正義の味方が二人居て何が悪い!
続きです。
「マジカルセイバー!」
怪獣の胴体を貫く光の刃。
首を失った怪獣に向かって大きく飛びかかる。
ユニオンリングから真っ直ぐに伸びた刃は現れた怪獣を両断した。
巻き起こる爆発。
その炎に飲まれる。
それが過ぎ去るとき、怪獣は跡形なく消し飛んでいた。
「か、勝った・・・・・・!」
『ああ、勝ったんだ!』
しかしその喜びも束の間、急速に体が縮んでいく。
その感覚はもはや落下に等しかった。
「お、おわ、あ、あぁぁ・・・・・・!?」
そうやって元の身長まで縮むと、コスチュームが解けるようにして剥がれる。
その瞬間どっと体に重く重力がのしかかって来た。
咄嗟に抗うことも出来ずに尻餅をつく。
そして・・・・・・。
「つか・・・・・・れた・・・・・・」
緊張のせい、あるいは興奮のせいで曖昧になっていた疲れを自覚した。
『しかし初めてにしては上出来だ。本当に君は立派にやった』
「言われても、ねぇ・・・・・・」
崩れたビルの上に座って、いつもより広い空を見上げる。
右手のユニオンリングの重さが、これが現実だと物語っていた。
「おかえりユニ。ね、怪獣! テレビ・・・・・・ね、見て見て怪獣!」
「知ってるよお母さん・・・・・・」
怪獣の出現で、学校どころの話じゃなくなってしまった。
朝からはちゃめちゃに体力も使ったし、とりあえずそのまま家に帰った。
俊介くんたちのことも気になるけど、それ以外にも気になることが山ほどある。
部屋に行く途中、チラッとお母さんの見てるテレビ画面を確認する。
「うわ、やっぱ映ってるよな・・・・・・」
そこにはしっかりピンク色の巨大少女が映っていた。
そのテレビの音声から逃げるように、自室に駆け込む。
普段は使わないけど、なんとなく鍵もかけた。
重い足を引きずってベッドに行く。
その上に倒れ込むと、とりあえずみんなに「大丈夫だった?」とそれだけメッセージを送っておいた。
「で。あの怪獣、なんなの・・・・・・?」
これは夢でもわたしの幻覚でもない。
そんなどうしようもない現実に問う。
『済まない。それは私にも分からないのだ。しかしこの星は危機に瀕している。それを救うべく私はここに送り込まれたのだ。あの怪獣は、私や君たちにとって乗り越えなければならない試練なのだ』
「って言ってもねぇ・・・・・・。ねぇ、てかさ・・・・・・あれ、まだ出るの?」
『済まない。それも分からない』
翌日。
学校は平常通りあるという旨の知らせが届いた。
「ほんと・・・・・・」
「「マジかって感じだよね・・・・・・」」
いつもの登校メンバー。
みんなで声を揃えて言う。
でも、こうしてまた顔を合わせることが出来て安心した。
今日この場所に、俊介くんも翔くんも居る。
そしてつむぎも。
「いや、でもマジさ流石だよね・・・・・・昨日俊介がさぁ・・・・・・!」
「い、いいって、その話はもう・・・・・・」
つむぎの自慢話ぬ俊介くんが顔を赤くする。
あの後、ちゃんとつむぎを見つけていたみたいだ。
結局つむぎがどこを怪我していたかと言うと、やっぱり足なのだが・・・・・・逃げ遅れたのはそれとは直接関係ないらしい。
現に今日こうして歩いて登校してるくらいだし。
「いや、でも・・・・・・ほんとびっくりしたよな。まさかあんなことになるなんて・・・・・・」
俊介くんがスマホの画面をスクロールしながら言う。
その画面をちょっと覗いてみれば、昨日の出来事に関する呟きが並んでいた。
「これ絶対隕石関係あるだろ?」
「何それ・・・・・・なんか連れてきたってこと? それこそ宇宙人とか・・・・・・」
俊介くんの言葉に、翔くんが首を傾げる。
しかし確かにそうだ。
あの隕石が落ちてからだ、怪獣も、ユニオンも。
因みにユニオンリングはリストバンドで隠してる。
変身後の姿をわたしだって認識させない力があっても、これは普通に見える。
