戦の狼煙
シアンは足早に島を散策していく。
この島の生態系はほぼ全てがベーシックスライムであり、それ以外には僅かな雷トカゲとガーゴイル、大型ワームがいるくらいで大した戦力は見当たらない。
むしろこの島の脅威と呼べるものは……
「――ッ!!」
シアンが剣を振り抜くと共に、強烈な金属音が島中に響き渡る。
向こうの島から錨のようなものが高速で射出されてきた。
鉄塊が弧を描くようにして地面に落ち、シアンは剣を鞘に収める。
ここに来てから三度目だ。
他にも五回ほど爆破トラップを踏んでいるし、毒矢も何度か飛んできた。
島に大した魔物を用意出来なかった穴埋めのつもりだろうか。
「まさか本当にこの程度の戦力しか用意出来なかったのか……?」
足下のトラップを踏み抜き、爆炎の中を構わず進んでいく。
煙は天高く立ち上り、轟音が連続してキュピス島中に響き渡る。
スキルスロットの爆破耐性のお陰でシアンはまだ1ダメージも受けていない。
一通り島を探索して回り、シアンはまた別の島へと歩いて移動する。
諸島というだけありこの辺りの島の数は無数とも言えるほど。
しかしシアンは固有能力により魔王ネメスの残り香を追うことが出来る。
ネメスの残り香は真っ直ぐに奥の島へと続いており、そこまでに三つの島を経由する。
恐らく、この主要三島が防衛ラインの体を成しているはずだ。
罠の可能性を考慮し別の島々も確認してみたところ、戦力は間違いなくこの三島に密集している。
シアンはそれを無視して、直接本陣までやって来た。
馬鹿正直に相手していられる程暇ではない。
とっととネメスを殺して、島に戻って昼食を済ませたい。
しばらく歩くと、島の中心にダンジョンの入り口があるのを見つけた。
どうやら、ここがこのテリトリーの魔王城のようだ。
シアンはダンジョン内部へと足を運ぶ。
暗い城内の壁は岩肌が剝き出しで、城というよりはただの洞穴と言った風合いだ。
からっとした乾いた空気に魔の流れを感じ取る。
第一階層を下り、第二、第三階層と降下するにつれて、徐々に生活感のある部屋や道具が目につくようになってくる。
しかし、妙なことに城内にはまだ一匹も魔物が見当たらない。
「……まさか逃げたのか?」
一抹の不安が胸の奥をざわつかせる。
もし魔王ネメスが本当に逃げたのだとしたらここまで来た苦労が水の泡だ。
シアンは足早に奥の間へと進んで行く。
刹那、頭上から無数の棘が撃ち降ろされた。
ギリギリで回避したシアンは奥の間から現れた魔物を見据え、ステータス鑑定を発動する。
(ノイズ……?)
一瞬視界に僅かなノイズが走ったのが気がかりだが、鑑定は問題なく発動している。
夢魔サキュバス、レベル36――
サキュバスが手を払うと同時、先ほどの棘が霧となって消滅していく。
先ほどのノイズは何らかの妨害魔法の類だろうが、残念なことに大した効果は発揮出来なかったようだ。
「高位魔族か。妨害魔法を扱うあたり、正面からの攻防は苦手と見た。私の目的は魔王ネメスだ……それ以外に興味はない」
シアンがレーゼンアグニを抜き取るのを見ると、サキュバスは蠱惑的な笑みで彼女を挑発する。
「ふぅん……? まあ、私もあなたには興味ないしお互い様かなー?」
「雑魚が。道を開けろ……さもなければ殺す」
「やってみなよー。まあ、あなたには無理だろうけどねー」
刹那、二つの魔力がぶつかり合った。
第一次大攻防戦、開幕――!




