表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シャウト・ばあちゃん

掲載日:2009/11/05

エネルギッシュな婆さんのお話しです。いや、もう、お読みしてください。危うくこの婆さんのエネルギーに振り回されそうになりました。レッツ、シャウト!


 いち


「きえええぇぇぇーーっ!!」

 今日も『シャウト・ばあちゃん』こと、大泉きみゑ婆ちゃんの叫び声が村の御堂にコダマした! きみゑ婆ちゃんは、すげー“力”を使って悪い幽霊共や悪い妖怪共を追っ払うんだぜ。オイラもよくはわからねえけど、きみゑ婆ちゃんは祈祷師か陰陽師らしいんだ。ボサボサの白髪頭には鉢巻して、細くて長い白い紙を二つ両側に立てていてさ、まるで角みたいに見えるのさ。きみゑ婆ちゃんの顔は、周りの話しでは昔すげー美人だったらしいんだけどよ、オイラから見たらそんな欠片なんて一片も見えやしない。浅黒い顔にたくさんのシワが深く深く刻まれてて、くしゃっとして総入れ歯なんだぜ。いつも「にゃむにゃむ」云っててよ、笑う時なんか「ふぁひゃふぁひゃ」だ。いつも腰を曲げているから、背が高いか低いか分かりゃしねー。

 でもよ、きみゑ婆ちゃん、走り出すとはえぇぇんだぜ。以前、たくさんの悪霊に取り憑かれた近所のお姉ちゃん達が暴れ出して村じゅうが大変だったんけれど、その小屋に、きみゑ婆ちゃんが引き戸を蹴り破ってさっそうと現れたんだ。きみゑ婆ちゃん、音も立てずに床を走り回って暴れてまわるお姉ちゃん達を次々に取り押さえていって肩に手を当てて気を失わせて“あっ”と云う間に取り憑かれていたお姉ちゃん達を黙らせていったんだぜ。そんな中でよ、小屋から逃げ出したひとりのお姉ちゃんを見つけた時、きみゑ婆ちゃんは床を蹴ってギューンと小屋から一直線に跳んでいってよ、地面に落ちて頭を庇って転がって片膝を突くと走り出したんだ。

 それが、はえぇぇのなんのって。きみゑ婆ちゃん、小走りで駆けて行くんだよ。しかもよく見てみたらさ、爪先で土を蹴って走ってんだ! 逃げていたお姉ちゃんに、ものの数秒で追い付いてよ、お姉ちゃんの長い脚に蟹鋏みして倒すとそのままヒョイと手を伸ばして頭も取り押さえて「きえええぇぇぇーっ!!」と気合い入れた瞬間にさ、そのお姉ちゃんはガクッと気絶だ。除霊完了だぜ!



 に


 きみゑ婆ちゃんの話しは、まだまだあるんだぜ。

 今度は軽トラで野良猫を轢き殺してしまった二軒隣りの大工のオッチャンがいてな、その野良猫から憑かれてしまって村のみんなを引っ掻いたり投げ飛ばしたりして狂ったように暴れまくったんだ。その大工のオッチャンはさ、柔道三段の腕前なのさ。

 そんな危機を感じ取った、きみゑ婆ちゃんが黒いバギーに跨って飛んで現れたんだ。かっけぇーな!! バギーごと着地すると、ブゥンブゥンとエンジン噴かせて大工のオッチャンめがけて向かっていくとよ、憑かれたオッチャンがバギーに乗った婆ちゃんに気がついて飛びかかっていったんだ。すると、きみゑ婆ちゃんは急ブレーキをかけて後輪を上げて前輪を軸に回転して大工のオッチャンを後輪で蹴飛ばしたぜ。きみゑ婆ちゃん、その辺は力加減知っていてさ、大工のオッチャンは打撲だけで済んだんだ。ゴーグルを額に上げてバギーから降りると大工のオッチャンの腕を取って頭を押さえ込んだあとに、きみゑ婆ちゃんが「きえええぇぇぇーっ!!」とシャウトした途端に、野良猫の霊魂を追っ払ってしまった。



 さん


 きみゑ婆ちゃんの話しはまだまだまだあるぜ。

 今度はオイラも見たことある。そりゃもう、手強い化け物の登場だ!


 その日は、まるでバケツをひっくり返したかのような乱暴な雨に、村のみんなもオイラも参っちまった。アスファルトも舗装されてねぇ道路の土がよ、ジュクジュクと濡れてさ、もーー、足を取られて取られて大変だったぜ。歩き辛いったらありゃしねぇ。そんな最中によ、村一番の綺麗なお姉ちゃんが行方知れずになっちまった。そのお姉ちゃん、背が高くって色も白くってよ、つやつやとした長い髪の毛を生やしているんだ。鼻が高いし、目は柴犬みてぇにパッチリとして愛嬌があんだ。顔、コロッとして小せーぞ。そのお姉ちゃん、東と書いてアガリと読む名字でさ、名前が君子って云うんだぜ。アガリのお姉ちゃんもな、ちと“力”があってよ、村のみんなは口を揃えて「きみゑ婆ちゃんの後継者は、君子さんで決まりだな」と認めていたなかで突然、アガリのお姉ちゃん暴走しちまった。