やたら重いし、外し方も分かんないし。
花の女子高生が身につけるにはちょっとデザインもアレすぎる。
「そ、それよりさ・・・・・・つむぎ、家大丈夫だったの・・・・・・?」
今はあんまり怪獣だの巨人だのという話はしたくないので、別なことを聞く。
実際気になっていることでもあった。
怪獣と戦う力を手にした今、その返答の重さも変わってくる。
わたしは例えどんな事実でも、ちゃんと受け止めねばならない。
「ああ、それなんだけど・・・・・・な?」
わたしの言葉に俊介くんが言い淀む。
つむぎは「いいよ」と言って答えた。
「ほんとは、ほら・・・・・・今はまだ言わないつもりだったんだけど、家は・・・・・・ダメでした。もう跡形もない」
「え、それじゃあこれからは・・・・・・」
「他にもそういう人、たくさん居るし・・・・・・丁度隕石のアレで仮設住宅みたいなのもあって、今はそこ。近くだから転校とかはないよ」
「そうなんだ・・・・・・」
歩きながら街並みを見る。
今歩いている辺りは隕石も怪獣も知らないみたいな顔で、綺麗な状態だ。
でも、立ち並んだビルのその向こうには、まるで別世界みたいに廃墟が広がってる。
やっぱり、うまくいかないよな。
ちゃんと受け入れなきゃだけど、わたしがもっと上手くやれてれば・・・・・・。
『しかし、この登校風景は君が守ったものだ。君が居なければ、三人はこの場所に居なかっただろう』
「そう、だよね・・・・・・」
「さ、こういう話はもう終わりにしよ。わたしは、俊介が見つけてくれて嬉しかった。それでいんだから」
住み慣れた家が無くなったというのに、つむぎは明るく笑う。
なんでわたしと一緒に登校してるのか分からないくらいのクラスのカースト上位グループ。
そこに居られるのは、きっとつむぎのそういうところにあるんだと思った。
「で、怪獣もそうなんだけどさ・・・・・・あの例の・・・・・・」
つむぎが切り出した話題に少し嫌な予感がする。
「でっかい魔法少女・・・・・・!」
「うっ・・・・・・」
やっぱりそうだった。
「あ、あれね・・・・・・ネットでもいっぱい動画とか出てるよね」
「え、マジで!?」
翔くんの発言に思わず大きな声を出してしまう。
「う、うん・・・・・・ほら」
そう言って翔くんはわたしにその検索画面を見せてくれる。
それに近寄って覗くと、翔くんの言う通りたくさんのピンク色で画面が埋め尽くされていた。
「てかなんでみんなローアングルなんだよ!」
「え、痛・・・・・・ちょっと、なんでユニさんがキレるの・・・・・・」
「ほら、これとかパンもろじゃん。マジ翔くん最低!」
「ええ、俺・・・・・・?」
変身のときドロワーズとか履かせてくれるならまだしも、写真に写ってるのはあの日に履いてた柄そのままだ。
「どれどれ・・・・・・」
つむぎもわたしが見たのと同じ画像を覗き込む。
「あ、本当じゃん。ウケる。まぁ女の子に見せる画像じゃなかったかな・・・・・・」
「それは・・・・・・確かに・・・・・・」
つむぎに言われて、翔くんは酷く落ち込んだ様子だった。
「ね、ソラ・・・・・・。ソラ・・・・・・?」
ソラにも昨日のことを尋ねようと振り向く。
しかしどうもなんだか様子がおかしいような気がする。
どこか上の空というか、酷く疲れた様子だ。
「宇宙人なんて、居るわけないじゃん・・・・・・」
「・・・・・・ソラ?」
「あ、ユニ・・・・・・お、おはよう」
「え、うん。・・・・・・おはよう?」
ややテンポの合わない会話。
しかしそれがいつも通りなような気がして、だけどやっぱりなんか落ち込んでるみたいなのは気のせいじゃない。
「ソラ、なんかあった・・・・・・?」
「ううん・・・・・・いや、なんもない」
ソラが笑う。
しかし声のトーンは低いままだ。
「絶対嘘じゃん・・・・・・」
とはいえわざわざ聞くのもおかしい気がして、それで聞けなかった。
