#26 月夜の使者
夕暮れを超えて、世界が薄紫色になる頃。
湊とリリーは藤の蔓がたっぷり壁面に絡まる白い建物の前に着いた。建物の壁には大きく魔法陣が書かれていて、藤にはこの寒いと言うのに葡萄のような花がいくつも咲いていた。
「イシュワさんの寮はこちらです!」
ジャン、とリリーは寮に向けて手を伸ばした。
平文の寮と違って長方形の建物で、道の方に向かっていくつもバルコニーが付けられていた。
「祖父ちゃんの寮は行ったことなかったのに、イシュワの寮は知ってたんすねぇ」
「はひ!何と言っても、ここには私も暮らしてましたから!」
「あ、ここリリの寮か」
「そうなんです!なので、帰る時に少し荷物を持っていきます!」
「そうだね。必要なもん多少持ち込もうか」
リリーが赤い愛らしい扉を押して入って行くと、湊もそれに続いた。
「問題はイシュワさんのお部屋の鍵がないことです」
「確かに。ドアノブの指紋だけでも確認しよう」
「一応、窓から入れるか試してみましょうね」
「窓からか……」
慣れた足取りで三階に上がり、リリーは自分の部屋の扉を開いた。
「どうぞ!」
湊は侵入を若干ためらった。女子の部屋だ。
(――小娘小娘)
心の中で呪文のように唱えてから扉をくぐった。
L字型の部屋の中は小綺麗にされていて、部屋に入って右手には低めのロフトが付いていた。ロフトの上にはベッド、下には本棚と執務机。
バルコニーの近くにはミニキッチンと囲炉裏暖炉があり、窓の側にテーブルクロスが掛けられたダイニングテーブル。椅子は二つ。
ソファは一人掛けのものが二台、楕円のテーブルの側に置かれている。シンプルな部屋だ。
広さだけで言えば平文の部屋の方が倍近く広いし、庭もあるので良い部屋だが、ゾーニングされているというのは何となく落ち着く。ロフトで寝るというのも秘密基地感があって良い。
「へぇ〜、良い部屋ですねぇ」
「えへへ、結構気に入ってます。初めての私だけのお家です!」
「拠点、祖父ちゃんの部屋よりこっちの方がいいんじゃないですか?上のベッドでリリが寝て、イッサ様と俺が下で寝れば、三人で川の字よりよっぽど良い気がするんですけど」
リリーはすぐに首をプルプルと左右に振った。
「そ、そんな。一人で暮らすには良いですけど、ちょっと三人には狭いと思います」
「ふーむ……。祖父ちゃんの家の方が広さはあるけど、寝られる場所は少ないからな……。あの部屋」
「今日からは湊様とバウマン様だけでベッドをお使いください。私はソファで寝ます!」
「させられないってーの」
ギュッとリリーの頭を押し、湊は小さな半円状のバルコニーに出てみた。
「それで?イシュワの部屋って隣とか?」
「いえ、二階の隣です!」
リリーが指さしたところは隣の部屋の真下だった。
「……これ、無理でしょ」
「私が行って来ます!」
リリーは手摺りをひょいと跨いで乗り越えてしまった。
長いスカートが軽く風で揺らされている。
「ちょ、ちょっと待て!俺が行くから!!」
「いえ、女子寮の壁を男性が這ってたら憲兵様に通報されます。ここは藤のために暖かい空気を出す魔法陣を書く人がたまに壁をよじ登ってるので、私ならあんまり怪しまれません!」
「通報されても良いから!頼むから戻って!!」
湊の背にはこれまでにないほどの冷や汗が浮かんでいた。汗はどんどん冷やされ、いやに寒い。
触れると落ちるんじゃないかと思い、引っ張り寄せることもできなかった。
「本当に平気ですから、こちらでお待ちください」
リリーの靴の踵は指三本分程高い。ハイヒールと言うわけではないが、あまりにも不安定そうだ。
湊が瞬きをした次の瞬間には落ちるのではないかと思っていると、リリーはついには足を伸ばし始め、壁に巻きつく藤の幹に足を置いた。
「平気なわけがあるか!落ちたら骨折じゃすまないって!」
