世界で一番、この世界を憎んだ神様
人々は空を見ていた。
雲ひとつない快晴に、無数の爆発音の鳴り響く昼下がり。
その魔物の名は魔王ネメス。
魔族の王にしてこの世界そのものへの反逆者。
人々は宙に浮くその魔物を見上げ、ただただ、今起こっている出来事が何なのかを知りたがっていた。
「ずっと見ていたよ、魔王ちゃん……」
その景色を天界より見下ろす破壊神は、地上界図を睨み、それからパルパ半島の人々と同じように宇宙を見上げた。
「この世界を造った人……私を造った人……見ていますか? あなたは私に何をさせたかったのですか? この地上界図を私に用意して、魔族の神として黒の世界を治めさせて……。ずっと、そこで嘲笑っていたのでしょう? この世界が壊れていくのを見ていることしか出来ない、無様な私の姿を」
破壊神は笑っている。
宇宙を見上げ、数億年に及ぶ残酷との決別を確信して。
「私は魔王ちゃんを見つけ出した。私を助けてくれる、たった一人の魔王様を……。そして、その魔王様がようやく全ての始まりを告げてくれた。だから、精々そこで見下ろしていなさい……ッ!! あなたが何を考えているのか私は知らない!!! 知りたくもないッ!!! 私はずっと……ずっとずっとずっと……!!! 一人で耐えてきた!!! この何もない、真っ白な空白の中で!!!!」
地上界を見下ろし、破壊神はぐっと拳を握る。
視線の先、魔王ネメスに強く、意思を届けるように。
「私はずっと寂しかった。一人でこんな場所に!! 何億年も!!! だから……魔王ちゃん、まけないで……絶対に勝って。お願い……」
勇者シアンなんか、どうでもいい。
女神なんてどうでもいい。
ただ、この世界を破壊して。
「そして、いつか私を迎えにきて……」
いつか、この空白の中を抜け出して、色鮮やかな世界を、この足で踏みしめてみたい。
その時には、魔王ちゃんに手を取ってほしい。
歩き慣れない私を、現実の世界を知らない私を……魔王ちゃんにエスコートしてほしい。
ただ、歩き方を教えてほしい。
「それだけでいいの……。それだけのために、私はずっとこの世界を治めているんだから……」
青き炎に、この世界が燃やされ尽くす前に。
「魔王ちゃん……ここが、最初の山場だよ……」
天界より見下ろす異形の神。
彼女は静かに祈る。
「お願いします……私の、たった一人の魔王様……」




