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#11 お別れ

 次の日はせっかく封印した缶をまた開け、指輪を首に掛けるところから始まった。中に貼ったお札はぴたりと缶に張り付き、昨日寝る前に貼った時にあった皺がなくなって、まるで缶に吸い付くようになっていた。湊は不覚にも驚いて缶を落としそうになった。


 パジャマから着替えを進める。今日はもう帰るだけなので着て来た喪服を着ようかと思ったが、せっかくなので祖父の洒落たスラックスとバンドカラーの襟なしシャツを着る事にした。


 リリーに平文の孫はダサかったなぁと帰ってから思い出されないように、ささやかな抵抗だ。

 起きて来たリリーも湊のダサいパジャマを卒業して、ここに来た時の服を着ていた。


 皆で揃って朝食を取ると、使ったシーツを洗濯したり、布団を干したりと忙しなく動き回った。


「湊。昨日何時までやってたのよ」

 枕を縁側に干していた桜の声には大変棘があった。

「に、二時……。昨日はごめん。本当余裕なくて」

「そんな時間まで何やってたの」

「あーと……昨日のうちに計算しないと行けない事があって」

「仕事だったの?」

「……仕事より大事な事。本当にごめん。悪かったよ」

「……はぁ。もう良いよ。あんたなりに反省してんなら。でも、あんたしか言葉分かんないんだから、リリーちゃんもあんたがいなきゃ気まずくてご飯食べたくないに決まってんでしょ。付き合わせてごめんってちゃんと言いなさいよ」

「そ、そうな。うん、昨日謝ったよ」

 桜がため息を吐き、湊ははにかんで笑った。


 今日は最後の仕上げの片付けとなり、午後にはいよいよ平文の書いた原稿が和室に並んだ。


「えーと、これとこれと。これもお前が出てるぞ」

 父が「ミナト」と言う少年が出てくる話の原稿をいくつも渡してくれる。原稿は右側が黒い紐できちんと綴じられていた。

 ちなみに、本は全巻セットで実家に置いておきたいらしいので、本が欲しければ自分で買えとのことだ。


 湊は一枚目のページを開き、数行を読んだ。


「ちょっぴり昔で、ちょっぴり未来。ミナトという名前の子供がいました。彼は年老いたおじいさんとおばあさん、優しいお父さんとお母さんと一緒に暮らしていました。これはある日ミナトが家族皆でピクニックに出掛けた日のお話です。ミナトは賢い子でしたが、走り回るのも大好きで、出掛けた先の原っぱでも黒と青のアゲハ蝶を見付けて追い駆け回りました。――はは。日記みたいだな」


 ピクニックで蝶を追いかけ回したのは湊にもある記憶だ。

 そこで、父は納得の声を上げた。


「あー、湊が書いてもらってたのを覚えてないわけだ。ミナト君が出てくる話はイサミが出てくる話よりも低年齢向けだったんだなぁ。ある程度湊の年齢が行ってたら読んでないし、これ読むくらい子供だったら忘れるなぁ」

「本当だね」


 横から原稿を覗いていたリリーは湊をキラキラと眩しい瞳で見上げた。


「湊様!続きを早く読んでください!」


「え?はは。良いですよ。いつも読んで貰ってましたからね。えーと、――ミナトは蝶をとうとう追い詰め、その手に優しく包み込みました。上手に蝶が取れた事をお母さんに見せようと振り返った時。ミナトは一人知らない草原に立っていました。その足元にはキノコが丸く列をなして育っていて、世界と世界を渡る魔法陣になっていたのです。"あなたはだぁれ?"足元から聞こえた声にミナトは驚きましたが、その声の主が小さな小さな妖精だと気が付くと、地面に座って挨拶をしました。"こんにちは、妖精さん。僕はミナト。君の名前はなぁに?"妖精は――」