ロフトが付いている分、普通の三階よりも高い。湊の顔は真っ青だった。手も真紫色だ。
「落ちませんよぅ。私、子供の頃は木登り名人だったんですから!」
「馬鹿なこと言うな!そこに降りて窓が開いてなきゃどうすんだよ!」
「そのまま一階に降りて戻ってきます!では、お待ち下さいね」
「が、がんこもん!」
「えへへ、ありがとうございます」
「褒めてねぇよ!」
リリーはおかしそうに笑いながら藤を伝って降りていき、軽々とイシュワの部屋のバルコニーに飛び降りた。
想像の百倍は簡単な作業だった。湊は安堵に息を吐いて下を覗き込んだ。
リリーは数度ガチャガチャと窓の取っ手を動かしたが、開かないようだった。
こんな真似をしたのに残念な結果だった。
降りるならせめて下から見守るべきかと思って見ていると――リリーは杖を取り出した。
さすが魔法のある世界。確かに鍵が開かなければ魔法で開ければ良いのだ。
いや、それが出来ればこの世界の鍵の意味とは――そう思っていると、リリーは杖を前後逆に握り、窓にガツン!と打ち当てた。
「っちょ!体育会系!!」
杖の尻は窓の中に見事に入り込んでいて、それをゴソゴソと動かし――カチンと軽い音がした。
「あ!開きました!湊様、いらしてください!」そう言って見上げたリリーはいい顔をしていた。
「……開きましたじゃないでしょうに……」
リリーが窓から杖を抜いて部屋に入っていってしまうと、湊も急いでリリーの部屋を後にして下の階に降りた。
下の階では分かりやすいようにリリーが扉を開けて手を振っていた。
「リリ……二度とああ言う真似はやめなさい」
「わぁ。ヘイバン様みたいです」
感心したような顔をするリリーの頬をぶにっと摘むと、リリーの顔が横に伸びた。
「はひぃ〜」
「やめなさい」
「わ、わかりまひたぁ」
きちんと返事を聞いてから湊はイシュワの部屋に入った。
部屋の中はリリーの部屋とは逆向きのL字の造りだ。
物が少なく若干の乱雑さを感じるのは、家宅捜査をされたせいかもしれない。
「窓は後で何とか修理するとして……まずは指紋を探すか」
湊は付けペンを取り出して部屋をうろうろと歩いた。
確実に指紋が出そうな場所と言えば机、囲炉裏のカウンター。
汚す事にはなるが、ニカの指紋をピンポイントで取るなら本も良いかもしれない。
湊は本棚から一冊本を抜き出すと、持って来た薬の袋を椅子に置いて机の上に昼と同じ魔法陣を書き始めた。
同じ――と言っても形が怪しい。どんな風に書いたのかすぐにメモをすれば良かった。
力塊誤作動が起きてしまうと人の家の机を歪ませてしまうかもしれない。
リリーは机に書き込まれていく魔法陣を覗き込みながら、書かれている漢字のメモをした。
「――カルボキシル基を書いて……加熱して完成。のはずだけど、どうかな……」
机に直接書いたのは失敗だったかもしれない。力塊誤作動を起こした時に、燃やしたり魔法陣を破壊したりするのが難しい。
だから見習い魔術師達は直接何かに魔法陣を書かないんだなぁと湊は今更ぼんやり理解した。光路線は物になら公認魔術師でなくても引けるのに、何故わざわざ紙を持ち歩くのだろうと思っていた。破壊しやすい紙に書くのが安全なためだろう。
今更書き掛けでやめることもできないので、湊は最後の文字を書き込んだ。
湊の中にまだ慣れない魔法が発動する時の感触が襲う。背筋を何かに撫でられたような、ゾワリとした感触。
次の瞬間、魔法陣は光を放ち神火を燃やし始めた。円の中に本を二冊そっと入れ、神火が消えるのを待った。
やがて最後の一文字まで残さず消失が終わると、机の上、魔法陣の円の中にはいくつも指紋が残った。
本にもベタベタと紫色の指紋が着く。
机は拭けば消えるだろうが、本からは完全に取り除くことは難しいだろう。仕方がないので、窓の件と合わせて明日謝るしかない。
