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サキュバスちゃん、勇者ちゃんに剣を教える

 終わらない夕焼け――

 それは、どこにも存在しない夢の中の景色。


 赤い閃光。

 激しく響く金属音。


 真っ赤な世界の中、一人の勇者と一人の魔族が鍔迫り合う。


 戦況は一方的だ。


 暴力的な剣の嵐の前に勇者は奥歯を食い縛り、目の前の剣閃を防ぎにかかる。

 しかし防いだはずの鉄剣は彼女の両腕を切り飛ばし、次の瞬間には胸を貫き、心臓を引き裂いている。


「――ッ!!」


 夢の中、作り物の激痛、死の再現……。

 そして次の瞬間には全てが一からやり直される。


 サキュバスはレイピアをくるりくるりと回しながら、シアンのほうへと挑発的な表情を見せた。


「これで丁度100回目ー」


「……」


 シアンはサキュバスを見据え息を整えた。


 切断された腕も、貫かれた胸も、引き裂かれた心臓も、全てが元に戻っている。


 真我解離(ヴァルキヤ)の内部で起きた事象は現実世界には一切反映されない。


 しかし、それが故に強力だ。


 彼女は夢の世界を経由して現実世界のあらゆる人間、あらゆる魔族の記憶を閲覧し、夢の中に仮想の敵を再現することが出来る。


 そしてサキュバスはこの世界に実在した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 彼女と戦うということは、この世界の全ての剣聖に勝つことと言って差し支えないだろう。


「ッッ!!!!」


「必死だねー。ほらほらー、反撃しないとまた死んじゃうよー?」


 サキュバスの突きにシアンは咄嗟にレーゼンアグニを突き出した。

 火花を散らしながら互いを削りあう刃の向こう、確かな殺意を持った瞳と視線が合う。


 彼女は魔王軍幹部序列一位の高位魔族。

 名実共に魔王軍最強の魔物であり、ネメスに対する忠誠心も強い。


 今まで魔王を幾度となく殺してきたシアンに対する憎悪の念は恐らく本物。


 剣が弾け、間合いの向こうから続く刃が首筋を切り裂いた。

 四肢の全ての腱を切断し、心臓を破り、脳を貫く。次の瞬間にはまたレイピアが襲い来る。


 ()()()()()()()


 無限に続く死の闇の中、刃の嵐の僅かな隙間に反撃の機を探し出し、辛うじて差し挟んだ一撃さえも打ち砕かれ、呆気なく完全に殺される地獄。


 しかしサキュバスもこれと同じ経験をしたはずだ。

 歴代全ての剣聖と戦い、その剣の全てをくぐり抜けてきた魔物……。


 彼女の剣にはそれだけの気迫がある。

 桜色の瞳の奥に確かな強さが備わっている。


 これを乗り越えなければ、真の勇者とは名乗れない。


 シアンは瞳に青い炎を纏いレーゼンアグニに魔力を込める。

 対するサキュバスは両手のスパークレイピアを握り直した。


 レーゼンアグニはこの世界の真実に関わる最強の聖剣だ。

 しかしサキュバスが担うスパーク・レイピアも聖剣レーゼンアグニに劣ってはいない。


 これは魔王ちゃんがサキュバスのために作ってくれた剣だ。

 だからサキュバスにとってはスパークレイピアはレーゼンアグニを越える剣だ。


 仮に事実としてレーゼンアグニより劣った剣であるとしても、それは自らの剣技によって覆せばいい。

 サキュバス自らの剣技によって、この剣の最強を証明する。


 それが最終的には魔王ちゃんの最強を示すことに繋がるから。

 魔王ちゃんのほうが、勇者シアンより優れている。

 それを証明するために……。


 だから、サキュバスは勇者シアンにだけは負けられない。


 魔王軍幹部序列一位、夢魔サキュバス

 世界最強の人類、勇者シアン


 互いの意志を賭けて二人は殺し合う。

 この赤く染まった夢の中で。

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『Mephisto-Walzer』

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