 湊はそこで言葉を切った。

「妖精は?」

 家族もリリーも皆が湊に先を促すような視線を送った。

 すると、祖母が嬉しそうに口を開いた。


「私の名前はシラユリよ。でしょう?」


 湊は頷き、何を言われているのかわかっていないリリーのために、もう一度その場所から読み直した。


「妖精は"私の名前はシラユリよ。あなたは私達妖精のダンスの後に丸く生えたキノコの魔法陣に入ってこちらの世界に来てしまったのね"と言いました。ミナトが"このキノコの輪に入れば元の草原に帰れるのかな"と聞くと、シラユリは"一度使った魔法陣を使うことはできないのよ"とミナトに教えました。ここはとってもキレイな場所ですが、お母さんもお父さんもいないので寂しいです。ミナトは"どうやったら帰れるの?"とシラユリに尋ねます。すると、シラユリは遠くにある山を指さしました。"あそこの頂にある妖精の国へ行って、夏のお祭りの舞踏会を開いたらきっとすぐにでも帰れるわ。妖精が踊ればその足元にはたくさんキノコの魔法陣ができるんだもの。だけどね、妖精のお祭りに必要な笛がなくなっちゃったの。あれがないと踊れないわ。ミナト君、私達に夏のお祭りを取り戻してくれないかしら"。ミナトは"もちろん良いよ"と答えてシラユリを助けてあげる事に決めました」


 湊はそこまで読むと、涙ぐむ白百合(リリー)の頭を撫でた。


「……湊様……。このお話は……ヘイバン様の願いそのものです……。これがあなたを魔法陣へと変えたのかもしれません。でも、だとしたら、なんて幸せなんでしょう」

「そうだね。俺もそう思ったよ」


「こんな、まるっきり逆の立場になってしまうなんてヘイバン様が聞いたらお笑いになりますね」


 そう言ってリリーが笑うと、湊は綺麗だなぁと思った。その瞬間、リリーの目の端からほろっと涙が溢れた。

「リ――ペネオラさん……」

「湊様、本当にありがとうございました。このミナト君は最後には帰れるのでしょうか」

 湊は最後の一枚をぺらりとめくった。


「ミナトは世界に魔法陣を書くための大切なペンをシラユリに返しました。"ユリ、僕はお家に帰るけど、きっとまた会えるよね?"ミナトの問いかけに、シラユリは笑って頷いて見せました。"ミナト君。また次の夏には、あっちでキノコの魔法陣を探してね。そうしたら……また……また会えるから……""分かったよ……また……来年の夏に……会いにくるから……それまで……元気でね……"そうして……ミナトはシラユリとお別れをして……あるべき世界へ帰りました……」


 苦しい。何故これ程苦しいのだろう。

 湊は原稿を閉じると、目を覆った。

 これは祖父を思い出して苦しいだけじゃない。

 物語と現実は違う。ミナト君は今後も何度も向こうとこっちを行き来して冒険を繰り返すだろうが、湊は何かを切り捨て、何かを選ばなくてはいけない。理解はしているが、心がそれに追い付くかは別の話だ。