指紋を破壊しないように気をつけて本を開き、毒の入っていた薬包を五つ取り出した。
薬包には憲兵が触ったであろう指紋がいくつもあって、指紋は重なり合うものもある。
余程慎重に何度も重ねて確認しなければ。
湊は五枚あるうちの一番指紋が付いている物を手に取り、本の読んでいる時に付いたであろう指紋に重ねた。
重ねた薬包を抑えて何度もめくって戻してを繰り返し、イシュワの親指を探していく。銀行の印鑑の確認のような作業だ。
本のページを押さえるときの親指、めくるときの人差し指を探す。あの日、イシュワがどの指で薬包を摘んで渡して来たのかは覚えていないが、普通なら親指と人差し指、必要なら補助の中指を使うだろう。
湊のやり方を見ると、リリーも机の上の指紋と薬包の指紋を一つづつ照合して行った。
そして、湊はイシュワの指紋を見つけた。
「これだ。これが他の薬包に付いてるかを見よう」
気持ち一回り小さい指紋を、他の薬包に付いている指紋に重ねて一つづつ確認していく。
一枚目、イシュワの指紋は――なし。
二枚目、イシュワの指紋は――なし。
三枚目、イシュワの指紋は――なし。
四枚目、イシュワの指紋は――なし。
湊はホッと息を吐き、椅子にだらしなく座った。
「イシュワは違う……。俺に薬包を渡しただけだ」
その言葉にリリーの瞳は強く輝いた。
「じゃあ、これでイシュワさんは!」
「出られるはずだね。でも、まだあそこにいて貰った方がいいかも知れないな。憲兵がいる所の方が安全に過ごせる。うちに更に女の子泊める余裕はないし」
「それはそうですね……」
湊は机の上にある本とイシュワの指紋が出た薬包を袋にしまった。
「次は憲兵の指紋探しだ。ここに残る指紋と一致するもんにバツを付けていこう」
「分かりました!」
二人は二枚づつ薬包を分け合い、机に残る指紋との照合を進めた。
気の遠くなるような作業だった。
ただでさえ指紋鑑定は難しいのに、机の指紋は重なり合っているので気が遠くなるようだ。
時計の針がチッ、チッ、と音を鳴らして進んでいく。
ここの時計は魔法で動いているらしいが歯車も入っているようだ。
何とか重なる指紋を消して行き、二人は怪しい指紋を割り出した。
バツの付かなかった指紋同士を重ねて同じものか確認する。
「――これの持ち主を探せば解決だな」
「本当ですね!明日マキナさんとヤージャ様の指紋貰いましょう!」
これで皆の疑いが晴れるとリリーは鼻歌混じりだ。
再三の確認を終えると、湊は四枚の薬包を袋に戻し、リリーは紫色にベタベタと指紋が浮かび上がる机を綺麗に拭いた。
二回も拭けばピカピカだ。
そして、次なる――「問題は窓だな……」
湊は細い穴の空いた窓を前に頭を掻いた。日曜大工は専門外だ。
「仕方がないのでテープでも貼っておきましょう」
「そんな修理じゃ泥棒入るでしょ」
「でも、湊様がお部屋を出た後に私が内側から扉に鍵をかけて、また窓から出て、窓の鍵をしなきゃいけないですから、大々的な修理は難しいんじゃないですか?」
湊は何となく窓の鍵を内側から掛けて、二人で扉から出るつもりでいたが――確かに玄関に鍵をかけないよりは通りに面する窓に小さな穴が空いている方がマシかもしれない。
「……そうだね。テープで行こう。でも窓から出るのは俺がするから」
「夜ですし、湊様じゃ本当に捕まっちゃいます。さ、お早く」
リリーに背中を押され、湊は追い出されるように部屋を出た。
普段はぽんやりしているような子だと言うのに、こう言う時にいきなり強くなってしまう。
湊は駆け足で寮の階段を降った。
「――ヘイバン様、こんばんは」
「や」
何人かの女性や女子とすれ違い、湊は軽く手を上げて答える事に留め、外に出た。
外に出た瞬間「――ペネオラさん!何をしてるんですか!」
