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謎の少女を拾って何が悪い!

続きです。

 怪獣 隕石 で、検索。

次は怪獣 魔法少女 を入力。


「やっぱ分かんないよな・・・・・・」


 様々な憶測が飛び交っているが、結局のところその正体は謎に包まれている。


 もう二回戦ったわけだけど、あの大きさの生き物がずっとどこかに身を隠していたとは思えない。

数々の憶測の中で、隕石の衝撃が眠っていた生物たちを起こしたって言うのがあったけど、たぶん違う。


 その大きさも、その特徴も、既存の生き物とは違う。

普通の生き物にドリルはついてないし、ミサイルも撃ってこない。


 普通それについて何か知ってろよって立場のユニオンは、何も知らない。


「うわ・・・・・・てか巨大少女のパンツまとめとかあるし・・・・・・。普通に最悪。全部わたしのじゃん・・・・・・」


 ちらほら先輩の画像も混じってるけど、そもそも先輩のコスチュームはスカートじゃないし下着が見えるようなことはない。


 結局あの時もまだ何も買ってなかったし、がっつり見られちゃダメな下着だ。

あの後だけどちゃんと見せパンは買った。

この騒動が片付くまで、お気に入りのパンツたちも履けないことになる。


「っていうかいつまで・・・・・・」


 いつまでこうしていればいいのだろう。

もしかしたら少女を自称出来ない年齢になっても続くのかもしれない。


 調べても考えても分からないので、携帯をベッドの上に投げ出す。


 怪獣。

その正体が分からないことには、それより先のことも何も分からない。


「なんなんだ・・・・・・怪獣って・・・・・・」




「なんか、また増えたよな・・・・・・魔法少女。新しいの二人」


「な・・・・・・」


 前を歩く俊介くんと翔くんが、魔法少女についての話をしている。

当事者であるわたしとしては耳を塞ぎたい会話だ。


「ていうか、三人目は二人が合体したやつだって話もあるよね・・・・・・」


 大正解、よく分かったね翔くん・・・・・・とかいきなり言ったらびっくりするだろうか。

怪獣についてのあれやこれやもあれば、わたしたちについての憶測も様々あるのだった。


「あと・・・・・・それとさ、一人目の子・・・・・・なんか見覚えない?」


「う・・・・・・」


 突然の翔くんの言葉に、思わずビクリとしてしまう。

そりゃ見たことあるはずですよ、髪型は違うけど。


 これ、バレたらなんか・・・・・・どうなるのだろうか。

よく考えたらとんでもないことだ。

単純にバレたら恥ずかしいなとしか思ってなかったけど・・・・・・。


 いつも通りの登校風景。

わたしたちが守った、五人の平和な時間。


 三度目の正直で、とうとう学校がちゃんと始まる。

状況が落ち着いたようにはとても思えないけど、これからは怪獣がどこかに出てそして暴れてっていうのが日常になるのかもしれない。


 もう少しで夏休みが来る・・・・・・はずだけど、一体どうなるのだろう。

授業日数の確保とかで、休みが減らされるかもしれない。

いや、それどころじゃないのは分かってるんだけどさ。


 取り留めのないことをぼんやり考えながら学校への道を進む。

すると、突然気配を感じ取った。


 怪獣じゃない。

先輩の気配だ。

ユニオン曰く、一度融合したことでわたしと先輩に精神の繋がりが出来たらしい。


 ユニオン変身者同士の感知能力。

まだ慣れないけど頑張ればテレパシーもいけるらしい。

電話要らず。


 ユニオンはこれを「絆」なんて言葉でわたしたちに説明していたけど、地球人の感覚での絆とはだいぶ違う。

なんかことの大きさを馴染みのある単語で誤魔化そうとしてる感すらある。


 先輩の気配は、強くなる。

ていうかこっち来てないか・・・・・・?