 オイラも何が起こったか分からねぇけど、何か大変な事があったってのは分かったよ。


 ここは聞いた話しなんだけど、村の村長さんが云うには、買い物の帰り道にアガリのお姉ちゃんが隣り村にある石碑を動かしたらしい。もっとも、村のみんなはアガリのお姉ちゃんはそんな悪戯をする筈がねぇのは分かっていた。原因は、観光でやって来たボンクラ連中だと。それを元の位置に石碑を直そうとしている最中によ、アガリのお姉ちゃんは痙攣を起こして神社の境内にぶっ倒れたらしいんだ。そのボンクラ連中はさ、気絶していたアガリのお姉ちゃんがあまりにも綺麗な人だったものだから、服を脱がせてイタズラを始めた途端に神社の神主さんが飛び出して来てな、ボンクラ連中を蹴飛ばしてアガリのお姉ちゃんを助けたんだぜ。

 神主さんが服を着直せていた途中に、アガリのお姉ちゃんは目を見開いて赤く光らせたそうなんだよ。そして、飛び起きた瞬間によ、神主さんもボンクラ連中もバラバラに引き裂いたらしいんだぜ! 鳥居の物陰からその様子を見ていた、そこの隣り村のオッチャンが「ひぃぃっ!」っと青い顔してさ金切り声をあげてアタフタしながらオイラの村へと足を絡ませ慌てて走って来ると、事の事情を村長さんと、きみゑ婆ちゃんとに噛み噛みしながらも伝えたんだ。



 よん


 アガリのお姉ちゃんがどっか行っちまったもんだから、村のみんなは総出で村一番綺麗なお姉ちゃんの捜索を始めたのさ。雨はやんだけどよ、足場がワリィや。あの暴力的な雨のお陰で、村のみんなの足裏にもオイラの足裏にも泥がこびり付いて滑るぜ。きみゑ婆ちゃんをを見つけたオイラは、婆ちゃんの傍まで歩いていったんだ。「おや? お前さんも、君子さんを探すのに加勢してくれるのかい?」勿論だぜ、きみゑ婆ちゃん。「そら、有り難い。気をつけるんだよ」おう、怪我しねぇように手伝うぜ、婆ちゃん。ん? オイラ、きみヱ婆ちゃんの笑顔を初めて見たぞ。婆ちゃん、アンタ笑うとキュートだなぁ! おっと、感激している場合じゃねぇや。

 オイラも、よく山ん中を歩くけどよ、何だか今日はいつもと違って不気味だ。こんな薄気味悪い山は見たことねぇ。しかし、きみゑ婆ちゃんはぬかるみなんか気にも止めずにさ、ヒョコヒョコと上手く歩いてゆくんだよ。すげーっ! 足裏には泥がこびり付いてる様子がねぇや! すげーぜ、きみゑ婆ちゃん!


 アガリのお姉ちゃんを探し始めて、一時間くらい経った時だ。オイラと、きみゑ婆ちゃんの立つ場所から、それ程遠くねぇ所で「ぬあぁっ!」だの「ああーーっ!」つった叫び声と悲鳴が幾つかあがったんだよ。その瞬間、きみゑ婆ちゃんの顔付きが変わっちまった! キュートな笑顔から一転、オイラの袋までも縮み上がるくれぇオッソロシイ顔になったぞ! その面にゃ、山の神様もブルッちまわぁ!

 何かを感じ取った、きみゑ婆ちゃんが走り出したぜ。オイラも協力して走る! ……やっぱり早えぇや、きみゑ婆ちゃん。やっとこさ追い付いた所には、アガリのお姉ちゃんと、きみゑ婆ちゃんと、ガタイのいい村のオッチャンたちが二人居た。うわ。よく見たら、村の兄ちゃんたち三人がうつ伏せに倒れ込んでらぁ。ただ事じゃねぇな。

 用心の為に木刀を持っていた二人のオッチャンたちが踏み込んで、アガリのお姉ちゃんを狙って飛びかかってった。振り下ろされた木刀をよ、細けぇ動きで避けていったアガリのお姉ちゃんがさ、懐に素速く入り込んで両手でオッチャンたちの首を掴んだんだ。そしたな、アガリのお姉ちゃんの目が赤い光りを強く出したんだよ。オッチャンたち二人は、泡噴いて気を失っちまった! アガリのお姉ちゃん、つえぇな!



 ご


「俺に何用だ?」アガリのお姉ちゃんが喋ったぞ。確かに顔も姿も声もアガリのお姉ちゃんだけどよ、内側からくるもんは、全くの別人だぜ。オイラにも分かるよ。きみゑ婆ちゃんが歯を見せてさ、「それで君子さんに取り憑いたつもりか?」その笑顔はコエェぜ。ガクブルもんだ。化け物がよ、アガリのお姉ちゃんの姿を借りて云うんだ。「この娘の“力”は素晴らしい。俺の物にしてやる」「馬鹿者が」「なあに、じきに馴れてくるさ。その前に、お前たちを消してやる。特に、そっちの婆ぁは後々何かと面倒そうだからな」「そうかい。頑張りな」きみゑ婆ちゃん、負けてねぇな!