ひび割れたアスファルトの上、少女は立っていた。
隕石の落ちた場所を間近で見下ろし、携帯の家族写真に目を落とす。
「この重さを背負うのは、アタシ一人でいい」
すぐには戻らない、簡単には取り戻せない、毎日。
少女はそれが容易く瓦解することを知った。
携帯を握る手のひらに力がこもる。
その手首には、奇妙な装置が巻き付いていた。
日の光を受けて、銀色に輝く腕輪。
その中央部のリング。
それはこの星のものじゃない。
遠い空の向こうからやって来たその装置の名は、ユニオンリング。
「二人目・・・・・・?」
『ああ、そうだ。今の状態では私は完全ではない。能力もその大部分が失われている。だから二人目を探す必要があるのだ』
ユニオンは一人の人間に収まり切る存在じゃない。
だから複数人に散らばった。
それは既に出ていた話だ。
平常通りと言いつつ、学校は安否確認だけだった。
連絡のつかない人も多くて、後々からやっぱりって形で学校の予定も変わったみたいだ。
そういうことがあって、また早帰り。
自室に入るや否や、ユニオンが「二人目を探さなければならない」というようなことを言って来たのだ。
「二人目って・・・・・・どこに居るかとか分かるの?」
『それは分からない。けれども、この地球のどこかに居るはずだ』
「範囲・・・・・・」
ということらしい。
探す手段も、特別なものは無いということだ。
『ただ一つの可能性として、向こうもこちらを探しているかもしれない』
「そうだったらいいんだけど・・・・・・。いや、いいのかな・・・・・・?」
『ユニオンリングを装着している者は、君と変身後の君が同一人物であると認識出来る。そして君の勇姿は、今多くの人に知れ渡っている』
「勇姿・・・・・・ね」
パンツ晒したけれども。
これに関してはスパッツか何かで対応する必要があるだろう。
「とにかく・・・・・・見つけてもらうその日を待てばいいってわけだね」
それか、次の怪獣出現のときに当然のように二人目が登場するかもしれない。
『ユニ、君も探すべきだ。私たちは合流を急がねばならない』
「いやでも、流石にわたしたち側から探すのは無理あるでしょ・・・・・・」
『しかし・・・・・・。いや、見つけてもらうにしても、君が出歩いている方が出くわす可能性が高いだろう』
「それはそうかもしれないけど・・・・・・そんな時間・・・・・・」
今日学校は早帰りで、課題とかもありはしない。
今は多くの人がそれどころじゃないのだ。
つまり・・・・・・。
「そんな時間・・・・・・ある、か・・・・・・」
ただ無目的にふらつくのも難しいので、ついでにスパッツあるいは見せパンなるものを買いに行くことにした。
ついでにとは言ったが、なんならこっちが主目的まである。
隕石・怪獣被害はあれど、買い物先に困ることはない。
近くでもいくつかお店を知っていた。
とりあえずそれを全部回るくらいの気持ちでうろつけばいいだろう。
「どうせなら誰か誘えばよかったかな・・・・・・」
誘うとしたら・・・・・・ソラかな。
つむぎはいわゆる眩しいくらいの陽の者で、わたしからしたらちょっと気を遣わなきゃいけない相手でもある。
いや、全然つむぎは気にしないだろうけども・・・・・・。
学校で一番仲がいいのは、まぁ結局ソラかなと思ってる。
共通の話題とかあんま無いけど、いつも大体一緒に居るし、単純にいい子だから。
今日の様子がちょっと気になるのもあって、本当に誘ってもいいかもしれない。
後は、意外と翔くんもありかもしれない。
一応買いに行くのは下着だし、翔くんならきっといい反応してくれると思う。
ああいうかわいい男の子はからかい甲斐があるものなのだ。
あんなことがあったのに、街には変わらず車が行き交っている。
わたしのように歩く人も多くて、いちいち手首気にしてられないなと思った。
「やっぱ無理だよな・・・・・・」
