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魔法少女が巨大化して何が悪い!

ゴールデンウィーク中に書き始めて、ゴールデンウィーク中に完結させようというチャレンジ(?)です。その成功・失敗も含めて暖かい目で見守ってくれると嬉しいです。

 始まりは偶然だった。

けれどそれが勝手に意味を持ち、この景色に命を生んだ。


「もーももーもーもーもも・・・・・・」


 夏の湿った空気に、私を歌う。



『やばうちの近所じゃんw』


『通学時間二倍になってワロタ・・・・・・いや笑えんわ』


『どんくらいだったの? 隕石って』



「もーももーもーもーもー」



『学校休みんなった! マジ隕石さまさまだわ』


『会社無くなったんだが、物理的に。マジどうしたら・・・・・・』


『え、ちょっと電車これ使えないじゃん』


『FF外から失礼。迂回バスが出てるらしいですよ』


『今年の夏暑くね? 隕石のせい?』



「もーもーもももーもーもーもー・・・・・・」



『隕石のせいでマジ人間多すぎ。これじゃ会議間に合わないよ・・・・・・』


『11歳の女の子です。その日の服装はこれです。もし見つけたら私に連絡してください。どうか、どうかお願いします』




 SNSをスクロールする手を止める。

どれも先日落ちて来た隕石についての話ばかりだ。

俺自身の愚痴もその一つになって流れていく。


「まじ人間多すぎ・・・・・・」


 少なくとも勤め先が被害を受けてないからまだマシと言えばマシだが・・・・・・。


「・・・・・・ここのやつ、俺以外みんないなくなればいいのに」


 マシと言っても、人の波に揉まれるのは嫌だ。

何十分も待ってるのに、そんな俺のことお構い無しに我先にとバスに乗っていく。

そんなやつばかりだ。


 それこそあの晩の隕石みたいに、ここの奴ら全員吹き飛ばしてくれればいいのに。


 そんな自分の思考の不謹慎さに、自分で笑った。




「ねーねー、ユニん家は大丈夫だった?」


「え? わたし・・・・・・は、大丈夫だったけど。ちょっと揺れて、窓割れたくらいかな・・・・・・」


「え、窓割れたの!?」


「割れた。うん、割れた。つむぎは?」


 近所に隕石が落ちた・・・・・・らしい。

その被害は甚大で、ニュースには壊れて窪んだ街の空撮と行方不明者や死者についての情報が出てた。

にも関わらず、わたしたちの学校は平常運転だ。


 今話してるのはつむぎ。

高校に入って初めてわたしに話しかけてくれた人で、今でもその関係は続いてる。

入学からしばらく経ってそこから輪も広がって、今ではわたしとつむぎ、その彼氏の俊介くんとその友達の翔くん、それとわたしが話しかけたソラって女の子と一緒だ。


 隕石で電車通学の人は大変みたいだけど、わたしたちは徒歩なので何も変わらないいつも通りのテンションだ。


「それでさ、マジやばいのがさ。なんか隕石のとこの近くでウシの耳がついた人間が居たーってさ・・・・・・」


「何・・・・・・俊介そんなの信じてるの? あの、宇宙人が車に轢かれて病院に搬送されたってやつでしょ」


「それで病院から脱走した」


 つむぎの言葉にソラが付け足す。

その話なら、わたしもなんとなく聞いたけど・・・・・・。


「でもぶっちゃけどう思う、ソラ?」


「ウルトラやばい」


「・・・・・・何それ?」


「まぁ・・・・・・宇宙人なんて居るわけないじゃん」


「ねぇ、やっぱそうだよね・・・・・・」


 鞄を背負い直して、歩道橋の階段を登る。

その歩道橋からビルの隙間を覗けば、実際に落下地点の様子が少し見えるのだった。


 その景色に、思わず立ち止まってしまう。