「湊様……」


 今何かを言えば涙が出てしまいそうで、湊は何も言わなかった。たった一週間。長い長い夢を見ていたようだった。

 知らない世界の事を知るのも、知らない祖父の話を聞くのも、何もかもが楽しかったのだ。

 こんな夏は――二度と来ない。


「なぁーに泣いてんのよ!リリーちゃんの事空港に送る前に大使館に届いたスマホ受け取るんでしょ。その時に連絡先ちゃんと聞きなさいよ。それでちゃんと私にも教えなさい」

 桜に背を叩かれ、湊は痛みを飲み込むためにハッと笑いを漏らした。

「別に泣いてねぇし!」

「泣いてる!後悔するくらいならハッキリしなさい!湊がそのまま三十歳になったら、私はあれこれ引きずってる湊と結婚する事になるでしょーが!」

「冗談でも親の前でその話はやめんかい!」

「湊君、話を聞かせてくれるかな」

 叔父が身を乗り出してくると、湊はふぃ…と目を逸らした。

「い、いやぁ……桜の昔っからの悪い癖ですよ。桜だって嫌だろ?」

 その問いに、桜は肩をすくめて応えた。


「別に。可もなく不可もなし。ティーシャツのセンスは不可中の不可だけど」

「お前、人で遊んでるだろ……」

「……湊君、桜はまだ大学生なんだよ?」

「……知ってます」

「……三十まで君後六年しかないけど分かってる?」

「……知ってます」

「早く彼女作りなさい」

「……善処します」

 本当に面倒くさい親子だった。


「で……俺はこんなに貰ったから、あとは皆で原稿分けあってくれて良いよ。本当にありがとう」

 湊はミナトの出てくる小説の原稿をかき集めて紙袋にしまった。

 皆が気を取り直して原稿を分け合い始める。


 湊は仏間へ移動し、祖父の仏壇に飾ってある老いてからの小さな写真を手に取った。

「父さーん、この写真貰ってもいい?」

「良いぞー。いくらでも焼けるから気にしないで持ってけー」

「ありがとー」

 写真立てから写真を取り出し、リリーを手招いた。


 原稿を覗き込んでいたリリーは飼い主に従う犬のようにすぐに駆け寄って来た。

「はひ!お待たせしました!」

「全然待ってないよ。ペネオラさん、これも……一応持っていって貰えるかな」

 襖の陰に隠れるようにすると、湊は今貰った祖父の写真をリリーの手に持たせた。


「……よろしいんでしょうか」

「良いよ。これも、良かったらうちのひい祖父さん達に見せて。自分より歳上になってるだろうけど。それで、もしペネオラさんが手元に置いておきたいと思えば、これは君のものにして欲しい」

「……ありがとうございます。本当なら……ヘイバン様のおそばで共に歳を重ねたかった……」

 そう言うリリーの気持ちに湊は頷いた。


「ありがとう。祖父ちゃんも、きっとペネオラさんのその気持ちは嬉しかったと思う。さぁ、しまって」

 リリーはウエストバッグに入れてあったここの家族と撮った写真と一緒にそれをしまった。


 そして、にょきりと桜が顔を出した。

「――言えた?好きって」

「……そんなんじゃない。俺たちは、本当にそんなんじゃなかったんだよ。もっと、使命感とか、責任感とか……そう言うもんで繋がってた」

「なんじゃそりゃ。ま、いーけどね。あんたがスッキリするなら、なんでもさ」

 桜はからりと笑い、覗き見をやめた。


 原稿の分け合いも済むと、読めない手記達のうち、魔法が使えるなんて言うふうに認識が歪んでしまってから書いた――と思っている――分を一纏めにし、来週のゴミに出すように用意した。

 沢山片付けたとは思ったが、祖父の書斎にはまだまだ沢山物があった。


 だが、これで良いだろう。いつか、湊や桜に子供ができた時、ここは宝の山になる。子供達はきっと、少し古い小説や、科学や生命の本を夢中になって読むはずだ。


 祖父の叡智の結晶の部屋は静かに閉じられた。


 日はずいぶん傾き、終わりが近付いて来る。

 祖母と両親以外は皆荷物を持って靴を履いた。

 リリーは最後に全員に深く頭を下げた。

「皆様、一週間お世話になりました。あっという間の日々でしたが、リリは一生忘れません。この時間はまさしく宝物でした。この御恩は、ヘイバン様のご両親へお返しする事でどうかお許しください。本当にありがとうございました」