空を見上げて、太陽の位置を確かめる。
日差しの強さに少しクラクラした。
「なんか、飲み物買うか・・・・・・」
すぐに飲み切れるくらいの缶ジュース。
暑さにやられてちゃ怪獣にも勝てない。
なんで正義の味方としての自覚芽生えてんだよ。
苦笑しながら近くの自販機を探す。
するとすぐに赤いやつが目に入った。
人の流れを横切るようにして自販機に向かう。
ラインナップは・・・・・・まぁあんまり好きなのは無いけど、悪くはなかった。
制服のポケットから小銭入れを取り出して、その口を開く。
「わっ、と・・・・・・」
思ったより勢いよく開いてしまい、中の小銭が飛び散ってしまった。
「あちゃー・・・・・・」
慌ててしゃがんでそれを拾い集める。
すると、横からにゅっとやって来た手が落ちてた小銭を拾ってくれた。
「あ、ありがとうございま・・・・・・」
すごく華奢で、細いというか小さい腕。
小学生くらいだろうか。
その可愛らしい腕に、見覚えのあるあれがあった。
『ユニ!』
「えぇ・・・・・・マジか」
ユニオンリング・・・・・・で、間違いない。
リングを捉えると、自然視線は顔の方に向く。
長めの金髪に、ちょっと悪い目つき。
最近の小学生は髪染めるんだな、なんて思いながら眺めてると、少女が口を開いた。
「おい、要らねぇのか・・・・・・これ」
「あ、もらう・・・・・・貰うね」
その手から慌てて小銭を受け取って、そして立ち上がった。
わたしの頭が少女の頭を追い越す。
それを中腰になってまた高さを合わせた。
「ね、ねぇ君・・・・・・ちょっといいかな?」
あれ、これマズくない?
なんというか、ちょっと事案じゃ・・・・・・。
しかし目の前の少女は、そんな不安を一言で吹き飛ばす。
「おい、てめぇぶっ殺すぞ。アタシは高二だ! その辺のガキと一緒にすんな!」
「うそ・・・・・・先輩じゃん・・・・・・」
「まぁいい。いいから、ちょっとついて来い。アタシも、丁度探してたところだからな」
「え・・・・・・?」
わたしの返事を待たずに少女は走り出してしまう。
人も多いし、このままではすぐに見失ってしまう。
結局飲み物を買う時間なんかなくて、急いでその小さな背中を追いかけた。
少女はどんどん迷いなく進んでいく。
そのルートがまた複雑で、一心不乱に追いかけるものだからもう帰り道も分からない。
そうしてたどり着いたのは、人気のない高架下だった。
「ここら辺まで来りゃいいだろ・・・・・・」
「えっと、え・・・・・・何?」
こんなところで一体なんだと言うのか。
それに少女は答えようとしない。
『ユニ! 気をつけろ!』
「へ・・・・・・?」
状況が飲み込めない。
気をつけろって、何に・・・・・・?
え、どういう・・・・・・。
困惑するわたしをよそに、少女は顔の横にバッと右手を持ってくる。
その手を左手で受け止め、リングを指で固定する。
そして・・・・・・。
「ユニオン・・・・・・」
ユニオンリングを捻った。
「え・・・・・・え?」
少女の体が光に包まれる。
その光の中から姿を現したのは、既に変身した少女だった。
髪と脚の装甲が赤く染まっている。
わたしのとはだいぶ違って、なんだかまるでロボットのようだ。
四角い腕に、胸を分厚い装甲が覆い隠す。
背中には何か背負っているようで、その影が正面からも見えた。
何よりも特徴的なのは、その脚。
太ももは丸出しだが、そこから先は大きく膨らんでいてバーニアのようなものが付いている。
まさしくロボットの足という感じだ。
変身しても身長は変わらず、それなのに二の腕もおへそも太ももも丸出しなせいで見ちゃいけないものを見ているような気持ちになる。
だがそんな格好も気に留めず、少女は話し出す。
「正義のヒーローは一人でいい。お前は、このアタシが倒す!!」
「は、はぁ!?」
何言ってんの、この子。
なんで・・・・・・?
え、どういうこと・・・・・・?
