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第一次大攻防戦 その四

 これ以上はマズい。


 残りのレベルが3……つまり、あと三回シアンの剣を受けたら死ぬということだ。


 聖剣を回避し壊れたレイピアを打ち捨てる。

 地に刺さった別の破戒式を抜き取ろうとしたその瞬間、シアンはその先へと回り込んだ。


(真我乖離(ヴァルキヤ)を見破られたか……)


 サキュバスは抜き取ろうとしていたランスを諦め、すぐ背後に刺さっていた火炎剣を抜き取った。


「残りレベル3か……まさかその程度の魔力量でこの私と殺り合っていたとはな。心底驚いたぞ。本当だ。お前のその剣技だけには敬意を示してやってもいい」


「えー、いらないなー。私は魔王ちゃんがこのろくでもない世界を破壊してくれるのを見たいだけだしー」


「やはり魔族の考えだな。私は魔王を殺してこの世界を救う」


「救う意味あるー? こんな嫌な世界、誰も望んでないと思うけどなー?」


 刹那、光の速度で死が走った。

 サキュバスはそれを先読みして剣筋を回避する。


「このまま青き炎に飲まれたいのか!!」


「それもやだね。だから魔王ちゃんはその炎に抗ってる」


「抗えるものか!!」


「うちの魔王様ならきっとこう言うよー。『やる前から諦めちゃだめだよっ!!』ってねー」


 火炎剣の術式を解放し、火炎放射によりシアンとの距離を開ける。


「あなた、心底つまらないよー。だって出来そうなことしかやらないしー」


「お前を殺すのも簡単だ。その次は魔王ネメスを殺す」


「短絡的だねー。世界の半分は切り捨てるってんだから、諦めているも同然だよねー」


「人族と魔族は別の生き物だ」


「でも共存出来るって魔王ちゃんは示してくれた。私もテトの街で働いて楽しかった。みんな優しかった」


 新たに抜き取ったランスを構え、突進してくるシアンに、そのランスのトリガーを引いた。


 瞬間、術式が解放され、傘状に展開した内部機構から無数の楔が飛び出していく。

 シアンは咄嗟に身を退いて回避し、サキュバスが担うもう一方のアンブレランスに警戒しつつ距離を詰めてくる。


「それはお前たちが魔族だと知らなかったからだ。正体を明かせばどうなるかは分かるだろう? 民衆の魔族への忌避感情は覆せない」


「正体ならもう知られてるよ。魔王ちゃんは料理が得意な夢想家で、少し変なとこもあるけど、根はすっごく優しい子なんだって……。あの街の人たちはちゃんと知ってるよ。魔族とか魔王とか、そんな肩書きよりももっと重要な内面を知ってる」


 夢魔サキュバス、レベル2――


 シアンの剣を受け止め、サキュバスは苦し気に、しかし確信を持った笑みを浮かべる。


「魔王ちゃんはね……みんなを救うよ。絶対にね……。だから、あなたも黙って見ていればいいんだよッッッ!!!」


 刹那、シアンは周囲に魔力の流れを感じ取った。


(全方位……躱せない!!)


 咄嗟にサキュバスに掴みかかる勇者シアン。

 サキュバスが発動した術式なら、サキュバス本体に危害が加わるはずはない。

 故に、この状況での最善解は彼女との距離を詰めること。


「残念だけど、それは無理だよ」


 掴んだはずのサキュバスの腕がすり抜ける。


「時間差で発動するようにしておいたから。爆破術式と再演術式。私がいなくなっても発動自体はちゃんとするよ。あとはあなた一人でお楽しみに」


 魔王ちゃんは、あっち(パルパ半島)にいるから。


 刹那、サキュバスは現実世界の身体を消滅させ、数キロ先のパルパ半島にいる魔王ちゃんの夢の中へと逃げ込んだ。

 体をすり抜け地面に手を付いたシアンは、周囲に広がる原始魔法陣の流れに、直後の爆発を直感する。


「魔族風情があああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 視界が白に染まり、次いで爆音が鼓膜をぶち破った。


 勇者シアン、レベル884――


 無音と漆黒が襲い掛かり、崩れた地盤に足を掬われる。

 地下の奥、さらに下の空洞へと落ちるその瞬間、シアンは回復を行い、同時にスキルスロットから暗視スキルを発動した。


 地面に着地すると同時、目に入ったのは塞がっていく天井。


「原始魔法……!!」


 天井へと手のひらを向け、再演術式によって塞がる穴の破壊を試みる。

 しかし、不発――。


「これは……魔法阻害の術式か……!!!」


 シアンは聖剣を地面に叩きつけ、完全に塞がった天井にその魔物の名前を叫んだ。


「おのれ!!! 魔王ネメスッッッ!!!!」


 地下迷宮ダンジョン――

 魔王ネメスと対立するタカ派の高位魔族・シルフィが死々繰計画を進めるために作りだし、つい先日ネメスとメチルが攻略した、魔法を完全に阻害する特殊なダンジョン。


 魔王ちゃんはこのダンジョンを完全には破壊せず残しておいたのだ。

 そして今、勇者シアンはその地下迷宮に幽閉された。


 ここを脱出するには魔法に頼らず自らの脚で出口へと向かう他に手段はない。


 シアンはダンジョン内に残る魔王ネメスの残り香を辿る。

 この方角は……


「夢魔サキュバスは時間稼ぎか……!! 私がキュピス諸島を攻めている間に、入れ違いにパルパ半島へと攻め入るためのッッッ!!!」


 シアンは脚に魔力を巡らせ、全速力でネメスの残り香の跡を追う。


(よくもこの私をここまでコケにしてくれたな!!!!!)


 全力で駆け、サキュバスとネメスの作戦に激しく歯軋りする。


《勇者ちゃんのバーーーカ!!! 今回ばかりは絶対に殺されないからね!ざまあみろ!!!!!》


 上陸した際のトラップに刻まれたメッセージを思い出す。

 この勇者がまんまと魔王の手のひらの上で踊らされていた?


 あり得るのか、そんな事態が……。


「魔王ネメスッッッ!!!!!!!!!!!!!!」


 お前だけは確実に殺す。

 シアンは骨が折れるほど拳を強く握りしめた。

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『Mephisto-Walzer』

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