勇者ちゃん、魔王ちゃんの居場所に気付く
王宮の会議を終え、シアンはカンナビスと合流した。
「うふふ……やっほーシアン!」
「カンナ、昨日はどこにいたんだ?」
隣に並んで歩くカンナビスにシアンが問うと、彼女はニヤニヤと笑う。
「えぇ~! 私は口に出しては言わないよ?」
「お前、私とメチルをずっと後からつけていただろ」
「ふうん? ……違うよ?」
カンナビスの言葉にシアンは少し俯いて考え込む。
シアンには"揺らぎ"を感じ取る力がある。
それは加護の力とは別にあるシアン本来の力だ。
魔王ネメスの破戒式、サキュバスの夢、メチルの全属性魔法……。
それらと同様に、生まれ持った自分自身の才能。
その力のお陰で、シアンは魔力の揺らぎを感じ取り、闇に溶け込む魔物を見つけ出すことが出来る。
同じように、風の揺らぎを感じ取ることで周囲の状況を感知することも出来る。
(あの時、確かに背後に人影があった……。あの時の魔力は確かにカンナのものだった……しかし……)
カンナビスはそこに自分はいなかったと言っている。
メチル同様、シアンはカンナの本性を知っている。
(何も無ければ後を付けることはないはずだ。そして嘘を吐くことも……)
シアンは、昨日のメチルの言葉にも違和感を感じていた。
彼女はレベル40の魔物を相手にしたと話していた。
しかし、彼女のレベルは25だ。
まともに戦って勝てるはずがない。
誰か協力者がいたはずだ。
そして、その協力者がカンナビスでないことは昨日の王宮会議の議事録を確認して把握している。
あの時、カンナビスはサキュバスという高位魔族と戦っていた。
メチルはレベル40の魔物を相手に勝利出来る"誰か"と共に、パルパ半島での一件を乗り越えた。
しかも、彼女の証言はそれを裏付けるのに充分なものだった。
(シルフィに死々繰計画か……矛盾しているな)
彼女はシルフィを狡猾で計算高い魔物だと言っていた。
しかも、その配下にはレベル40のゴーレムがいて、メチルは王都へ戻ってきた時にはレベル8まで減少していた。
道中で回復したと考えれば、レベル3以下までは削られたはずだ。
仮にゴーレムを撃破したとして、どうやってシルフィから死々繰計画の情報を聞き出した?
シルフィが狡猾な魔物なら、メチルが弱った時点でトドメを刺すはずだ。
その程度の相手を見逃すようなら、とても狡猾とは言い難い。
しかもメチルはシルフィの目的、死々繰計画の情報まで持ち帰ってきた。
一体どうやって……?
レベル3の人族が、レベル40のゴーレムを使役する高位魔族を追い詰めて口を割らせることなど、不可能だ。
(だがメチルは生きてその情報を掴んで来た。無理のない範囲で推測するなら……)
それは、シルフィを追い詰め情報を引き出せるだけの力を持った、強力な協力者がいたからだ。
しかし人族にそんなことが出来る奴はいない。
メチルよりレベルの高い人族は、この世界にシアンしかいないのだから。
つまり、元からそこにシルフィはそこにいなかった。
それか、彼女に魔族の協力者がいたのかもしれない。
「私は今からパルパ半島へと向かう」
「へえ……やっぱりシアンの勘も鋭いねえ~!」
「いいや、これは推測だ」
メチルの味方になる魔物。
必要とあらば魔族とも戦う魔物。
死々繰計画の破綻を望む魔物。
シアンにはその魔物に心当たりがある。
「見つけたぞ……」
シアンは教会のほうへと歩みを進める。
ここから転移盤を利用して、パルパ半島までは三日ほどだ。
シアンはパルパ半島のほうへと視線を向ける。
夕焼けの沈む西のそらへと手のひらをむけ、太陽を潰すように、その手を握った。
「なあ、そこにいるのはお前なんだろう……?」
魔王ネメス。
「まさかメチルを惑わせるとは、思ったよりお前も狡猾じゃないか……」
シアンは口端を上げ、歩みを早める。
「一刻も早く殺さなければな」