『ユニ! こちらも変身するぞ! 向こうは本気だ』
「え、いや・・・・・・なんで敵みたいになってんの?」
『それは・・・・・・分からない!』
「今日そればっかだな!」
とは言えこの有無を言わさない感じ、本当に変身しないとマズそうである。
少なくともわたしはわたしの身を守る必要がある。
「ユニオン!!」
わたしも対抗する形で変身する。
見た目だけなら向こうの方が強そうだ。
『ユニ! 相手は私から分離した、私には無い部分だ。だから私には出来ないことをしてくるぞ!』
「分かった・・・・・・」
何をしてくるかは分からないが、身構える。
今の相手は人間だ。
怪獣みたいにやっつければいいわけじゃないから単純じゃない。
「ふっ、それがお前のユニオンか。それじゃあ、こっちからいくぞ!」
少女が右拳を振り上げる。
そうして一気にこちらへ距離を詰めた。
「くっ・・・・・・!」
その拳を両手を交差させて受け止める。
派手に吹っ飛ばされたりはしないが、重い衝撃が体を走り抜けた。
「これだけだと思うなよ! アタシは! 徹底的に! お前の闘志を叩き潰す!」
背中の影が、少女の両肩に移動してくる。
その影の正体は、鈍く輝くキャノン砲。
「は・・・・・・?」
『ユニ! 避けろ!』
「え、あ・・・・・・」
ユニオンに言われて避けようとするが、ガッシリと腕を掴まれてしまう。
「ダークネスビーム!!」
瞬間、砲口から吹き出す光。
二本の光線が、わたしの胸に命中した。
「あぅっ・・・・・・」
それは照射され続けるが、腕を掴まれているせいで吹き飛ばされることもない。
ただその熱と苦痛のみがわたしを襲う。
『ユニオンセイバー!』
すると最初のときのように体が勝手に動く。
ユニオンリングから光の刃が生え、少女の左手を弾いた。
更にその丸出しのおへそにキックする。
そうすることでやっとビームが逸れて、少女がわたしから離れた。
「ごめんユニオン・・・・・・」
『大丈夫だ。君一人で戦わせはしない』
少女は蹴り飛ばされたお腹を押さえて舌打ちする。
「ちっ、だがな・・・・・・それはこっちだって使えんだ。ダークネスセイバー!」
「え、ちょっとユニオン! なんであいつわたしたちの技使えるの!?」
ユニオンの本来の力が分散しているなら、個々の出来ることは違う。
そういう話じゃなかったのか。
『ユニオンセイバーはいわば標準装備。だから彼女にも使えるのだろう』
「え、じゃあわたしも他に何か使えるってこと・・・・・・?」
『いや、私たちはこれ以上の能力は持たない!』
「は? じゃ勝てないじゃん!」
見た目通り、相手の方が強い。
それを今ユニオン本人が肯定した。
「ま、そういうこった」
少女の暗黒の光がわたしに迫る。
わたしはそれを同じ光の刃で受け止めた。
異色の光が火花を散らし合う。
そしてなんとか少女の刃を弾いた。
「よし・・・・・・!」
のけぞった少女に、更に蹴りを入れる。
経験の差か格闘戦ならややこちらの方が押している。
が・・・・・・。
「アタシの専門はプロレスじゃねぇんだわ!」
「な・・・・・・飛んだ!?」
少女は足からジェット噴射して、飛び上がった。
「ユニオン、わたしは飛べる?」
『無理だ!』
「そっか!!」
無駄に元気よく返事する。
少女は手の届かない高さ。
すなわち打つ手無しである。
「喰らえ! ダークネスミサイル!」
腕の装甲の内側から、ミサイルが出てくる。
空中からその腕をわたしに向けて、トドメの瞬間を味わうようにニヤリと笑った。
そしてミサイルが発射される。
両手から一本ずつ、計二本のミサイル。
