表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/147

第一次大攻防戦 その二

 夢魔サキュバス、レベル13――


 サキュバスは足元の魔法陣を使い切ると、目の前の勇者に視線を移す。


(よかったぁ―!! 滅茶苦茶ハッタリ効いてるよ魔王ちゃん!!!)


 魔王ちゃんの用意してくれた反転術式によるカウンター。

 銀翼竜との戦いで使った「消滅術式」と「制止の魔方陣」と同系列の最高位破戒式だ。


 サキュバスは攻撃系統の魔法を持たない。

 だから、魔王ちゃんはサキュバスに無数の破戒式と、使い切りの魔法陣を残していってくれた。


 先ほど使った、魔法の進行方向を逆転させる「反転術式」

 サキュバスと銀翼竜をまとめて消し飛ばせる威力の「爆破術式」

 現象を再現する「再演術式」


 反転術式によって勇者シアンの高威力の魔法をカウンターとして利用し、爆破術式によって有効打を与える。

 そして状況に合わせて再演術式を利用して、二つの魔法陣を再度発動してシアンを食い止める。


 それがサキュバスのこの場での役割だ。


(時間を稼ぐだけでいい……時間さえ稼げば、魔王ちゃんが全て上手くやってくれる……)


 確証はどこにもない。

 だけどサキュバスはネメスを信じている。


「まさか私が原始魔法を使えると思わなかったー? 甘いねー。甘すぎるよー」


 サキュバスのハッタリに、シアンは再度青き炎を刃に宿す。


(来た……)


 勇者シアン、レベル953――


 原始魔法による魔力消費は尋常ではない。

 ハッタリをかます価値は充分にある。


 サキュバスは身構え、武者震いに口端を上げながら、目の前の原始魔法に意識を集中する。


(流石に伝承級の魔法を目の前にすると体が竦むねー……。だけど)


 サキュバスは体内の魔力を輪転する。


 元よりサキュバスは最大でレベル18相当の魔力しか蓄えられない。

 これは生まれつきの体質だ。


 攻撃系の魔法は体内の魔力を外部に放出することでその効果を発揮するが、サキュバスの魔力量ではすぐに体内魔力が枯渇して自らの身を削ることになる。

 つまるところ攻撃魔法の才能が無かったのだ。


 だからサキュバスは攻撃魔法を取得することを諦めた。


(だけどね、ただ諦めただけじゃないんだよ……)


 サキュバスは両手に担う剣をグッと握り締めた。

 この剣技はサキュバスが必死になって手に入れた、唯一の攻撃手段だ。


 それに――


 サキュバスが意識を内に向けると共に、世界の全てが停止した。

 目の前の勇者も、その周囲の魔力の動きも……全てが停止したように見える。


 そう、()()()だけだ。


真我乖離(ヴァルキヤ)――」


 その呟きは、彼女の持つ唯一の魔法のスペル。


 人々の、魔物の、自らの意識へ……その深層へと潜り込む奥義。


 世界と精神を完全に切り分け、世界の流れと自らの精神の流れを"ずらす"。

 なめくじより遅く、コマ送りの世界。


 これによって敵の攻撃を完全に見切ることが可能になる。


 自らの精神に潜ったあとは敵の精神に潜り込む。

 勇者シアンの意識に介在し、現実に僅かな"夢"を織り交ぜる。


 これによってシアンはサキュバスのレベルから挙動、技のレパートリーまで全て錯覚してしまう。


 夢魔サキュバス、レベル32――


 無から剣を生成し、消滅させ、原始魔法を自由自在に操れる尋常ならざる魔物……。

 シアンが見ているものは、サキュバスがそう見せている虚像に過ぎない。


 本当のサキュバスはレベル10代で攻撃魔法が使えなくて、唯一の攻撃手段は魔王ちゃんの作る破戒式頼り。

 だけど、それでいいのだ。


「私は、それだけでも強いんだよねー」


 目の前の原始魔法を必死で回避し、シアンに"夢"を見せる。


「ッ!!?」


 シアンは何もない空間を勢いよく飛び退き、見えない()()を回避している。


 一度見せた反転術式を、シアンの認識内で再上演させる。


 意識を完全に支配することは出来ない。

 だけど錯覚させることは出来る。


「原始魔法使うのやめたほうがいいよー? 私、あなたの魔法全部跳ね返しちゃうしー」


 もちろん嘘だ。

 だけど、シアンはもう原始魔法は使えない。


 シアンの中にある恐れをサキュバスは読み取っている。


 ここまで来れば、あとは自分の得意分野だけで戦える。


「剣で殺りなよ。戦いって、元来そういうものでしょ?」


 サキュバスの挑発にシアンは炎を消して剣を構え直した。


「随分と腕に自信があるようだな……。油断はしない。確実に、少しずつ殺してやる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on ↓↓こちら平行して書いている異世界音楽ファンタジーです!↓↓

『Mephisto-Walzer』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