 なんだか少し良くない予感がする。

いや、先輩に出くわすのがやだってことじゃないんだけど、ただこのメンバーで会うのはなんかちが・・・・・・。


「何あの子? なんかこっち来てない?」


 つむぎが予感の的中を告げる。

前からやって来る先輩の姿をわたしも捉えた。


「どれ? 誰誰?」


「ほらあの・・・・・・小学生?」


「あ、あの金髪の? なんかちょっと目つき悪りぃな」


 小声で語り合っているつむぎと俊介くんのところへ、先輩は何も意に介さず無遠慮に近づいてくる。


「え、ほんとにこっち来てんじゃん・・・・・・」


「やば、マジでなんだ?」


 この空気感を感じ取ってくれ、と先輩に念を送る。

だが練度が足りずテレパシーは出来ない。

ただ眉根に皺が寄るばかりだ。

そして・・・・・・。


「おう、ユニ。探したぞ」


「「え、ユニ・・・・・・?」」


 先輩の声にみんなが振り向く。

わたしはそれにがっくりと項垂れだ。


「先輩・・・・・・なんですか、こんな早くから・・・・・・」


「「え、先輩・・・・・・!?」」


 みんなが先輩を見る。

先輩は「おう、先輩だ」となんだか上機嫌そうだった。


「え、先輩って・・・・・・え、わたしらの? てか何、え・・・・・・その腕のやつ何?」


 つむぎが見た目と事実のギャップに困惑する。

ユニオンリングについて言及した時はわたしもドキッとした。

隠したりしないのか、あの人。


「あ、これか? これはな・・・・・・」


「せんっぱい、先輩先輩・・・・・・用があるのはわたしでしょ? ほら、行きますよ」


「え、あ・・・・・・おいユニ・・・・・・」


 先輩をみんなから引き剥がして、引っ張っていく。

みんなはそれを茫然と眺めていた。


「あ、じゃあこの人わたしに用事みたいだから・・・・・・みんなは先に行ってて」


「お、おう・・・・・・」


「ユニさんって、結構交友関係謎だよね・・・・・・」


 困惑するみんなを見送って、その背中が見えなくなるのを待った。


「それで・・・・・・急にどうしたんですか・・・・・・」


 ほんとにいきなりやって来た先輩に要件を尋ねる。

それに先輩は「ああ、そうだった」と答え始めた。

忘れてたのか、さっきの数秒で。


「ほら、お前さ・・・・・・怪獣がなんなのかってずっと気にしてたじゃんか。そういや関係あるかもって思ったのがあってな」


「え、今・・・・・・!?」


「ん・・・・・・?」


「それ今じゃなきゃいけないやつでした!?」


 いやまぁわたしのためにそういうことしてくれるのは助かるけども!

でも絶対に今じゃない! 

通学路逆走してまで伝えに来ることじゃないだろう。


「あ? なんだよ! お前のために調べたんじゃねーか!」


「それはそう・・・・・・そうなんですけどね・・・・・・」


 深呼吸を一つ、気持ちを落ち着かせる。

先輩のこの空気の読めなさは、悪意のあるものじゃない。

完全に天然のものだ。 


「はい。ありがとうございます。・・・・・・それで何を見つけたんですか?」


「おう、それはな・・・・・・」


 そう言って先輩はポケットから携帯を取り出す。

先輩のイメージカラー(勝手に思ってる)と同じ赤色のカバーだ。


 その画面には・・・・・・。


「・・・・・・牛耳人間、病院に搬送・・・・・・その後脱走・・・・・・って・・・・・・」


 つむぎたちも言ってたやつだ。

出どころ不明な謎の噂話。

まさかこれを本気にする人なんて・・・・・・。


 先輩の顔色をチラッと伺う。

これを本気にする人なんて、先輩くらいなものだろう。


「っていうか! これの何が関係あるんですか! 怪獣じゃないじゃないですか!」


 一旦落ち着かせた熱がまた再燃する。

普段あんまりおっきな声出さないんだけど、先輩にはペースを乱されてばかりだ。

初対面の時から。 


「何が関係って・・・・・・関係あるだろ。この話も怪獣も、隕石が落ちてからだ。牛の耳がついた人間なんて、アタシなら冗談でそんなつまらんこと言わないぞ。隕石と怪獣と、この噂。ユニオンもだ。この全部、きっと何かの関係がある」