避けようと後ずさるが、次の瞬間それが不可能だと悟る。
打ち出されたミサイルが、空中で小型のミサイルに分裂したのだ。
吐き出す煙がタコの足みたいに絡まる。
それを避けきることなんて当然出来ず・・・・・・。
「わ、あ、やぁぁぁぁ!!」
思わず腕を前に突き出すが、その程度の抵抗じゃ何の意味もなさない。
ミサイルの鋭利な先端が突き刺さるように迫る。
そして着弾と同時に、轟音と爆炎に包まれた。
衝撃に吹き飛ばされてコンクリートの柱に激突する。
「くっ・・・・・・」
一瞬息が出来なくなって、ちょっとそれにびっくりして涙目になる。
「っはぁ・・・・・・!」
呼吸が戻ってくると、やっと痛みを吐き出せた。
少女はゆっくりと空から降りてくる。
「無様だな」
「・・・・・・な、なんで・・・・・・」
今は全身痛くて、力が入らない。
そう少女に問うのが精一杯だった。
「理由なら最初に言った。ヒーローはアタシ一人でいい。お前みたいな弱いやつは、そこで這いつくばってろ」
だからどうしてそんなこと言ってるのかって聞いてるんだよ。
声に出すことも出来ず、ただ浅く呼吸を繰り返す。
そこにズシン、と衝撃が走った。
「こ、こんなときに・・・・・・」
この衝撃の重さ、少女のものじゃない。
この質量は、人間のものじゃない。
「出たか・・・・・・。問題無い、アタシが行くまでだ」
怪獣の姿は見えない。
けれど聞こえてくる叫び声から、そこまで遠くないことが分かる。
「ユニオン!」
少女は再びその言葉を口にすると、徐々に巨大化しながら街の方へ飛んで行った。
『ユニ・・・・・・大丈夫か?』
「大丈夫・・・・・・。ちょっと休めば、たぶんいける・・・・・・」
『もしかしたら今回ばかりは彼女に任せても大丈夫かもしれない』
「そう、だね・・・・・・」
あの子は、わたしよりずっと強かった。
戦いの場面では、本当にわたしは足手まといになるのかもしれない。
『ユニ、私は元々は一つの存在だ。完全に力を発揮するには、君の協力も彼女の協力も欠かせない。それだけは忘れないでくれ』
柱にもたれて座って、呼吸を整える。
コスチュームには傷一つ無いが、体は少し動かすだけで痛んだ。
「痛いのにも、ちょっと慣れない、と・・・・・・」
多少無理してでも立ち上がる。
わたしは昨日のわたしみたいに、当たり前の登校風景を守りたい。
つむぎみたいに、辛いことがあってもへこたれない人の明日を守りたい。
『ユニ・・・・・・』
それが、わたしを奮い立たせるんだ。
「わたし、行くよ」
『ああ』
息を思いっきり吸い込む。
酸素を胸いっぱいに取り込んで、肺を満たす。
「ユニオン!!」
叫び声を上げ、わたしも巨大化を果たした。
『怪獣は・・・・・・あれか・・・・・・』
巨大化すれば、その姿はすぐに見える。
扁平な石というか、生き物としては奇妙な見た目だった。
『地球上の生物で言えば、タコノマクラ辺りに酷似しているな・・・・・・』
怪獣の全身を包む殻のような外骨格の隙間から、紫色の触手が伸びる。
「な、なんだコイツ!?」
その触手が、さっきの少女を縛り上げていた。
『済まない。あれはタコノマクラではないな』
「そもそも大きさからして違うって・・・・・・」
当然見て見ぬ振りも出来ないので、身動きの取れなくなっている少女に近づく。
巨大化しても身長の差は同じままだった。
「お前! アタシ一人で十分だと言って・・・・・・」
「や、捕まってんじゃん」
ビームもミサイルも、硬い外骨格に防がれて効いていない。
「マジカルセイバー!」
光の刃で、触手を切り裂く。