わたしが立ち止まったせいで、後ろにいるソラも歩を止める結果になった。


「あの・・・・・・ユニさん、何してるの? みんな行っちゃうよ?」


 前の方から翔くんに呼ばれる。

つむぎと俊介くんはどんどん先に進んでしまっていた。


「ごっめん。行こ、ソラ」


「あ、うん」


 余談だが、翔くんはわたしのことを狙ってるらしい。

つむぎから聞いた。

たぶんつむぎは俊介くんから聞いたんだろう。


 翔くんはまぁどっちかって言うとかわいい系の男の子で、正直わたしの好みじゃない。

わたしもつむぎと同じで面食いなとこあるし、なら俊介くんの方が・・・・・・。


 駆け足で前の三人に近づく。

その瞬間、空で何かが光った気がした。


「・・・・・・」


 不意に見上げるが、何も見えない。

あるのは快晴の空だけだ。

たぶん気のせいだったのだろうと、気にかかることは無かった。


「でさー・・・・・・あ、ソラさんはどう思う? 宇宙人」


「わたしが思うに、宇宙人じゃなくてUMAだよ、あれは」


「え、ゆー・・・・・・何?」


「つむぎUMA知らんの? やばいじゃん。ウケる」


 カップルのやりとりを見て、ソラが微笑ましそうに笑う。

わたしとしてはやや妬ましいけど。

見せつけやがって、爆発しろ。


「てかソラ・・・・・・UMAは信じるんだ・・・・・・」


「え・・・・・・いや、そういうわけじゃ」


「ウルトラやばい」


 同じ言葉で茶化す。


「何それ・・・・・・」


「ソラが言ったんじゃん」


「ふふ、ウルトラスーパーやばい」


「やばやばじゃん」




「ダメか・・・・・・なんもありゃしないな。本当に、何も・・・・・・」


 崩れた街。

隕石が大地に大穴を開けて、倒れた残骸が積み重なって居る。


 今は有害物資が云々という話で、実質救助活動は打ち切られている。

アタシが今立っている地面に、何人の亡骸が眠っているか分からない。


 落下地点の足場は悪い。

そりゃそうだ、人が歩くように出来てない。


「これ以上下には降りられそうにないな・・・・・・」


 スマホの画面に目を落とす。

ロック画面の家族写真の上に時計の表示が乗っかっていた。

授業はもうとっくに始まっている。


 その写真を見て、スマホを強く握りしめる。

昨晩の雨でぬかるんだ地面にしゃがみ込む。


「何も見つからないな、本当に・・・・・・」


 アタシの家があった場所は、どこら辺だろうか。




「あれ、ユニ・・・・・・学校どうしたの?」


「早帰りー。なんかやっぱ隕石で色々あるみたい」


「色々って、あんたねぇ・・・・・・そこが大事なとこでしょーが」


「お母さんうるさーい」


 あの後、結局ろくに授業はしなかった。

簡単な連絡事項とかで終わったのだ。

何人か、来てない人も居た。

安否がわからない人も居るらしい。


「じゃお母さん、わたし部屋戻るね」


「あーちょっと! 暇ならお昼手伝いなさいよ! ちょっと! ちょっとユニ!」


 お母さんの声を聞きながら、階段を登っていく。

わたしの部屋に入って、そして制服のままベッドに倒れ込んだ。


 イヤフォンで耳を塞ぐ。

家を出る前に見てた動画を続きから再生して、あくびをした。




「ただいま・・・・・・って言っても、誰も居ないか」


 薄暗い部屋の電気を点ける。

高校入学と一緒にわたしは一人暮らしを始めたのだ。

と言っても、自立心とかじゃなくて知り合いから離れたくて遠くの高校を受験しただけだ。


 荷物を入ってすぐのところに置いて、極端に物の少ない部屋の中央に向かって歩く。

新しい蛍光灯がやたら眩しい。


「わたし・・・・・・なにも変わってないじゃん・・・・・・」


 高校に入ってから茶色く染めた髪を指でつまむ。

あまり気に入ってなかった。