「そ、そんなこと・・・・・・」


 隕石と怪獣。

ここまでは分かる。

けど牛耳人間は絶対繋がらないだろう。

だってそんな突飛な・・・・・・あまりにも突飛な・・・・・・。


「そんなこと・・・・・・は・・・・・・」


 突然さとか奇妙さとか、それらに関しては今更だ。

そして・・・・・・完全な作り話なら、確かにちょっと地味というか、チョイスが微妙すぎる。


「・・・・・・た、確かにそうかも・・・・・・」


 同じようなデマを流布するにしても、わたしだったらもっと派手に・・・・・・例えば羽の生えた人参星人とか、それくらいやると思う。

え、いや・・・・・・本当なのか、牛耳人間。


「どうだ?」


 わたしの表情の変化を見て、先輩はニヤニヤしながら腕を組んでいる。

多少不服だが、しかしちょっと納得してしまったのは事実だ。


「・・・・・・でも、それが本当だったとして、じゃあどうすれば・・・・・・」


「簡単な話だ。人間の姿をしてるなら言葉も話せるだろ。そいつを見つけて、とっ捕まえて! んで関係あるようなら聞きゃいいんだよ!」


 先輩の言うことはとてもシンプル・・・・・・だけど・・・・・・。


「それ、ちょっと前提キツくないですか? 見つかんないですよ、居たとしても」


「そんでも探すんだよ。アタシが最初にお前見つけたみたいにな」


「・・・・・・マジか。あれずっと探してたんすか・・・・・・」 




 そして翌日。

都合よく休みなので、本当に牛耳人間を探していた。


 追加で集めた情報からすると、どうやら小さい子どもらしい。

それこそ先輩の見た目年齢くらいの。


 牛の耳に、そんでもってタグ。

ぼろぼろの布を服みたいに着てる・・・・・・という話だ。


 後は未来予知ができるとか、目から光線を出すとか、そういう「ほんとかよ」シリーズの情報も一応頭の片隅に。


 そんな不確かな情報を頼りに二人で探していたわけだが、今は手分けして探している。

出没場所にいくつか候補があるらしく、それを別々に回っているのだ。

今のわたしの担当は、団地のすぐ側の公園。


『ユニ、そう言えば昨日は怪獣が現れなかったな。それも何かに関係があるかもしれないぞ』


「あ、そっか・・・・・・」


 そう言えばそうだ。

ドリルにタコノマクラに、ニ日連続で現れたけど、昨日は平和な一日に違いなかった。


 久しぶりに授業を受けて、久しぶりに普通に家に帰って、夕ご飯食べて、それで寝た。

夜中に何かに飛び起きるということもなかった。


「怪獣の出る頻度か・・・・・・。意外と、これでもう出てこなかったり・・・・・・」


『もしそうなら、私の役目はもう終わりだな。世話になったな、ユニ』


「流石に一日出なかったくらいでそれは気が早いって」


 訪れた公園はいつもなら子どもたちで賑わっているが、怪獣騒ぎのせいか誰も居ない。

休日なのに寂しい風景だ。


 ここは緑が綺麗で敷地も広いから、その寂しさが一層際立つ。

そしてこれだけ誰も居なければ、まぁこの場所も外れだろう。 


 次の場所まで結構歩くことになるので、自販機で飲み物を買っておく。

今度は小銭を落とすことはなかった。


「あとは・・・・・・トイレ行っとこ・・・・・・」


 公園のトイレってあんまり綺麗じゃないイメージだが、ここのトイレはまだ新しくて綺麗だ。

風通しもよくて、この季節でも匂いが気にならない。


 トイレって結構好きで、くつろげる場所ランキングでは一二を争うくらいの場所だと思ってる。

このトイレも快適で、なんなら一日くらいだったら住めそうな程だ。


「ユニオン、トイレ覗かないでよ」 


『ああ、分かっている』


 ユニオンから景色がどういう風に見えているのかは分からないが、とりあえずお風呂やトイレのときはいつもそう言っている。


 その間はずっと黙ってるし、まぁシャットアウトする方法は何かあるんだろうなと思っている。


 少し汗ばんだ背中に服をバサバサして風を送り込みながらトイレへと入っていく。

そしてその先で待っていた光景に、思わず口を開いた。


『ユニ! これは!』


 ユニオンが。


 住めそうなくらい快適なトイレ。