そうすることで、やっと少女は解放された。
「ちっ、一個借りだな・・・・・・」
あまり素直な感じじゃないが、礼が聞けたのでよしとする。
後はこの怪獣を・・・・・・。
「わ・・・・・・」
突然、短くなった触手を振り回して怪獣が高速回転を始める。
まるでコマのようだ。
「のわっ!」
ドリルの時のように受け止めようとするが、形状が抱え込める形じゃないので上手く受けられない。
おまけにさっきのダメージもあって・・・・・・。
「あっ・・・・・・つぅ・・・・・・!」
丁度今一番痛いところに当たって弾かれてしまう。
「や、まず・・・・・・」
わたしの落下先には、住宅街。
なんとか避けたいが、体の自由が効かない。
すると、そんなわたしの体を少女が空中でキャッチした。
「お前が壊してどうする。これで借りは返した。そして、どうせ戦うなら役にっ、立て・・・・・・!」
「え、ちょ、おぉぉぉぉお!?」
いきなり少女に体をぶん回される。
訳わからないまま遠心力に振り回されていると、その勢いのまま怪獣に叩きつけられた。
「いったぁぁぁいっ!!」
「これで回転が止まったな!」
「ちょっと! これ貸しだよね!」
「知らん!」
しかし事実受動的な捨て身で怪獣の回転攻撃を止められた。
だがここからまた攻めあぐねる。
そして上に立っていると、段々足場・・・・・・怪獣が揺れ始める。
「こ、今度は何・・・・・・?」
『ユニ! この怪獣、浮いているぞ!』
「え・・・・・・?」
瞬間、怪獣が空中にわたしを置き去りにして高速で飛び上がる。
「しかも速い! あの見た目で」
わたしは落下し、代わりに少女が怪獣を追いかけて上昇する。
またしてもわたしは攻撃手段を失った。
空では円盤のような怪獣と、少女が追いかけっこをしている。
その逃げる側である怪獣が、殻の隙間から何かを放出した。
「え・・・・・・あれって、ミサイル?」
正確に言えば違いそうだが、それと同等の機能を持ったものを打ち出した。
少女もそれに応じて分裂ミサイルを発射する。
しかし怪獣の放出したミサイルは少女のミサイルを貫通して少女に迫った。
そもそもの性質が異なるせいで、相殺出来なかったのだ。
やがて怪獣ミサイルは、少女の四肢に噛み付く。
丈夫そうな装甲にも負けじと歯を立てていた。
しかし少女も負けない。
再びキャノン砲を構え、そして発射した。
その光線は怪獣の殻に当たって拡散する。
「ダメだ・・・・・・効いてない・・・・・・」
少女にも、どうやらもう打つ手が無いようだ。
そこに追い討ちをするように、噛み付いた怪獣ミサイルが輝き出す。
そして・・・・・・。
爆発した。
空中で膨れ上がる爆煙。
風向きに合わせて流れるそれを突き抜けて、少女は墜落した。
「ちょっとちょっと・・・・・・! これやばいって!」
急いで少女の元へ駆け寄る。
少女は「く・・・・・・そ・・・・・・」と掠れた声で言っていた。
上空から、再生した触手が降りてくる。
その一本一本が奇妙な光を帯び、そして一定間隔でそれを放出した。
それがビルや道路に命中するたび、小規模な爆発を起こす。
一瞬で火の海になるわけじゃないが、それも時間の問題に思えた。
「どうすれば・・・・・・」
怪獣がもう降りてくる気配は無い。
少女はもう飛べそうにない。
わたしに出来ることは・・・・・・。
『ユニ、ここまで来たら仕方がない。少し無謀かもしれないが、ユニオンするんだ!』
「え・・・・・・ユニオン? それはもうして・・・・・・」
『違う。彼女とだ!』
「え・・・・・・?」
彼女って、つまり・・・・・・あの彼女のこと?