気をつけながら藤の蔓を降りているリリーに、知らない女性が声を掛けていた。
「は、はひ!すぐに降ります!」
「危ないからそんな真似はおよしなさい!」
大人なら当たり前の口出しだ。湊はリリーが降りている場所に慌てて駆けた。
「リリ、ゆっくりで良いから!急がないで!」
「み――ヘイバン様、あ、あの!来ないで下さい!」
「何言ってんの!自殺志願者か!」
静止を聞かずにリリーの下に来て見上げると――スカートがふわりと風に舞った。
「――ぁ」
これは確かに来ないでください、だ。
この暗いのにリリーの顔が真っ赤になったのが分かった。
スカートの中身は残念ながら――いや、残念ではない。邪心を捨てる――暗くて何も見えなかった。
だが、リリーはパッとスカートを押さえ――「ッキャ!」
足を滑らせた。
「リリ!!」
反射的に足が動き、両手を伸ばす。
ドッとリリーの体がぶつかり、二人はまるでこの世界に来た時のように地面に転がった。
「いっ……つぅ……」
「み、ヘイバン様!大丈夫ですか!ヘイバン様!!」
乗っかっているリリーが慌てて湊を見下ろす。その目にはまた涙が溜まるのが見えた。
「だ、大丈夫。リリは?膝とか大丈夫?」
「私はどこも……。すみません……」
「やっぱり次は通報されても俺が窓から出るからね……」
二人は何とか立ち上がり、湊は溜息混じりの息を吐きながらリリーの服をはたいた。
「ヘイバン様。ペネオラさんをもっとよく叱ってくださいませ」
二人のすぐそばでプン、と腰に手を当てる女性。
湊は急ぎ首を確認する。マフラーをしているので見習いのボウタイは見えない。
続いてちらりと手を確認するも手袋をしている。
湊はこの人とはあまり話さないと決めた。
「――申し訳ないです。どうもやめろと言って聞かないもので」
「ペネオラさん、あまり師を困らせるものではありません。私があなたの師ならお尻ぺんぺんですよ!」
「は、はひぃ。すみません」
「全く。こんな遅くに何をされていたんですか。お二人はバウマン様とはお会いになりましたの?」
「え?いえ。朝に会って以来ですけど」
「いけませんわ。夕方頃からずっとヘイバン様をお探しになっていましてよ。マクモンド様やヤージャ様もご一緒になって心配されていました」
湊は服をまくって腕時計を確認した。
――十時半。
集中していて気付かなかった。
安全管理委員の委員長まで連れて、イッサは本気で心配しているに違いない。せめて書き置きでもおいてくれば良かった。
「す、すみません。俺達は急いでイッサ様のところへ行くので、事情はまた今度」
「そうされた方がよろしいかもしれませんわね。それにしても、うちのニカから聞いていたより余程お元気そうで安心しましたわ」
「うちのニカ……?」
女性は少し怪訝そうな顔をした。
「えぇ。私が指導しているニカ・ドーリマン、今日研究室で会ったときには酷い顔をしてましてよ……?」
この人がニカの上司かと理解した。つまり公認魔術師なので、下手にタメ口をきいたりしなくて良かった。祖父は若くして公認魔術師になった様なので、殆どの公認魔術師が目上の存在だと言うのは簡単に想像がつく。
「そ、そうでしたか。ニカにはもう良くなったから心配しないで良いとお伝えください」
「確かに私はニカに会いに来ましたが……明日、ご自身のお口から伝えるのがよろしいですわ。きっとお元気な顔を見たがります」
「そう……ですね。はい。ではまた明日」
「えぇ、こきげんよう」
湊は頭を下げ、リリーと共にその場を後にした。
早足で歩いていたが、寮がまだ見える場所でふと足を止めた。
「――湊様?」
「……ごめん。リリの荷物持つの忘れてた」
「あ、鍵閉めるのも忘れてました」
「俺は一回祖父ちゃんの部屋に戻るから、一人で取りに行ける?」
「はひ!大丈夫です!」
湊はその言葉に頷き、この世界の言葉で書かれた魔法陣を何枚かリリーに渡した。