 カーペットの上に仰向けになって、携帯を持ち上げる。

点灯した画面には『ソラ大丈夫?』とか『連絡して』とか両親からのメッセージの通知でいっぱいだった。

引っ越し早々近くに隕石が落ちたんだから、心配なのは当然か。


「心配かけないようにって、思ったのにな・・・・・・」


 髪が重力に引っ張られてぱさりと頬を撫でる。

流れ動作で、連絡を繋ぐ。


「あ・・・・・・もしもし、お母さん? わたしは・・・・・・大丈夫、だよ・・・・・・」


 寝返りをうつみたいに、体を横向きにする。

すると見慣れないものが落ちているのに気づく。


「何これ・・・・・・光の、球? え、なに・・・・・・あった、かい・・・・・・?」


『ソラ? どうしたの?』


「え、いや・・・・・・なんでも、ない」




 カツーンと、何かの落ちる音に目が覚める。

体を起こしてすぐに体は揺れを感知した。


「え、何・・・・・・地震?」


 気がつけば夜。

そこそこ大きな揺れに、ぐわんぐわん照明が揺れてる。

落ちそうでちょっと怖い。


「ユニー! 大丈夫?」


「あ、お母さん! ねぇ、震度何?」

 一階から届く声に聞き返す。


「分かんない! 携帯も鳴んなかったし。まったく本当に警報役立たないわね・・・・・・」


「確かに・・・・・・」


 全然鳴らないし、鳴っても大体揺れが来た後に鳴るもんな、あれ。


「あ、そう言えば・・・・・・」


 何が落ちたんだろうと部屋を見回す。

特に何も置いてない床に落ちているから、それはすぐに見つかった。


「うっわ、なっつ・・・・・・!」


 それは子供の頃見てたアニメの変身アイテムだった。

化粧ケースを模したピンク色のやつ。


「こんなのまだとってあったんだ・・・・・・」


 どこから落ちたのかも分からないそれに手を伸ばす。

そしてそれを拾おうとすると・・・・・・。


『ユニ! 君の力が必要なんだ!』


「え、声・・・・・・!?」


 いきなり声が響いた。

思わず周りを見回すが、誰も居ない。


「え、て言うか・・・・・・これ?」


 もう一度その変身アイテムに目を落とす。

な訳ない。

と言うか完全に世界観が違う。

聞こえたのは、こう・・・・・・ハンサムな感じの男の人の声だ。

魔法少女の変身アイテムから聞こえていい声じゃない。


 しかし・・・・・・。


『ユニ! 君の力を貸してくれ! この世界を救うんだ!』


 頭の中で声が響く。


「え、待って嘘・・・・・・ちょっとなんで、なんで、なんで・・・・・・え?」


 流石に困惑して、変身アイテムを手に乗せたまま部屋をうろうろしてしまう。


「え、誰? 何?」


『私は不完全思念体・ユニオン。外の惑星からやって来た・・・・・・いわば宇宙人だ』


「え、ちょっと・・・・・・ウルトラやばいやつじゃん」


 あーっと、それはUMAだったか。

いや、宇宙人もUMAも居るわけないじゃん。

で、じゃあこれは・・・・・・?


「えっと・・・・・・え・・・・・・?」


 変身アイテムに向かって何か聞こうとするが、言葉が出てこない。

何もかもが突飛すぎて、頭が追いつかない。


『あ、済まないが、そのおもちゃは私と関係ない』


「え、あ・・・・・・そなの・・・・・・」


『私は既に君の体と融合している。入りきらなかった分は・・・・・・きっと別の誰かに散らばっただろう』


「あ、そうなんだ・・・・・・。じゃあユニオン、さん? は・・・・・・え、ちょっと待って融合!?」


『済まない』


「え? え? え!?」


「ユニうるさーい」


「あ、ごめんお母さん・・・・・・じゃなくて!」


 融合?

わたしと、その不完全ふんたらかんたらが?

融合?

無許可で?