風通しが良くて、雨にも濡れない。

今は子どもが居なくて静かだし、昼寝にもうってつけかもしれない。


「マジか・・・・・・」


 トイレに入ってすぐの、ゴミ箱の隣。

膝を抱えて寝息を立てる少女がそこには居た。


 別にそれだけでも十分驚きなのだが、さらに驚くべきことにその少女の汚れた黒髪の隙間から明らかに人間のものじゃない耳が生えていた。

その耳にぶら下がる黄色いタグ。


「うっそ・・・・・・」


 それ以上の言葉が出てこなかった。 


「え、うそ・・・・・・えっと、うそ・・・・・・え? え、ユニオン・・・・・・どうしよう?」


『お、落ち着くんだ、ユニ! ま、まずはコミュニケーションを』


「あ、そう! そだね。話を・・・・・・」


 慌てる、というよりは困惑しながら行動する。


「えっと、お、お嬢ちゃん? おはよう・・・・・・?」


 これで合ってるのか自分で疑問に思いながら少女の頬をぺちる。

すると少女はゆっくりとその瞳を開いた。


「お、おう・・・・・・」


 本当に起きちゃったよ、とやや身構える。

いや、起こしたのだけれども。


「え、えっと・・・・・・お嬢ちゃん、でいいよね・・・・・・?」


 事前情報で勝手に女の子だと思っているが、もしかしたら男の子かもしれない。

焦りすぎてそんな重要じゃないことを気にしてしまう。


 わたしの声を聞いた少女は、その瞳を大きく見開いて首を傾げる。


「もー・・・・・・?」


「え・・・・・・?」


「・・・・・・もー」


 ここで一つ想定外。

この牛人間、たぶん人の言葉を知らない。




 そろり、そろりと誰にも見つからないように家まで帰る。

あの謎の少女をどうしたかと言えば・・・・・・。


『ユニ、本当に大丈夫なのか?』


「たぶん。お母さんは買い物行ってると思う」


『いや・・・・・・まぁ、いい。君を信じよう』


 どうしたかと言えば、お持ち帰りしていた。

というか勝手に着いてきた。


 誰も居ないのを確認して、素早く家に上がり込む。

すると真似するみたいに謎の少女も滑り込むように入ってきた。


「え、どうしよう」


 それで、ここからどうしよう。

聞きたいことがあっても言葉が通じないのでは、どうしようも・・・・・・。


 少女の顔を覗く。

とりあえず敵意のようなものは感じないが、しかし友好的な感情があるかも分からない。

そして顔を近づけて気づく。 

ちょっと臭う。


 いやまぁ当然と言えば当然かもしれないけど。

その臭いからは、特に何も手がかりは掴めない。

少なくとも牛舎の匂いじゃないはずだ。


「えっと・・・・・・お風呂、入る?」 


 わたしが首を傾げると、少女も首を傾げる。

牛の耳がピクリと揺れた。


 もうほんと色々分かんなくて、思考放棄でシャワーを浴びせることにする。

時間が何かを解決・・・・・・はしてくれないよなぁ。


「わたしも入っちゃおうかな・・・・・・」


 服濡らさないで洗うの難しそうだし。

と、そこでトイレでのことを思い出す。


 わたしより先に、ユニオンが少女に反応した。

トイレの中で、だ。


「ねぇ、ユニオン」


『どうした、ユニ』


「正直に言って欲しいんだけどさ、今までお風呂とかトイレとか・・・・・・全部見てた?」


『・・・・・・』


 その沈黙が答えな気がした。


 どうするか悩むが、結局今さらなのでわたしも服を脱ぐ。

そうして、少女の服もひっぺがした。


 一応露わになった少女の体を確認する。

その薄汚れたお腹には、手術痕が残っていた。


「病院から・・・・・・脱走・・・・・・」 


 やっぱりそうなんだ・・・・・・と、実際に対面してる現実に驚かされる。 


 視覚情報だけじゃ飲み込めなくて、その体に触れてみる。

少女も手術痕も、確かに間違いがない。

あと少女で間違いない。


 そのまま浴室に行って、シャワーの蛇口を捻る。

どういうつもりなのか自分でも分からないけど、わたしが先にちょっと浴びてからシャワーを少女に向けた。


 シャワーのお湯に少し驚いたのか、少女の肩がビクリと跳ねる。

わたしの肩もそれに跳ねる。 


