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シアン、メチルたちと袂を分かつ

「なんとか間に合ったようじゃな」


 街中を駆けながらニトロが言う。

 彼の隣に並ぶメチルは教会の扉を開き、全員を転移盤のほうへと促す。


「なぜお前たちがここに……」


「メチルがどうしても同行して欲しいと言うものでな」


 ニトロが顎でメチルを指し、彼女は転移盤を起動しながら口を開く。


「カンナが死々繰の話をしてきたんだ。癪に触るけど、アイツの勘はよく当たる。わざわざ僕にこんな話を振ってきたってことは何かの前触れだろう? そう思って王都に来てみたら案の定だった。全員乗ったな?」


「ああ、カンナビスか……」


 転移盤が起動し、次の瞬間四人はネヴィリオの教会へと到着した。


 転移盤を降り、教会を出て赤道直下の日光に身を晒す。

 そして、目の前の彼女の姿に国王ラジウムは溜息を吐いた。


「次から次へと忙しい日だ……」


「ラジウム……私のレベリングが出来ないとはどういうことだ?」


 ニヤニヤするカンナビスの隣で、シアンがラジウムを睨んでいる。


「そのままの意味だ。人類の"レベル向上技術"は失われた」


「何が"レベル向上技術"だ……! 私を騙したな……? 人類の叡智だと言って、魔族から買った技術を私に使って……挙げ句の果てになんだ? 魔族に転移盤の使用権と人族の知識を提供していた……? ラジウム、これは売国だぞ……」


「そのお陰でお前は随分と強くなったじゃないか」


 ラジウムを殴り飛ばし、シアンは荒い息のまま彼を見下す。


「私はもう国には仕えない。貴様らは売国奴だ。メチル、お前は魔王の側に付くそうだな。お前も裏切ったのか」


 メチルは殴り倒されたラジウムに回復を掛けつつ、黙ってシアンを見上げる。

 悲しげな彼女の顔に、シアンは苛立たしげに叫んだ。


「なんだ! 何が言いたい!!」


 メチルの胸倉を掴み寄せ、シアンは彼女の瞳の奥を睨む。


「魔王などアテにするな。私は勇者だ。私が勇者だ。お前は誰だ……? 勇者パーティの魔道士メチルじゃないのか……」


「僕は……ただ、この世界を救いたいだけだ……。そして、そのことを一番に考えてくれているのは魔王ネメスだと思う……」


 メチルの胸倉を離し、シアンは舌打ちをする。

 メチルはシアンに語りかける。


「シアン、僕たちに力を貸してくれ……。人族と魔族は争わなくてもいいんだ。君のやってることは……」


「私のやっていることは、なんだ?」


 ただの虐殺だ。


 かつての仲間にそう言い切れるほど、メチルは薄情にはなりきれない。

 黙ったままのメチルにシアンは舌打ちし、他の者達を見渡した。


「おい売国奴共、私のしていることは間違いか? 逆だろう? 間違えているのはお前たちだ」


「僕たちは間違ってない」 


「そうか、まるで話にならないな。青き炎は魔族が滅びない限りは決して消えない……! 一体どうしたんだ、お前たちは。魔族に騙され、このまま焼き殺される選択肢を選ぶのか? この愚か者共めが……!」


 シアンはメチルたちに背を向け、そのままネヴィリオの街へと消えて行った。


 それからしばらくして、最初に口を開いたのはラジウムだった。


「仕方が無い。シアンの事は一旦忘れよう。それで、なぜ私たちはネヴィリオに連れて来られたのだ? ディオリスシアが焼かれたのは既に知っているが……」


 その疑問に、メチルはローブの襟元を正しながら答える。


「シルフィがディオリスシアを焼いたのは、ネメスに勘付かれずに転移盤を使い、王都へと向かうため。それと、魔王ネメスと勇者シアンを釣り出すためだ。シルフィがここに舞い戻ってくる可能性は高い」


 理由は分からないがシルフィは国王に聖剣レーゼンアグニを要求してきた。

 恐らく、彼女の目的の達成のためにはシアンの持つ聖剣が必要となるのだろう。


 そうするとシルフィは勇者シアンの行く先へ現れる筈だ。

 シアンをここ"ネヴィリオ自治区"へと転移させれば、シルフィはこちらがまんまと罠にハマったと勘違いする。


 そこで、総力を以て彼女を叩く。


「シルフィがどんな手段でディオリスシアの街を破壊したのかは分からない。ただ確実なのは相手が高威力の範囲攻撃手段を持っているということだけ……」


 そうなると、ただ数を揃えて軍勢で押すというわけにもいかない。

 少数精鋭で、確実にシルフィを仕留める。


「この付近に魔王ネメスがいることは既に分かっている。シルフィを倒すためには僕たちの力だけじゃ足りないだろう。だから僕は……僕たちと、シアンと、魔王ネメス……。その全ての力をここに集結したい。いや、しなければならないと思ってる」


 手段と思想の違いこそあれ、勇者も魔王も人族も魔族も……

 みんな、この世界を守りたいのだ。


「だから、みんなの力を貸して欲しい」


 メチルは知っている。

 人族と魔族は協力して、手を取り合ってひとつの障害に立ち向かうことが出来る。


 キュピス諸島で魔王ちゃんがそれを証明してくれた。

 そしてメチルも、あの島で約束した。


 この世界を救う。

 この世界の全ての生命を救う。


 人族も、魔族も、みんなまとめて。


「この世界は消させない。絶対に……」


 メチルの言葉に、他の四人はそれぞれ頷いたり、肩を竦めたり。

 だけど、この世界に消えて欲しくないという思いは皆同じだった。


「ふむ、それならまずは魔王ネメスを探すとするかの」


 ニトロの言葉に一同は頷き、ネヴィリオの街での魔王捜しが始まった。

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『Mephisto-Walzer』

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