『済まない』


 唐突に降って来た運命に頭が真っ白になる。

宇宙人は居た。

そしてそれを宿すわたしは解剖とかされるのだろうか。

いや・・・・・・。


「これ・・・・・・いや、疲れてるんだ、わたし・・・・・・」


『ユニ・・・・・・?』


 隕石のせいでちょっと環境変わったし、それで疲れてるんだ。

きっと。


『ユニ、地球が今・・・・・・』


 疲れてて、それで幻聴を聞いてる。

うん、きっとそう。

ウルトラ的なマンの話はなんか結構俊介くんが好きらしいし、その話を聞いたせいでそれっぽいやつなんだ。

うん。


 ふらふらと、ベッドに向かう。

疲れてるとき、やっぱり一番いいのは寝ることだろう。


 さっきまで寝てたから正直あんまり眠くないけど・・・・・・。


「お、おやすみなさい・・・・・・」


 枕に顔を埋めて、色々シャットアウトした。




「・・・・・・で、何これ・・・・・・」


 一晩明けて、翌日の朝。

今日は学校もちゃんとある。

こうやって少しずつ日常に戻っていくはずなのに・・・・・・。


「なんか、生えてる・・・・・・」


『おそらく昨日の地震の原因だろう』


 昨日までは無かったもの。

ビルの並ぶ中に、明らかに異質なものが生えている。


 円錐形の、巨大な何か。

ビルと同じくらいの高さのそれは、まるで鍾乳石のような鋭いものだった。

大きさが無茶苦茶だけど・・・・・・。


「・・・・・・」


 絶句である。

もはや何も言えない。


 幻聴も消えないし、じゃあ次は幻視だろうか・・・・・・。


『ユニ、このままでは遅刻するぞ』


 だが流石に自分を疑うのもそろそろ辛くなってきた。

どうしようもなく、この声がこれが現実だと囁いている。


「と、とりあえず・・・・・・学校? なの、これ? わたしが今することこれで合ってる?」


 誰に聞いたわけでもないが、少し返事を待ってみる。


『今はあれの正体が分からないし、危険なものかも判断出来ない。私も必要以上に君の生活を侵害するわけにはいかない。だから学校に向かって構わないだろう』


「・・・・・・。そうですか・・・・・・」 


 まずお前の正体がなんだよ。

あれ、昨日言ってたか・・・・・・?