「これ、リリに使えるかな」
「――使えそうです!」
「じゃあ、何かあったら迷わずこれを使ってね。万が一危ないと思ったら相手が誰でも躊躇わないで」
「……分かりました」
「イッサ様と合流したら部屋に迎えに行くから、一人で戻ったりしないで待ってるんだよ。良いね」
リリーが頷くと、湊はその頭をぐしりと撫でつけて寮に向かって駆け出した。
覚え始めた道を通り、坂を登る。この街は坂の多い街だ。
息が切れ始めると、「ヘイバン様!」と呼ぶ声に足を止めた。
駆け寄ってくる白髪の青年。
湊はチラリと自分の持つ指紋だらけの袋に視線を落とした。
イシュワは犯人じゃない。イッサはイシュワとマキナを疑えと言っていた。
では彼が――いや、指紋を取らせてもらうまでは分からない。
「ヘイバン様!こんな場所にいらしたのですか!?」
「――マキナ。俺を探してくれてたの?」
「当たり前です!ヤージャ様やバウマン様が必死でお探しですよ!」
「そっか。イッサ様は俺の寮にいるかな」
「お待ちだと思います!お体はもう良いんですか?」
「程々にね。まだ少し喉が痛いけど、もう解毒は済んだから」
マキナは胸に手を当て、心底安堵するようにホッと息を吐いた。
「ヘイバン様は僕が思っているよりずっとお体が丈夫なんですね。良かったですよ」
「ありがとう。取り敢えず、俺の寮に戻ろう」
「分かりました。――あれ?どちらへ?」
湊は憲兵の建物に一度戻らなければ寮には帰れない。ここから直接男性寮に帰る道があるのにそれを使わないのは、この街に住んだことがないと言うようなものだ。
「――ごめんごめん、まだ少し混乱しててね。実は道をよく思い出せないんだ」
「あぁ、そうでしたか。では、僕がご案内します!少し暗いですけどこっちが近道ですよ!僕、結構この道通るんです」
マキナが指差す道は本当に細く暗かった。
「……じゃあ、そっちから行こうか」
マキナの後に付いて歩き出すと、マキナは「いや〜良かったなぁ」と心を軽くするように頷いた。
二つの月が見下ろす中、二人は細くくねった道を歩いた。
舗装タイルと靴が硬い音を鳴らす。
湊はマキナの背から目を離せなかった。
「――ヘイバン様」
振り返りもせずに呼ばれる。湊は言葉が続くのを待った。
「イシュワは明後日神明裁判を受けるそうですよ。憲兵様が神殿に行った後、魔術省にお立ち寄りになって教えて下さいました」
「そっか……」
「僕、イシュワの腕が焼ける姿なんて見たくありませんよ……。そんなの……あんまりだ……」
湊の前を俯きながら歩くマキナの背中は震えていて、泣くのを堪えようとしているようだった。
湊の中で恐れるようだった気持ちが氷塊し始める。
イシュワを同じように大切に思う彼が、犯人なわけがないと思えた。
「マキナ、安心しな。今日、俺はイシュワが毒を盛った訳じゃないって証明できるだけの物を用意したから。神明裁判は受けさせないよ」
マキナの肩の震えはぴたりと止まった。
「な、大丈夫だって」
湊がポン、と肩に手を置くと、マキナは湊を下から見上げるようにした。ほとんど同じ身長なので、お互いの息遣いを感じるくらいの距離だった。
「証拠……?そんなもの見つかったんですか……?憲兵様はイシュワの家からも何も見つけられなかったらしいのに……」
「うん、少し工夫してみた。確実な証拠になるから、もう大丈夫だよ。犯人も明日には見つけられる」
マキナは肩に乗る湊の紫色の右手を握った。
「――困った事をしてくれたね」
「困った?」
マキナは湊の手を押しつぶすほどにギュッと握ると、思い切り引っ張り湊の背を壁にぶつけた。
わぁい!へたれそうな湊君が描けたゾォ!(?
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