00.騎士たちの決断
コツンとタイルに落ちた花は、光り輝く結晶で作られていた。
太陽の光を受けなおも煌めくその花に近づいた男は、花の上に足を乗せると重心を移動させて体重をかける。
ピシリと罅が入った花は次の瞬間、重さに耐えきれず砕け散った。
舞い上がった花弁が風にさらわれて消える。
本物の花のようにふわりと遠くに運ばれて、その途中で粒子となって消えていく。
朝日に溶けていく命を見ていた女性は、両の手をぐっと握りしめて俯いた。
「こんな事になるなら、もっと早く……」
悲しみの涙をこらえ、肩を震わせる女性騎士を抱き寄せた深緑色の髪の男は、反対側に立っていたもう一人の男性騎士に青い視線を移した。
「決断を」
怒りを押し殺した低い声に、男性騎士は廊下に並んだ同胞たちを見た。黄金色の瞳が部下を見つめ、長い純白の髪がさらりと揺れる。一房編み込まれた髪に触れた騎士団長は、その端麗な顔に聖女のような笑みを浮かべて口を開いた。
「行きましょう。私たちの終焉の地へ」
澄んだ声は静かながらも仲間の耳に届き、その場にいた生き残りの騎士たちは頷いた。
涙を拭った女性騎士は隣にいる男を見上げると、気丈に笑顔を作る。
「きっと、幸せになれるわ」
女性騎士の水色の髪を撫でた男は、そっと彼女に触れるだけのキスをした。
「必ず行こう。みんな、そこで待っているから」
誓いあうように手を握り合い、祈るように目を閉じる。
それが最愛の人との、最期の穏やかな時間となった。