いや、それにしたって・・・・・・。


「はぁ・・・・・・」


 訳の分からない状況に頭を抱える。

思考を放棄したわたしは、とりあえず学校に向かうことにした。




「なぁ、何あれ・・・・・・」


「なんか・・・・・・あれ、ね。俺もびっくりしたよ」


 いつもの待ち合わせ場所で、俊介くんと翔くんが謎の物体を見上げていた。


「あれ、やっぱりみんなにも見えるんだ・・・・・・」


 現実確定。

まさか自分が狂ってることを期待する日が来るとは思わなかった。


「あれ、てか今日・・・・・・つむぎは?」


「あ、今日あいつ休み。昨日の地震でなんかちょっと怪我したらしい」


「え、マジ・・・・・・。大丈夫なの?」


「ま、大したことないってさ」


 わたしと俊介くんが話してるのを見て、翔くんの目が泳ぐ。

つむぎに言われるまで気づかなかったけど、あからさまに意識してる。

本当にわたしのこと好きなんだ・・・・・・。


「みんな、ごめん遅れた!」


「あ、ソラ・・・・・・」


 やがてソラが息を切らしながら駆け寄ってくる。

そしてすぐにソラもわたしと同じことを言った。


「あれ、つむぎさんは?」


「「今日休みだって」」


 俊介くんとタイミングが重なって、ちょっと音がごちゃごちゃしてしまう。


「あ、そう、なの・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・」


 肩で息をしてるソラは問題なく聞き取れたようだった。


「あ、ほら・・・・・・じゃあ揃ったし、行こうか・・・・・・」


 翔くんに急かされて出発する。

俊介くんを先頭に、のろのろ歩き出した。


 こういうタイミングでは、あの声は聞こえない。

もしかしたら空気読んでくれてるのかもしれない。


「ね、なぁ・・・・・・今日学校終わったらさ、あれ見に行かね?」


「お、マジかぁ? やめときなって」


 俊介くんの冗談だかそうじゃないのか分からない言葉にソラが笑う。


「あれ・・・・・・かぁ・・・・・・」


 流石に近寄りたくはない。

なんだか嫌な予感というか、頭の中の声と関係ありそうだし。


「ユニさんも・・・・・・気になる?」


「え、いや・・・・・・ちょっとぉ・・・・・・」


「だ、だよね。危ないと思うし、あんなおっきいの」


 わたしの受け答えに翔くんは曖昧に笑う。

たぶんわたしが興味あるって答えたら、それに合わせたんだろーなーとすぐ分かる表情だ。

ちょっとからかいたくなっちゃう。


「でも実際・・・・・・ウルトラやばいよね」


「ちょっとユニ、それわたしの・・・・・・!」


「ごめんごめん・・・・・・」


「いやまぁ全然いいけどさ・・・・・・」


 こうやって話している間も、やっぱりみんなあの謎の物体から目が離せない。

動くわけじゃないけど、どうしても気になってしまうのだ。


 隕石といい、地震といい、あれといい・・・・・・なんだか悪いことでも起きそうだ。

いや、もう何か起きてるのかも・・・・・・。


 昨日の言葉を思い出す。

わたしの力が必要。

地球がなんたらかんたら・・・・・・。

わたしに特別な力なんて無いのに。


 やがてあの歩道橋に差し掛かる。

階段を登って見る、いわゆるクレーター(・・・・・・でいいのだろうか)は相変わらず大きな存在感を放っている。

それに添えられた謎のトンガリも、ここからならよく見える。


 そして、変化はあまりにも唐突に訪れる。


「え、あ・・・・・・」


「あれ・・・・・・」


 何もかもが唐突で、もう意味が分からない。


「ひら・・・・・・いた?」


 鋭くそびえていた柱が、三つに割れた。

花開くみたいに、パカーって。


 その時点で嫌な予感はしてた。

外れてた方が嬉しいその予感は、裏切られることはない。


『ユニ! 君の力が必要なときだ! あれは・・・・・・』


「ちょっと何言って・・・・・・嘘・・・・・・」


 地響きと一緒に、砂埃が舞い上がる。

その振動に、あの謎の物体の周辺のビルが傾く。


 いや、揺れで傾いたんじゃない。

その下の地面が崩れていっているのだ。


「おい・・・・・・ちょっとあれ・・・・・・」


 俊介くんが地中から現れたそれに目を丸くする。


「UMA・・・・・・って規模じゃないね・・・・・・」


 ソラの表情も引き攣っていた。

みんなどうしたらいいか分からない顔だ。


「かい・・・・・・じゅう・・・・・・」


 俊介くんがぼそりとつぶやく。

それが指すのは、間違いなく地中から現れたあれのことだ。


 土に汚れた茶色い体表の、巨大な恐竜のような生き物。

二本の足で立ち上がり、丸太のように太い尻尾を振っている。


 その両腕と頭部には、謎のトンガリを形成していた硬質で鋭い外骨格。

次の瞬間、その鋭い外骨格を剣のように振り回してビルを薙ぎ倒した。


「お、おわぁっ・・・・・・!? ちょ、マジかよ!」


 俊介くんは前のめりになってあり得ない景色にくらいつく。

ぶん殴られたビルからは、大量のガラスの破片が塵みたいに吹き出していた。


『ユニ! 君の力が必要だ! 協力してくれ!』


 だから、お前はなんなんだ。

わたしにどうしろって・・・・・・!


『ユニ、済まないが君の体を借りる。私たちは急がねばならない』


「え、ちょっと・・・・・・借りるって? 訳わかんないんですけど・・・・・・」


「ユニ・・・・・・?」


 様子のおかしいわたしに、ソラが首を傾げる。


「だい、じょうぶ?」


 その心配をよそに、わたしの体は勝手に走り出した。


「え、ちょっと! ユニさん・・・・・・!?」


 慌てた様子で翔くんが名前を叫ぶが、わたしを止めることは叶わない。

わたし自身、それが出来ない。


 ものすごいスピードで、階段を駆け降りる。

その動きの機敏さ、正確さ、全然わたしのものじゃない。


 逃げ出したいくらいなのに、勝手にあの恐竜がいる方に向かって走って行ってしまう。


「ちょっと、ちょっと、ちょっと! 嘘、うそ、うそ、うそ・・・・・・!」


『大丈夫だ。最初は私に任せてくれて構わない。あの怪獣を・・・・・・私が倒す』


「いや、いやいや、どうぞ一人で行ってくださいよ!」


『済まないがそれは出来ない。私は不完全思念体・ユニオン。この星を脅威から守るためにやって来た。しかし私自身は実体を持たないから、君たちの力を借りる必要があるんだ』