 皆が通訳を期待する目で湊を見た。


「一週間皆にお世話になったって。あっという間だったけど、一生忘れないって言ってくれてる。宝物だって。えーと、ちょっと待ってね」


 また難しい言葉だったかと、皆が湊を待ってくれる。

 湊はネックレスを外して洗礼の指輪を自らの指に通すと、ネックレスのチェーンを腕に巻きつけてリリーと手を繋いだ。


「み――」湊、とリリーが言おうとするのに被せるように、湊は「――うまくやって下さい」と伝えた。

 リリーは言葉を発さず頷いた。

「それから、祖父ちゃんの為に今後も頑張りますってさ」


 祖母は涙ぐみ、一度リリーを抱きしめた。

「リリーちゃん。本当にありがとうね……。あなたが来てくれなかったら、きっとお爺さんの書いたものは読めなかった……。すごく遠くからわざわざ来て、不安だったでしょう……。また、きっと会いに来てね。平文も待ってるわ」

「イ――ぅ……うぅ……」


 リリーは顔をくしゃっと歪めると、湊と手を繋いだまま祖母に縋るようにして押し殺した声で泣いた。


「私もね。あなたと過ごした一週間、まるでもう一人孫ができたみたいで本当に嬉しかった。平文が元気だった頃みたいに家も明るくなって……本当に、本当に嬉しかった。ここは日本のあなたの家よ。いつでも私達はここにいるから、帰って来てね……」

「ぅぅうう……。ぅぅ……!」


 二人の様子に桜も鼻をすすった。

「リリーちゃん……。飛行機代くらい湊がいくらでも出してくれるから、ちゃんと連絡してね。次は神社だけじゃなくって、色んなところに行こ。もし湊が嫌なら二人で遊びに行ったっていいしね!」


「おい……」


「その時にはお父さんも一緒に行きたいなぁ!車出して皆でどこか泊まりに行こうか!」

 張り切り症の父が笑い、母も頷く。

「そうねぇ。その時には、()()()君がピクニックに行った公園も行きましょうね」

 そっと祖母とリリーが体を離し、泣いたままの顔で二人は笑い合った。


 その様子に、叔母はリリーの背を撫でた。

「リリーちゃん。もしここに住みたいって思ったら、一生住んでも良いのよ。パジャマは格好悪いミナちゃんのしかないけどね。ふふ」

「おじさんはペネオラちゃんと二日しか一緒にいられなかったけど、忘れないでね。僕の名前は慎次郎って言うんだよ」


 リリーは指輪を着ける湊から手を離すと頷いた。


「はい!皆様のお名前もお顔も忘れません!皆様も、どうかこのリリー・ペネオラを忘れないでいて下さい!私は遠くへ帰りますが……ここで一生を過ごしても良いと思えるほどに輝いた一週間でした!」


「――皆の顔も名前も忘れないから、皆もリリー・ペネオラを忘れないで欲しいって。一生ここで過ごしたいくらい輝いた一週間だったって。まぁ、写真も渡したしね。慎さんだけは写ってないから忘れられるかもしれないけど。ははは」


 湊が笑うと、叔父はガックリと肩を落としながら苦笑し、リリーはぷんすこと鼻を鳴らした。

「湊様、そんなことはありません!もう!」

「そんな事ないって。ふふ。良かったっすね」

「湊君、君だけは婿に認めないからね」

「……認めていただかなくて結構です」


 そうして、湊は玄関の扉を開いた。外の気温はほんの少し下がり始めていたが、まだまだ暑苦しい。妙に懐かしさを感じる風が吹く。


(――そうだ。子供の頃、しょっちゅう泊まりに来てた桜達が帰る時、祖父ちゃんもこうして必ず外まで見送りに出てた……)


 玄関には皆が見送りに出てきてくれている。湊には手を振る祖父の姿が確かに見えた。

 湊が振り返っていると、桜はリリーときつく抱きしめ合った。

 リリーは抱きしめて来る桜が耳元で何か内緒話をすると、隣で玄関を眺める湊の手に手を伸ばした。

 指の背を指の背でつん、と触れると、すぐに湊はリリーの指に指輪が触れるように指と指を繋いだ。


 そうして、何を言われたのか確かめる為に、リリーは一言だけ発した。

「……ん?」

「リリーちゃん……もう一回だけゆっくり言うね。もし、本当に、湊を、大切に、想ってくれるなら……私はそれで良いの。ううん、その方が絶対に良い。素直になれない馬鹿だけど……お願い」

