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メチル、カンナビスから噂を聞く

「で、魔王ネメスは青き炎を消そうってわけ!!」


 テーブルを囲む男たちはその言葉に大笑いを上げた。

 ウェイトレスの持ってきたコーヒーをすすり、そのうちの一人が新聞を卓上に叩き上げる。


 一面の見出しはこうだ。

 <<魔王ネメス、テトの街上空に出現 和平の意思を示す>>


「でも記事によると多数の死者が出てるって話だぜ? それで和平がしたいってならお笑い種だな! やっぱり野蛮な魔族の価値観は分からねーわ」


 その言葉に、隣の席の男が一言ぼやいた。


「噂によると、その死者ってのは勇者シアンが出したそうだがな」


「それ、本当かよ……?」


「仮にそうだとしても新聞の見出しに勇者様が人を殺したなんて書かねえだろ。むしろよくこんな記事載せられたもんだ」


「言われてみれば確かにな。記事によると、テトの街では魔王派の市民もいるらしいぜ?」


「魔王派!! こりゃ傑作だ! 人類の敵みてえな名前しておいて、やりたいことが和平ってんだからな!」


 男たちの笑い声をよそに、メチルは朝食のハニートーストを齧った。


 ほんのりと甘く、優しい風味が口内に広がるのを感じながら、男たちとは別の新聞を眺める。


 あれから一週間が経った。

 魔王ちゃんがパルパ半島周辺に残していった爪痕は深い。


 <<魔王ネメス、青き炎に徹底抗戦 何らかの策ありか……?>>


 そんな題目の紙面には、パルパ半島で起こった出来事の一部始終が、尾ひれと背びれを担ぎながら元気いっぱいに泳ぎ回っている。


「それで、僕に何の用かな……カンナ」


「うふふ……メチルのお友達に会って来たよ。面白いねー魔王ネメス!!」


 目の前でイチゴのパフェをつついているカンナビスに、メチルは眉根を寄せた。


 あれからメチルは魔王ちゃんやシアンとは会っていない。

 こちらはこちらで剣の修練に充てる時間が足りていないし、魔王ちゃんは魔王ちゃんで上手くやっていけると信じている。

 勇者シアンとは……まあ、会う必要が無いからどうでもいい。


「とか思ってるんだろうけど、さてさてどうだかね~?」


「どういう意味……?」


 ニタニタと笑うカンナビスに、メチルは早く話せと睨み付ける。


「ふふ、怖い怖い。メチルぅ、その気があれば私が剣を教えてあげてもいいんだよ~?」


「お生憎だけど、僕はカンナの師匠に剣を習ってる。十分に間に合ってるから、本題を話せ。はやく」


「はいはい、まったくつれないなぁ……。で、本題なんだけど……」


 カンナはわざわざ席を立ち、メチルの耳元でそれを囁く。


「シアンのレベリング……。どうやってるか私知ってるんだよね~!」


 その言葉に、メチルは思わず目を見開いた。

 彼女の表情にカンナビスはニヤニヤと笑う。


「昔王宮の地下で見たんだ~。偶然扉が開いてたから、そのまま地下まで続く螺旋階段を降りてったら、これはびっくり玉手箱~! かなり強力な魔物たちが沢山!! 蟲毒って言えばいいのかな……? 無数に犇めきあってさ……。これってメチルたちが知ってる言葉で言い表すと、()()()って言うんでしょ?」


 メチルはカンナビスと顔を見合わせる。


 まさか、そんなことがあるはずがない。

 どうやって王宮の地下に強力な魔物を飼っている?

 そもそも、どこから連れてきた魔物だ?

 どうやってテイムした?


 全部、何もかもがおかしい。


 人族ではどれをとっても不可能だ。


 もしそれが可能だと言うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「シアンのレベルに到達できるほどの強力な魔物を大量に……どこの誰がどうやって、何のために仕入れて来てるのかな~?」


 メチルは知っている。


 その魔物の名前を。

 出会ったことは一度もないけど、その魔物が作ったダンジョンは一度見ている。


「シルフィ……」


「うふふ……。ま、ちょっとした雑談程度の話だけどね! これから、何が起こるのか楽しみじゃない……?」


 カンナビスの言葉にメチルは言いようもない不安を覚える。

 人族の暮す白のテリトリーに、しかも王宮の地下に死々繰された魔物たちが無数に蠢いている。


 ただの与太話だとしても趣味が悪すぎる。


「参考程度に聞きたいんだけど……その魔物がもし仮に地上に出て人族を殺して回ったら、カンナはどうする?」


 メチルの不安そうな顔にカンナビスはにこりと微笑み、何も言わず、席を立った。


「今日は楽しかったよ、メチル! また面白そうなことがあったら顔出すよ~!」


 そう言って赤いポニーテールは店の外に出て行った。


「勇者シアンは……魔族の技術であの力を手に入れている……」


 あり得ない話ではない。


 シアンの性格からしてそんなことを受け入れるはずがないが、死々繰のエサをシルフィから買っているのが国の中枢だとするなら……シアンはそれを知らずに死々繰を人族の技術だと思い込んでいても何もおかしくはない。


「王宮の地下、か……」


 メチルは目の前に残された空のパフェグラスを見つめ、ふと呟いた。


「……お会計してなくないか、あいつ」


 メニュー表を取り、カンナの食べていたパフェの値段を確認する。


「しかも一番高いやつじゃないか!!!」

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『Mephisto-Walzer』

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