「いや、困る困る困る。困ります!」


 そんなわたしの願いは届かず、人間には絶対出せないスピードで怪獣に近づいていく。

気がつけば、もう見下ろしていたあのビル街だ。


 そしてすぐそばに・・・・・・。


「居るし・・・・・・!」


 ビルの影からのっそり姿を現す、怪獣。

その黄色い瞳がこちらを見た、気がした。


「ひ・・・・・・」


 わたしが臆したところで、関係なく体は更に距離を詰める。

逃げ惑う人々の流れに逆らって、巨大な生き物の方へと向かってしまう。


『ユニ、では行かせてもらう。ユニオン!!』


「うっわ、何? うっさ・・・・・・!」


 急に頭の中の声が叫ぶ。

その瞬間、正面から風が吹いてきた。


 その強風が、わたしの髪を揺らす。

しかし発生源が分からない。


「てか、え・・・・・・まず・・・・・・。足! ねぇ来てる! 踏み潰される!」


 喚くわたしをピンク色の空気が包む。

その空気は風に乗って帯のようになびき、わたしの体にまとわりついた。


「え・・・・・・これ・・・・・・」


 知らないけど、知ってる。

こういうの、知ってる。


 幼い頃見てたテレビアニメ。

魔法少女への、変身。


 風に揺れる髪が、ピンク色に染まる。

それは同じくピンク色のリボンで束ねられ、ツインテールになった。


 それだけじゃない。

着てた制服は光の粒子になって散る。

そしてその粒子は形を変えて再びわたしの身を包んだ。


 ふんわりひらひらの、ピンク色のコスチューム。

右手首にはそれに似つかわしくないゴツい銀色の腕輪が装着されていた。


「魔法少女・・・・・・って、これがあんたなの・・・・・・?」


『いや、君の心の在り方と同期しただけだ。つまりこの姿が、君と私の最適の・・・・・・ユニオン!!』


「え、てか・・・・・・足・・・・・・!」


 いつのまにかわたしの体が影に覆われている。

あまりにも巨大すぎてなんだか分からないが、それは怪獣の足の裏で間違いないだろう。


『ユニ、いくぞ!』


「え、いくって・・・・・・」


 いくら疑問に思ったって、体は勝手に動く。


『サイコシールド!』


 迫る巨大な足。

それを私の体は逃げるでもなく受け止めた。


 いや、正確に言えばそうではない。

構えた腕輪から展開された透明な障壁が怪獣の足を阻んだのだ。

だが・・・・・・。


『くっ・・・・・・今の私ではこの力は扱えないか・・・・・・』


 怪獣の足を受け止めた瞬間、シールドに大きくノイズが走る。

なんとかギリギリ受け止めている。

まさしくそんな雰囲気だった。


「ねぇ、これマズいんじゃないの?」


 途方もないサイズ差があるから、本当ならこれを受けられているだけですごいのだが、しかしもうもちそうにない。


『ああ、マズい。やはり君の力が必要なようだ・・・・・・』


「そんなこと言ったってどうすれば・・・・・・」


『ダメだ。一度逃げるぞ!』


 シールドが消える。


「え・・・・・・」


 その一瞬で一気に肝が冷えるが、わたしの体は素早く足の下から滑り抜けた。

そしてその速度を維持したまま、怪獣から離れる。