 リリーは湊の指から手を離し、ギュッと桜を抱きしめた。


「……サクラ様。どうか、湊様とお幸せに。私にそのような気を遣っていただく必要はありません……。それでも、本当にありがとうございました」


 二人は離れ、桜は何を言われたのか分からなさそうに困った顔をした。 

 リリーは首を振り、桜の手を取ると、湊の手に繋がせた。


 二人は唐突に握手をするように向き合った。

「――ん?何?」

 湊が尋ねると桜はリリーを見た。リリーが頷き、桜の視線は少し泳いだ。

「あ、いや。えっと……何でもないんだけどさ。えっと……ほら、来週の約束忘れないでね」


 湊は手を握り返して数度上下に振ると手を離した。


「……三十万のダイヤのついた腕時計な」

「仕方ないから三十万じゃなくても良いよ。許してあげる」

「いや、三十万だかなんだか知らないけど、桜が一番欲しいやつで良いよ。半端なの渡して使われないより良い気がする」


 迫り来る西陽に照らされ、桜の頬は薔薇色に見えた。


「ありがと。約束ね」

 小指を伸ばした手を伸ばされ、湊はそれに小指を絡めた。

「ん、約束」そう言って、指は切られた。「じゃ、気を付けて帰れよー」


「うん。湊も気を付けてね!リリーちゃんをよろしく!」

「あぁ、必ず無事に家に帰す。任せて」

「リリーちゃん、気を付けてね。向こうに着いたら連絡ちょうだね!」


 桜達は車に乗り込み、窓を全開に開いた。


「じゃあね!また、また会えるよね!リリーちゃん!」

 リリーは何度も目元を拭いながら笑顔を返した。

「さようなら!サクラ様、どうかお元気で!この世界の私のお姉さま!」

「リリーちゃん、絶対約束だからね!私からも会いに行くからね!」


 車の中から叔母も手を振り、「じゃ、出すよ」と言う叔父の声がした。

 車はゆっくりと動き出し、桜達は帰って行った。


 角を曲がるまでリリーは両手をいっぱいに広げて手を振った。桜も、危ないくらい身を乗り出して手を振った。


「じゃあ、祖母ちゃん、父さん、母さん。行ってきます」


「湊ちゃん。気を付けてね。リリーちゃんを本当にお願いね」

「湊、お前もう少ししょっちゅう帰ってきて良いんだからな。別に遠いわけでもあるまいし月に一回くらいは顔出せ」

「ふふ、なんなら一人暮らしに飽きたら言うのよ。そうしたら、お部屋も片付けてあげるわ」

「飽きなくても片付けてくれると嬉しいんだけど。ま、もし飽きたら言うよ。――じゃあ、ペネオラさん。俺たちも行きましょう」

「……はい」

 湊は両親と祖母、それから誰もいない場所に手を振った。


(お祖父ちゃん。僕らの大切なリリー・ペネオラの事は任せて)

 心の中で告げ、祖父の香りがすると湊は一度目を閉じた。


 すると、隣から呟くように声がした。


「……ヘイバン様、あなたの一番大変な時におそばにいられず、本当に申し訳ございませんでした。あなたに救われ……湊様に救われ……リリは帰ることができそうです。どうか、安らかにお休み下さい……」


 リリーはまた涙をこぼし、それを払った。

 湊は二つの紙袋を片手で持ち直すと、この広い世界ではぐれてしまわないようにリリーの手を繋いだ。

「行こう」

「はい」

 家族は門の外で、いつまでも二人に手を振ってくれた。


 湊とリリーも何度も振り返り、皆が見えなくなるまで手を振った。

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