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国王、魔王ネメスとの和平を考える

 ――白のテリトリー

 ――首都アルカディア


「して、魔王ネメスがどのように青き炎に抗うのか……。その手段に貴殿は心当たりがあると言うのか」


「確証はありませんが」


 それは銀の甲冑を身に纏った男。

 玉座の前にかしずき、首を縦に下ろす。


 甲冑の男は、キュピス諸島で高位索敵技能の真眼を用いて魔王ネメスたちの戦いの一部始終を見ていた。


「魔王ネメスの保有する原始魔法を用いれば、恐らくは青き炎を押し戻すことは可能かと存じ上げます」


 その言葉に国王ラジウムは先を促す。

 甲冑は傅いた姿勢のまま続ける。


「原始魔法はこの世界の創世期より存在し、別の呼び名では"根源魔法"とも呼ばれています。そして、この世界を焼く青き炎もまた、原始魔法の一種と考えられております」


 魔法は魔力によって発生する事象の総称だ。

 そして、現時点ではあの炎もまた魔力によって発生した現象だと多くの者たちが考えている。


「勇者シアンの持つレーゼンアグニ……あの剣より発生する原始魔法と、この世界を焼く青き炎。その二つの性質は根本的には同質であるというのが、有識者会議による見解です。そして、魔王ネメスの原始魔法はレーゼンアグニの炎を退けた……」


 キュピス諸島地下での一連のやり取り。

 あそこでサキュバスが使った反転術式……。


 通常であれば抗うことの敵わない原始の炎に対し、同様の力を持つ原始魔法を用いることでその矛先を逸らすことに成功した。


「魔王ネメスは複数の原始魔法を保有していることが先の戦いにより判明しています。これにより青き炎に対する全ての前提が覆ったのです」


「人族と魔族、そのどちらかが滅びなければ青き炎は止められない。あらゆる魔法は青き炎に対して無力であり、それ故、領域戦争によってしかこの世界は救われない……」


「その前提に綻びが生まれたのです」


 甲冑の言葉に国王ラジウムは溜息を吐いた。

 甲冑は続ける。


「反転術式により青き炎を退け、再演術式によって消失した領域を再生する……。まだ仮説の段階ですが、魔王ネメスは既にこの技術を実現している可能性もあります。あながちテトの街での彼女の演説も、全てが全て、嘘だとは言い切れないかと」


「和平の可能性を考えておこう……」


 ラジウムがそう答えたのを聞き届けると、物陰から一人の魔族が姿を見せた。


 緑色の柔らかい髪に、異様に痩せこけた体躯。

 どろりと濁った赤い瞳にうすら笑いを浮かべ、二人の前にゆったりと歩を進める。


「困るなあ。パートナーに相談もなくこんな話が進んでいるなんて」


「シルフィ……」


 ラジウムを守るように、シルフィの前に甲冑が剣を抜く。

 傍らに控えていた数人の護衛も甲冑と並び、シルフィを睨む。


 ラジウムは玉座を立ち、シルフィを見下ろして問う。


「青き炎を消すには魔王ネメスを殺し魔族を滅ぼすしかないとお前は言っていた……。そのためにお前は我々に死々繰を提供し、我々は勇者シアンを鍛え魔王ネメスを追った……。だが、今のお前は死々繰の供給を止め、ディオリスシアの街を地図から消し去った。一体何が目的だ。何のために、ここへ来た……」


 シルフィはラジウムを見上げ、軽薄に微笑み、答える。


「ここへやって来るのに転移盤を使う必要があったからね……。あの付近には転移盤のある手頃な街がネヴィリオしかない。魔王ネメスとサキュバスがあの一帯に居るとなると、私たちが転移するのを察知して邪魔しに来る可能性があった。だからディオリスシアには釣り餌になってもらったわけだね」


 国王は真っ直ぐにシルフィを見据える。


「安全な転移のためだけに街一つ焼き払ったと言うのか……。正気の沙汰ではないな。同盟を結んだ相手の街だぞ」


 国王の言にシルフィはふっと笑う。

 身に纏ったぼろきれが風に揺れ、彼女はたなびく髪を押さえながら語る。


「ユートピアの住民は同盟というものを結ばないらしい。彼らの言うことには、"同盟というものは結ばれては破られ、破られては結ばれる、常なきものである"ということらしい」


 刹那、地面が大きく口を開き、そこにいた全員に喰らいついた。


 甲冑の男は国王を抱えて部屋の隅へと転がり、窓際のカーテンに掴まる。

 護衛の男達は割れた地の底へと断末魔を上げながら落下していき、やがて鈍い衝突音が聞こえ、悲鳴は消えた。


「この高さからでは助かるまい」


 奥の扉から巨躯の男が姿を見せ、シルフィの横に並ぶ。


 ラジウムも甲冑も、この男のことは既に何度か見て知っている。

 シルフィの右腕にして、この宮廷の地下にある"死々繰ダンジョン"の作り手。


 "地"を司る高位魔族・ノーム――。


「落ちた先は死々繰か。我々が利用していたダンジョンが我々の命を喰らう……。なるほど、お前たちの好きそうな筋書きだ」


 ラジウムの恨み言にシルフィはクスリと笑う。


「殺したら要求出来ないよ。実は、私はここに聖剣をもらいに来たんだ。勇者シアンが来たら、私の指定した場所にレーゼンアグニを持ってくるように指示してくれるかな?」


「断る」


「それは残念だ」


 シルフィがそう言った刹那、窓ガラスが勢いよく割れ散った。


「次元斬――!」


「プリズムバースト――ッ!!」


 空間ごと巻き込んだ圧倒的な斬撃空間と、全属性魔法の乱反射。

 シルフィは斬撃を回避し、ノームは地より壁を生成し魔法をやり過ごす。


 二人が視線を元の場所へと戻した時には、既に国王たちはそこにはいなかった。


「逃げられただと……!! クソ……ッ!!!」


 勢いよく地面を殴りつけるノームの横で、シルフィは窓の外を眺めた。


 四人の人影が教会へと逃げていくのが見える。


 乱入者は剣士と魔法使い。

 一方はキュピス諸島で地下に落とした魔道士のメチルだ。

 もう一方は昔、直接会ったことがある。


 先代剣聖ニトロ――。


 今は隠居の身だと聞いていたのだが……。


 シルフィはノームの肩を叩いた。


「さ、行こう。同盟が破棄された今、何事もなく転移盤を使用出来るのは今回が最後になる」

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『Mephisto-Walzer』

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