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ディオリスシアの街

 あれから一夜明け、魔王ちゃんとサキュバスちゃんはディオリスシアの近くまでやって来ていた。


 使い終わったアサルトバンカーを消滅させ、2人は砂の丘を登っていく。

 砂丘を登り終えると、一気に視界が開けた。


 青い空に、一面の焼け跡。

 ガラス質に固まった地面に、建物だったものの残骸……。


 街は辺り一面に激しく撒き散らされて、既に無人の廃墟と化している。


 生命の気配はどこにもない。

 そこは、一瞬にして全てが壊された跡だった。


「酷い……」


 隣で呟く魔王ちゃんを横目に見て、サキュバスは街を見下ろした。


 二人はディオリスシアの街へと降り、かつて道路だった場所を歩く。

 燃えるものは全て燃え、そうでないものはみな一様に粉砕され、残ったものは溶けてガラス状に固まった、完全なる破壊の跡……。


「酷すぎる……」


 魔王ちゃんは思わず壁面を殴った。

 ガラスが割れる音と、パラパラと崩れる壁。


 この光景を見て、すぐに分かった。


 これは()()だ。


 この破壊の跡からは感情が感じられない。

 憎悪、嫌悪、殺意、軽蔑、怒り、恨み、主義主張……。


 その一切がこの虐殺の痕には残っていない。


 "試しに消し飛ばしてみた"


 それ以上でもそれ以下でもない。

 純粋で無垢な子供が虫をちぎって遊ぶのと同じ。

 興味本位の遊び半分。


 それ故に、余計に邪悪だ。


「シルフィ、だよね……」


 サキュバスの問いにネメスは頷いた。


 確証はどこにもない。

 だけど、この邪悪には見覚えがある。


 キュピス諸島で見た"死々繰"と同じだ。


「サキュバスちゃん、この付近にシルフィは?」


「私の真我乖離(ヴァルキヤ)には引っかからなかったけど……」


 サキュバスの索敵範囲はテリトリー一帯だ。

 彼女が見つけられないとなると、この辺りには既にシルフィは居ないということになる。


 魔王ちゃんはディオリスシアの街に背を向け、来た道を引き返す。


「魔王ちゃん? どうしたの-?」


 サキュバスは早歩きの魔王ちゃんに並ぶ。

 魔王ちゃんは前を見たまま自分の考えを伝えた。


「今すぐにネヴィリオに戻る。この虐殺が一昨日の昼に起きた出来事なら、シルフィの移動速度は私たちと同等かそれ以上。サキュバスちゃんの真我乖離(ヴァルキヤ)の索敵範囲を既に抜けているとするなら、確実に何か高速での移動手段を持っているはず」


 しかしそれ自体は驚くことではない。

 馬でもラクダでも、二日も走り通せばテリトリーを抜けること自体は可能だ。


 問題なのは、シルフィがそれほど急いでサキュバスの真我乖離(ヴァルキヤ)の効果範囲外まで移動したという事実。


「あっちは確実に私たちの動向を掴んでいるし、その上で計画的に動いていると見てまず間違いないと思う。そう考えると、この虐殺は私たちをネヴィリオから引き剥がすための罠の可能性がある」


 サキュバスは魔王ちゃんからアサルトバンカーを受け取り、眉根を寄せた。


「つまり、シルフィは私たちのいなくなったネヴィリオを襲おうとしてるってことー?」


「それは分からない。でも、私たちが対応出来ないようにしたい"何か"があると見て間違いないと思う」


 魔王ちゃんがどこまで想定しているのかサキュバスには分からない。

 しかし、シルフィが致命的な何かをしようとしていることだけは伝わってくる。


「急ぐよ、サキュバスちゃん」


「うん、銀翼竜たちも心配だしねー」

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『Mephisto-Walzer』

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