「ねぇ・・・・・・てかこれ、わたしこんな格好してるの見られたら・・・・・・」


『大丈夫だ。変身中は人々は君を君だと認識出来なくなる。謎の魔法少女にしか映らない』


「いや、それもヤなんだけど・・・・・・」


 しばらく走ると、突然姿が元に戻る。


「あ、あれ・・・・・・いいの?」


『私一人だと消耗が激しい。あの怪獣と戦う時のために温存しておかないと』


「戦うって、あれと・・・・・・」


『ああ。それは私の、そして君の役目だ』


 怪獣はその巨体と、両腕と頭部の外骨格を武器に街を蹂躙している。


「わたしの、役目・・・・・・? わたしが・・・・・・」


 どうしてわたしなのか、本当にわたしじゃなきゃいけないのか、逃げたい思いが込み上げる。


『見るんだ。君も、このままでいいとは思わないだろう』


「そ、それはそうだけど・・・・・・何、自衛隊とか、そういうのが・・・・・・」


『君だけだ。今ここに居て、戦えるのは』


「そんな・・・・・・」


 そんなことを言われたって、あんなの無理だ。

わたしよりたぶんずっとわたしに憑いてる宇宙人は強いし、それであんなだったんだから勝てるわけない。


「つむぎ、つむぎ・・・・・・!」


「ちょっと俊介! マズいって・・・・・・!」


 いつもより数段鋭敏になった聴覚が、聞き覚えのある声を拾う。


「え・・・・・・」


『ユニオン千里眼!』


 わたしの瞳が、その間の距離と、障害物を超えてその姿を捉える。

俊介くんと翔くんだ。


「そんな、どうしてここに・・・・・・」


『あれは、君の友達だね?』


「・・・・・・」


 俊介くんはつむぎの名を叫びながら、必死に辺りを駆け回っている。

それをなんとかこの場所から引き剥がそうと、翔くんが肩を引いていた。


「つむぎの家・・・・・・ここら辺なんだ・・・・・・」


 怪我・・・・・・。

どこを怪我していたのかは知らないけど、もしかしたらまだ逃げられていないのかもしれない。


 俊介くんは携帯を握りしめている。


「連絡・・・・・・つかないんだ・・・・・・」


 追い討ちをかけるように、状況は悪くなる。

怪獣が、だんだん俊介くんたちのところへ近づいてきているのだ。


『ユニ。本当に済まないと思っている。だけど、これは君にとってチャンスでもあるんだ。今、彼らを救えるのは君だけだ』


「でも、だって! わたしどうしたら・・・・・・」


『変身するんだ。君の意思で。その右腕の・・・・・・ユニオンリングを使って』


 装着された腕輪に視線を落とす。

これだけは変身が解除された後も、そのまま残っていた。


 ごちゃごちゃした銀色の装置が、同じく銀色のリングでわたしの手首に巻き付いている。


「ユニオン、リング・・・・・・」


『そうだ』


「でも、あんな大きいの・・・・・・」


 言っている間にも、怪獣は二人の居る場所に迫る。

怪獣からすれば、わたしたちなんてありんこ同然。


『開き直るのだ。魔法少女が巨大化して何が悪いと! 私はもっとも適性のある者と精神融合する、いわばユニオンの核だ。自分を信じて! ユニ、君なら出来る!』


「わたしなら・・・・・・」


 あの二人を、救える? 

本当に・・・・・・? 


