を目の当たりにした幻想騎士たちは団長に進言し、決断した。


 残っていたほぼ全ての幻想騎士が城から逃走し、国からの脱出を試みた。しかしすぐに討伐隊が編成され、数十人の幻想騎士がその身を花に変えた。


 今も数名の幻想騎士が国を彷徨っているという。

 国を守るために戦い抜いた騎士たちが眠る、終焉の地を目指して。

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