 取り憑いた化け物が目を赤く光らせて、オイラと、きみゑ婆ちゃんを睨みつけたその途端に後ろの木が縦にパックリと割けちまった! きみヱ婆ちゃんは避けていたな。で、オイラは婆ちゃんから突き飛ばされてよ、幸いに化け物の攻撃を避けられたのさ。化け物はアガリのお姉ちゃんの姿のまま、走るきみゑ婆ちゃんを目で追っていって次々と木を砕いたり割いたり、土を噴き上がらせたりして容赦の欠片なんかこれっぽっちもねぇや。


 しかし、きみゑ婆ちゃん、化け物の攻撃をものともしなくて軽やかな動きでかわしていくんだぜ。化け物がある程度の距離と広さを睨みながら攻撃していった所はよ、デケェ穴が空いていたりデコボコしたりしてな、更に酷い形になっていやがった。化け物め、アガリのお姉ちゃんの姿を借りて好き放題に山を壊してくれたものだなー。あとで、アガリのお姉ちゃんに謝っとけよ。

「畜生……。当たらねぇ……」化け物がお姉ちゃんの口を使って愚痴をこぼしたよ。息を切らしているみてぇで、肩をゆっくり動かしているな。それと対照的に、きみゑ婆ちゃんはケロッとして息のひとつも切らしてねぇや。「どうした? 当たらぬではないか? 若いの」きみゑ婆ちゃん、またガクブルものの笑顔で、化け物に話しかけた。次の瞬間、きみゑ婆ちゃんが踏み出して、化け物に向かっていったんだ。真っ直ぐだぜ。化け物は再び目を赤く光らせようと構えた時には遅かったよ。きみゑ婆ちゃんが化け物の手前で急停止して、背筋を真っ直ぐにシャキッと伸ばしたぜ。

 きみゑ婆ちゃん、意外と背ぇ高いなぁ!!




 ロック


 アガリのお姉ちゃんに取り憑いた化け物が、思わず動きを止めてしまったせいか隙ができちまった。きみゑ婆ちゃん、勿論そのチャンスを逃す筈がねぇ。化け物にタックルをかまして倒れ込んだんだけどよ、腹に足を当てられて、きみゑ婆ちゃんがアガリのお姉ちゃんに取り憑いた化け物から巴投げされちまった。だがよ、キレイに転がって受け身を取った、きみゑ婆ちゃんは爪先に力を込めて地面から全力で跳ね上がったんだぜ。

 化け物に取り憑かれているアガリのお姉ちゃんのブラウスの襟を掴もうとして、きみゑ婆ちゃんが手を伸ばした時に逆に手首を取られちまって投げられた。だがよ、きみゑ婆ちゃんはまたもや受け身をして立ち上がったんだぜ。背筋が延びきっているぜ、きみゑ婆ちゃん! と、オイラが感心している間に、きみゑ婆ちゃんとアガリのお姉ちゃんとがお互いに掴み合いを始めちまった! 二人して迫り来る相手の手を払い落としたり叩き除けたり流したりしてな、端から見ていたオイラはハラハラドキドキものだ! 心臓にワリィや。

 そんな攻防戦の最中に、きみゑ婆ちゃんが広げた掌をアガリのお姉ちゃんの横っ面に突き出したんだ。お姉ちゃんに取り憑いた化け物は気をそっちに取らちまったから余所見してしまい、きみゑ婆ちゃんから襟と腕を掴まれたと同時に力強く足をかけられて躰がクルッと回転して背中を土の上に叩き伏せられてしまったぞ。

 そして、きみゑ婆ちゃんは掴んだ襟をグイと横に引っ張ると、首に当てて頸動脈を絞めにかかったんだ。「ふん。取り憑いた君子さんが“たまたま”合気道の有段者だった事に感謝するんだな、馬鹿者が」「ぐぎぎ……。こんな、こんな筈では……」「だから云ったんだよ。お前の取り憑き方はド素人だとな」「テメェ、糞婆ぁ!」「阿呆が。軽い気持ちで神社にくるボンクラ共に毒されおってからに。『まいった』と云え。云えば、このまま君子さんの躰から離れるだけで勘弁してやる」「糞婆ぁ。誰が云うか!」「ならば、仕方あるまい」その言葉を云い終えた、きみゑ婆ちゃんが額をアガリのお姉ちゃんの額に付けた瞬間に“シャウト”を炸裂させたぜ!

「きえぇぇーーーっ!!」

 アガリのお姉ちゃんの躰から赤い光りが弾け飛んで消え去っちまった。そして、きみゑ婆ちゃんはオイラに振り向いて親指を立てて合図を送ったんだ。

 除霊完了だな!



『シャウト・ばあちゃん』完結


最後までお読みしていただきまして、ありがとうございました。僕の母方の祖母も、エイの鰭をストーブの上で焼く時に、拳を押し付けるそうですから、実にエネルギッシュです。はい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