 いや、違う。

救うんだ。


 分かったよ。

確かに今わたしが握ってるのは不運じゃない。

二人の運命を変える、チャンスだ。


 魔法少女が巨大化して何が悪い。

同じ大きさになって、戦えばいい。

それが出来ると、ユニオンが言っているのだ。


 なら、わたしがここで立ち尽くしていていいわけがない。


「分かった」


 覚悟を決める。

目を閉じて、そして開く。

今だけは怖い気持ちを眠らせて、走り出すのだ。


 両腕をガバッと前に突き出す。

真っ直ぐに伸ばした腕。

右手のユニオンリングを左手で押さえる。


『さぁ・・・・・・! いくぞ、ユニ!』


 息を吸う。

そして、喉を引き裂いてしまいそうな勢いで叫んだ。


「ユニオン・・・・・・!!」


 左手で押さえたユニオンリングを、捻る。

その瞬間再び吹き始めるピンク色の風。


 変身の完了をただ待つだけじゃない。

その風に飛び込んで、走る。


 一歩進むたび、またあのコスチュームに変わっていく。

それと一緒に、段階的にわたしの体も大きくなっていく。


 そして、あの怪獣とあいまみえるときには、それと同等の身長になっていた。


「「魔法少女ユニ!」」


 ユニオンと一緒に叫びながら、まだ走り続ける。

速度を殺さないまま、飛び上がる。


「とぉりゃぁぁぁぁぁ!!」


 ふりふりしたミニスカートが風に膨らむ。

目の前の怪獣の、その黒ずんだ腹部にドロップキックした。


 全体重を乗せた一撃は、怪獣の体を吹き飛ばす。

なぎ倒れたビルの残骸の上に、受け身なんて知らない怪獣は派手に倒れた。


『重い! いいぞ、ユニ!』


「ちょっとそれ! 女の子には禁句だから・・・・・・!」


 わたしも体を起こして、まだ立ち上がることの出来ない怪獣に追い討ちをかける。

その腕を掴んで、そして・・・・・・。


「いけるか・・・・・・いや! やってやる!」


 その巨体を持ち上げて、背負い投げをした。

初めてやったのに、綺麗に決まる。


「やった!」


 しかし今度は怪獣が上手いこと着地してしまう。


「きゃっ・・・・・・!?」


 そしてわたしが掴まえた腕を振り回してわたしをビルの側面に叩きつけた。


「ちっくしょう!」


 顔を上げると、怪獣が大きく口を開いている。


『ユニ! 危ない!!』


「え・・・・・・」


 怪獣の口内がオレンジ色の光で照らされる。

至近距離で発射された火球は、わたしの胸を撃ち抜いた。


 その衝撃に、激しく後ろに吹き飛ばされる。

背にしたビルは完全に瓦礫になってしまった。


「いったぁ・・・・・・」


『ユニ、来るぞ!』


 わたしが立ち上がっていると、怪獣は既に次の攻撃の準備をしていた。

頭と腕の外骨格が、最初のように再び一つにまとまる。


「あ、あれってまさか・・・・・・」


『ドリルだと!?』


 鋭い円錐形を高速回転させながら、怪獣がダバダバ走ってくる。

間の距離はすぐに埋まる。


『ユニ! 堪えろ!』


「分かってる・・・・・・!」


 避けない。

そのドリルを、自らの腋に抱える。


 わたしが押さえつけても、それは回転を続けて火花を散らした。


「ぐぅっ・・・・・・!」


 正直かなり痛い。

けど街の被害はそれどころじゃない。


 踏ん張って突進の勢いを止める。

ドリルさえも、キツく締め付けて・・・・・・。


「止めるっ!!」


『よくやった、ユニ!』


 更に回転の止まったドリルをホールドしたまま!


「よい、しょおっ!!」


 もう一度その巨体を持ち上げる。

そしてその遠心力のまま地面に叩きつけた。


 もちろんここで終わらない。

左腕でドリルを固定したまま、そこに右肘を打ち込む。

その一撃は怪獣の外骨格を粉砕した。


「よしっ・・・・・・うわっ!?」


 怪獣の反撃を喰らう。

振り払われた尻尾にすっ転ばされてしまった。

また街がそれで壊れる。


「もうこれ以上は・・・・・・」


 立ち上がった怪獣を睨みつける。

その口には再びオレンジ色の光が灯り始めていた。


「ねぇ、ユニオン・・・・・・なんか武器とか無いの・・・・・・?」


 これ以上肉弾戦を繰り広げれば、わたしが俊介くんたちを踏み潰しかねない。


『無い・・・・・・こともない!!』


「分かった!」


 それが分かれば十分。

怪獣が火球を吐く前に、駆け寄る。

そしてそのぶよぶよした腹に、拳を打ち込んだ。


『腰の入ったいい一撃だ』


 だが、まだ!

ここからが本番だ。


「マジカルセイバー!」


 打ち込んだ右拳。

そこに装着されたユニオンリングから、光の刃が伸びる。

それは怪獣の腹部に突き刺さった。


 そしてそれを振り抜く。

怪獣の体から血液のように火花が飛び散った。


 大きく怯んだ怪獣に、密着するように迫る。

完全に懐に潜り込み、そこから斜めにマジカルセイバーを切り上げた。


 それは怪獣の首を跳ね飛ばす。


『やったぞ! ユニ!』


 そこに確殺するために、ジャンプして残った胴体も両断した。


 その胴体が真っ二つに割れると、遅れて起こる爆発。

怪獣の命が爆ぜる。

その吹き上がった炎の光が、わたしと街を照らした。

続きます。

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