魔王ちゃん、依頼を完遂する
「お姉ちゃんにお兄さん! 私のミーシャを見つけてくれてありがとう!!」
女の子にミーシャと呼ばれた迷子猫は、彼女の腕の中でみゃおんと鳴く。
嬉しそうな女の子の笑顔を見て、魔王ちゃんやマッチョたちは互いに顔を見合わせ、親指を立てた。
それから、恐る恐る背後へと顔を向ける。
後ろでは憲兵たちが今か今かと、腕を組み、つま先をコツコツと上下に動かしている。
四人は憲兵たちから女の子のほうへと視線を戻した。
彼女はお母さんの腰に抱きつき、嬉々として捲くし立てるように喋っている。
「冒険者って凄いんだね! 本当に依頼通りにミーシャを見つけてくれた! 私も将来は冒険者になる!」
「そうねぇ……でも、しばらくはギルドには行っちゃ駄目よ?」
「え、どうして……?」
お母さんの言葉に眉根を寄せる女の子に、甲冑が膝を曲げ視線の高さを合わせた。
「お母さんの言う通りだ。冒険者ギルドは危ない依頼を扱う場所だ。それに、冒険者というものは常に危険が付きまとう」
「まあいいんじゃねえのー? なりたいってんなら、目指せばいいと思うぜ? ただし! 立派な冒険者になるには下積み修行が欠かせねえ! お嬢ちゃんには特別にその修行の中でも特に大事なことを教えてやろう!」
マッチョの言葉に、甲冑が警戒する。
良からぬことを言わなければいいが。
瞳をキラキラさせ、「なになに!?」と問う幼女と、困ったような顔で裏の憲兵のほうへと視線を向ける母親。
マッチョは幼女の頭を撫で、大事な下積み修行とやらを言い聞かせる。
「お嬢ちゃんの一番の修行は、お母さんの言うことをちゃんと聞くことだ」
「えー、そんなの全然冒険者じゃないよ! もっとカッコいいのがいい!」
女の子の言葉にマッチョは二っと笑う。
「いいや、これが一番大事で一番カッコいいんだ。冒険者ってのは、ギルドの依頼をこなして誰かを助けてやることが仕事だ。そのためだったら山越え谷超え海を越え、依頼主のために何だってやらなきゃならねえ。だから、まずはお母さんの依頼を完璧にこなすことだ。お母さんの依頼すらこなせないようじゃあ一人前の冒険者には程遠いからな!」
「お前、見た目のわりにマトモなことを言うじゃないか」
「見た目のわりには余計だ! ……どうだ、お嬢ちゃんは立派な冒険者になれそうか?」
マッチョの言葉に幼女は頷き、母親は安心した表情で微笑む。
ひとまず彼女の依頼がひと段落すると、背後から肩に手を掛けられた。
そろそろ潮時らしい。
「じゃあな、お嬢ちゃん! ……憲兵さん、お叱りは陰でひっそりとお願いします」
「立派な冒険者としてのお勤めご苦労だな。お前らの話は役所でゆっくり聞かせてもらおう」
「ひぇ……お手柔らかにお願いします……」
それから魔王ちゃんたちは夕方になるまで取り調べを受けさせられ、こっぴどく叱られた。
事情を全て話し解放されると、魔王ちゃんはどんよりとテトの街の離れの、いつもの砂浜へとやって来た。
「はあ、冒険者も大変だねえ」
「でもあの子が喜んでくれてよかったじゃんー? それに、冒険者についてもよく知れたよー?」
向こうのほうから飛んできた銀翼竜が、いつものように砂を撒き散らしながら砂浜に着陸する。
魔王ちゃんとサキュバスはそれに乗り、銀翼竜は羽ばたき海面すれすれを飛行する。
キュピス諸島へと帰る中、魔王ちゃんは思う。
今日は少し散々な目にも遭ったけど、以前よりももっと人族について詳しくなれた気がする。
今はまだ、魔王ちゃんは自分が魔族であることを隠しているけど……
いつかきっと、魔族と人族が何の気兼ねもなく一緒に暮らせる日が来ると思うのだ。
だって、今日はみんなで協力してひとつの依頼をこなしたのだ。
人族と魔族は協力できる。
メチルだけが特別だから夢を共有出来たわけじゃない。
人族のみんなとも、手を取り合って何かを成すことは出来るのだ。
それを、今日の出来事が証明してくれた。
「よぉおおしっ!! 明日も頑張るよサキュバスちゃん!」
「うーん、疲れない程度にねー?」
頑張れば、みんなが一緒に暮らせる未来はそう遠くない。