「ね、ねぇ・・・・・・あなた、は誰って言うか・・・・・・何?」


 伝わらないと分かっていながら、問いかける。

やはり答えは帰ってこないのだった。


 流し終えると早々に体を拭いて、服を着替える。

せっかく綺麗にした体に汚れた布をまた纏わせるのもアレだったので、わたしの小さい頃の服を引っ張り出して着せておいた。


 そこでやっと時間の経過に気づく。


「あれ、お母さん帰って来る時間じゃね?」 


 いつもならこんくらい、という感覚的なものだけど。


『ユニ、どうするんだ?』


「うそ、え・・・・・・全然考えてないんですけど!」


 判断に迷う・・・・・・というか分からない。

迷う選択肢すら湧いてこない。

何をどうしたらいいかまったく分からない。


「え、待って待って待って・・・・・・お母さん帰って来るじゃん」


『ユニ、落ち着いて・・・・・・落ち着くんだ』


「うそ、えっと・・・・・・えっ、あ・・・・・・ちょっと、もう・・・・・・ごめん!」 


 限界を迎えた脳が、問題を排除しようと体を動かす。


 少女の背を押して家の外に出し・・・・・・。


「と、とりあえず一回またいい場所見つけて! ね! 頑張れ!」 


 伝わらない弁明を残してドアを閉めた。

そして・・・・・・。


 なんとなく落ち着かなくて、リビングのテレビの前に座った。


『ユニ、本当にいいのか? 拾った動物を捨てるのはダメだぞ』


「動物て・・・・・・」


 しかも拾ったつもりは・・・・・・いや、拾ったか・・・・・・。


『それに、何も聞けていない』


「でも言葉が通じないし・・・・・・」


 グダグダだ。

何にも一個も上手くいってない。

上手くいかせかたが分からない。


 どうするべきだったのか。

なんで先輩じゃなくてわたしが見つけちゃったのか。

入浴はどう考えても判断バグってただろ。


 色々悔やむことはあれど、結局正解は見つからない。


 だが、そんなこと・・・・・・わたしの苦悩なんて、軽々と超えて来る人物が居た。

いや、誰がこんなこと想像出来るか。


「ユニ、ただいま。なんか、えっと・・・・・・女の子拾った」


 お母さんが、追い出したばかりの少女を連れて帰って来た。




「で、ひとまずお前の家で飼うことになったと」


「飼うて」


 捕まえた謎の少女を、家に呼んだ先輩に対面させる。

あの後、ちょっとした交流をする内になんとわたしの名前は覚えてくれたみたいだった。

吸収は早いのかもしれない。

これは重要な活路・・・・・・のはずである。


「あんなぁ、お前なぁ・・・・・・とりあえずアタシに連絡しろよ」


「お、おっしゃる通りで・・・・・・」


 しかし、これでまた状況が変わってくる。


 牛耳人間の実在。

これが更なる謎になるのか、それとも答えになるのかは現段階では分からない。

これで全然関係なかったらマジでどうしよう。


「ゆに」


「あ、はい。えっと、ユニでーす・・・・・・」


 少女は音を確かめるようにわたしの名前を呼ぶ。

先輩もそれを眺めて、難しい表情を浮かべていた。


「なんか・・・・・・これなら怪獣と戦う方が簡単だな。ちょっと・・・・・・まさか本当に見つかるとは思ってなかったぞ」


 ひとまず、この少女はわたしの家で言葉を学ぶ・・・・・・という方針だ。

お母さんも認めてくれた・・・・・・というかお母さんが拾ってきたことになってる。

軽率に拾ってきていいもんじゃないだろと、自分を棚に上げて思った。


「でもそっか・・・・・・怪獣、今日も出てないね。意外とほんとにこれで終わりなのかも・・・・・・」


「だな。でもこういうこと言ったときってフラグっつってだいたい・・・・・・」


 先輩が言ってる途中に、ズシンと揺れがやって来る。


「フラグっつって大体な、来るもんなんだよ。こういうときに」


 そう言う先輩の目は、もう戦う準備が出来ているように見えた。


『ユニ、行くぞ!』


「さすがに・・・・・・そんな簡単になくなってくれないかぁ・・・・・・」


 日曜日だって言うのに、休日出勤だ。

怪獣は時間を選んでくれない。


「行きますか・・・・・・」


 先輩と一緒に、家を出る。