名前を知らないからいい呼び方が出来ない。
『そうだ。君の中の私も、彼女の中の私も、元は一つの私。心を一つに。そうすればよりパワーを高めることが出来る』
「心を、一つに・・・・・・」
そんな、初対面の、しかも敵から始まった少女となんて・・・・・・。
目の前の傷ついた少女を見る。
その瞳に宿るものは、違うけど同じだった。
心を一つに・・・・・・出来るかもしれない。
だって、街を守るためにこんなにぼろぼろになって戦った少女なのだから。
「ねぇ、わたしに協力してくれる」
「な、何を・・・・・・」
簡単なこと。
一緒にこの世界を守るために立ち上がってくれればいい。
『さぁ、ユニ・・・・・・』
「ユニオン・・・・・・!!」
わたしと少女を、光が包み込む。
少女がわたしに流れ込み、わたしが少女に流れ込む。
消えない闘志が、再び激しく燃え上がる。
そうわたしは、わたしたちは・・・・・・。
「魔法少女メカニカルユニ・・・・・・!」
今この瞬間手にする、新しい力。
体に力が湧いてくる。
満たされていく。
「こ、これは・・・・・・」
少女の声が頭に響く。
「融合・・・・・・したのか・・・・・・」
その通り、わたしたちは融合したのだった。
ピンク色のコスチュームの上から、機械の装甲が装着される。
ピンク色の髪が赤く染まり、ツインテールが縦ロールになった。
銀色単色だったユニオンリングの細部に赤色が散りばめられる。
脚のジェットが唸りを上げる。
そうして、彗星のように飛び上がった。
「マジカルセイバー!」
高空からの落下と同時に、触手を切りつける。
そうすると再び怪獣は距離をあけようとした。
「マキナ! 力を!」
融合したことで、少女の名を知る。
その名を呼んで協力を求める。
「マキナ先輩だ!」
体を捻って、離脱しようとする怪獣に蹴りをぶつけた。
「「ブーストキック・・・・・・!!」」
そこから更にジェット噴射する。
その推進力を破壊力に転換し、ついに頑強な外骨格を砕いた。
白い破片が飛び散り、紫色の肉体があらわになる。
その砕けた部分から、一気に吐き出すようにミサイルを打ち出してくる。
噛み付く怪獣ミサイルだ。
わたしはそれにデコイを巻きながら上昇した。
下側から迫るミサイルたちが、ばら撒かれた光点に噛み付いていく。
そうやって、全てのミサイルを無効化した。
それに怒ったのか、急上昇しわたしに迫る。
それを更に上昇しながらギリギリまで引きつけた。
無数の触手が、わたしを捕らえようとうねりながら迫る。
こちらは胸部装甲の発射口をアンロックする。
その奥には、渦巻くエネルギーが赤く輝いている。
「いくよマキナ!」
「ちっ、しょうがねぇなぁ!」
初めての合体技。
守りたい思いを一つに・・・・・・!
「「必殺・ダークネスストライクッ!!」」
胸部発射口から打ち出されたエネルギー弾。
それに触れるまでもなく触手たちは消し炭になっていく。
放出された赤い光。
エネルギーの塊。
それが怪獣本体に命中すると、辺り一面が赤い光に照らされた。
その爆発は怪獣の全身を飲み込み、完膚なきまでに破壊し尽くす。
光が過ぎ去った後には、青空に怪獣の姿はなかった。
「結局、今回も街壊しちゃった・・・・・・」
マキナと一緒に、今日戦った場所を見下ろす。
昨日より被害は抑えられたが、それでもだ。
「お前が邪魔しに来なきゃ・・・・・・たぶん勝てなかったよ」
「何それ・・・・・・」
瓦礫の積み重なるこの場所に、ビル風が吹き込む。
その風が、小さな塵を舞い上げた。
「ねぇマキナ・・・・・・」
「マキナ先輩、な」
「先輩・・・・・・」
「なんだよ」
この景色。
守れなかったものは、わたしたちに重くのしかかる。
ユニオンした時に分かった。
先輩はそれを全部一人で背負おうとしていたのだ。
「・・・・・・疲れましたね」
今日の戦いで、何人の当たり前が守れただろうか。
何人の当たり前が壊れただろうか。
どちらからともなく口を開く。
「「絶対に一人で背負わせないから」」
「あ・・・・・・」
「え」
ちょっと気まずくなって、なんだか照れ臭くて・・・・・・。
それで誤魔化すみたいに、お互い笑う。
「生意気な後輩が出来たもんだ・・・・・・」
「先輩って、学校どこなんですか?」
「お前と同じ・・・・・・」
「え・・・・・・」
「なんだよ」
「それはちょっと・・・・・・」
嫌かも。
ユニオンリングの赤色は残ったまま消えない。
まぁそういうものなんだろう。
別に文句は言わない。
こっちの方が格好いいし、てか・・・・・・最初からダサいし。
ひとまず今日は・・・・・・。
「疲れましたね、ウルトラ」
「何だそれ・・・・・・」
続きます。