「おー、暴れとる暴れとる・・・・・・」


 わたしの家の前から、既に怪獣の姿は捉えられた。


 青い半透明の体。

同色の尻尾。

しかし腕の位置からは鈍色の鎌が生えていた。


 首の先にある小さな頭部も、まるで虫のよう。

大きな複眼が、日の光を反射していた。


『さぁ、いくぞユニ!』


「先輩、準備いいっすか?」


「おう、もちろんだ!」


 必要な条件は揃っている。

それぞれ、お決まりのポーズをキメて・・・・・・叫ぶ。


「「ユニオン!!」」


 わたしたちの体を光が包み、一塊となって怪獣の頭上まで転送する。


「魔法少女メカニカルユニ! ブーストキック・・・・・・!!」


 今回は初っ端から合体だ。

高空からジェットの推進力を乗せた蹴りを浴びせる。

その衝撃を頭部にもろに食らった怪獣は、大きく吹き飛び態勢を崩した。


「「よしっ・・・・・・!!」」


 怪獣が起き上がる前に、開いた距離を詰める。

そして飛び上がり、分裂ミサイルを浴びせた。


 幾筋もの煙が怪獣に命中すると、大小様々な爆発が怪獣を包む。

たぶん全弾命中だ。


 上空で爆煙が晴れるまで待つ。

するとその煙を突き抜けて、怪獣が飛び上がってきた。


「うわ・・・・・・こいつ飛べるの!?」


「いや違う、これはジャンプだ!」


 先輩の言う通り、確かに怪獣の背に羽のようなものは見られない。

奇妙な色彩の怪獣は、その脚力のみでわたしに到達したのだ。


「・・・・・・そう言うことなら・・・・・・」


 背中側のキャノン砲を、肩まで移動させる。

標準を固定し、その鎌でキツく抱きつく怪獣に砲口を押し付けた。


「先輩、いける・・・・・・?」


「ああ!」


 先輩の返事を受けて、四肢で怪獣の拘束を振り払う。

そして。


「「ダークネスビーム・・・・・・!」」


 落下を始める怪獣に、上からビームを注いだ。


 怪獣はビームに押され強く地面に叩き付けられる。

そこに追い討ちをかけるべくわたしたちも飛び込んだ。


「「マジカルセイバァァァァ!!」」


 閃く眩い光。

ユニオンリングから伸びた光が、怪獣の両腕、鎌を切断する。

怪獣は衝撃に地を滑るようにして、弾かれた。


「グギャアッ!!」


 自慢の武器を失った怪獣は怒りの叫びを発する。

だが・・・・・・!


「それで何が出来る! いくぞ!」


「「ダークネスストライク!!」」


 胸部に開口する発射口。

そこから圧縮したエネルギーを発射する。


 それはわたしと怪獣の間の距離を一気に完食し、そして命中と同時に激しく弾けた。


 赤い光の爆発が大地を揺する。

その爆煙のみが漂う大地に、わたしたちはふわりと着地した。




 暗い部屋に居ると、昔のことばかりが思い出される。

中学時代の忘れたくても忘れられない記憶。


 わたしは絵を描いていた。

わたしの好きな絵を。


「なにあの絵・・・・・・気持ち悪」


「なんか・・・・・・何考えてるか分かんないって言うか・・・・・・」


「宇宙人って感じ。ほんとキモいし辛気臭いし・・・・・・」


「あいつマジで・・・・・・」


 暗い部屋。

見えないところに押し込めたはずの声がどこからともなく染み出して来る。


「なんでよ・・・・・・わたし、悪くないじゃん・・・・・・」


 耳を塞ぐ。

分からないなら分からないでいい。

でも否定しないでよ、わたしを。


『君の力が必要なんだ』


 わたしの記憶から過去を引っ張り出した声が頭に響く。


「やめてよ・・・・・・」


『世界は危機に瀕している!』


「やめて・・・・・・そういうのいいから! そんなの知らない!」


『君の力が必要なんだ。力を貸してくれ・・・・・・』


『ソラ!』


 消えない声に耳を塞ぐ。

それでも張り付いた声が古傷を広げる。


「やめて・・・・・・宇宙人なんて、居るわけないじゃん・・・・・・。わたしは、宇宙人じゃない・・・・・・宇宙人じゃないの・・・・・・」


 暗い部屋、消えない痛みに一人頭を抱えていた。

続きます。

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