魔王ちゃん、防衛用の特殊装置を設置する
勢いよく槍が放たれ、射線上のいかだが粉々に吹き飛んだ。
キュピス諸島の朝は身体いっぱいに気持ちのいい潮風を浴びるところから始まる。
燦燦と輝く日光の下、魔王ちゃんはグッとガッツポーズをすると、鉄製の機械のもとで屈み込んだ。
「魔王ちゃん調子良さそうだねー」
「ふっふっふ……これを見てサキュバスちゃん! 対艦船用自動射出型強制移動装置・パイルバンカーだよ!!」
「たいかんせん……え、なに……? なんて言ったのー?」
「対艦船用自動射出型強制移動装置・パイルバンカーだよ!!」
「ぁ……ふーん。凄いね魔王ちゃんー」
「えへへ~これ作るのすごく大変だったんだ~!」
魔王ちゃんは辺りいっぱいに散らかった鉄のガラクタをサキュバスちゃんに見せにこにこしている。
対するサキュバスちゃんは魔王ちゃんが何を作っているのか全く理解出来ていないし、そもそも理解することを放棄している。
サキュバスちゃんは魔王ちゃんとは違い、料理をしたり物を作ったりするのが苦手だ。
そういった作業には集中力や発想力を求められるが、サキュバスちゃんは途中で面倒臭くなって投げ出してしまう。
魔王ちゃんは装置の微調整を続けながら、目の前にある力作の説明を始めた。
「これはね、射線上に魔力を感知するとアンカーを自動で射出する装置なの。突き刺さったアンカーを巻き取ることで、対象を強制的にこっちのほうに移動させるってわけ! ずっとこの装置の構造を考えてたんだけど、ようやくアイデアが固まってきて、今朝やっと完成したんだ!!」
嬉しそうに語る魔王ちゃんに、サキュバスちゃんは苦笑いを浮かべた。
結局、この装置が何に使われるものなのか全く理解出来なかった。
「これ何に使うのー?」
「いろいろだよ! 最初は敵の船を巻き取って浅瀬に座礁させる目的で作ってたけど!」
「魔王ちゃん、普段は優しいのにたまに怖いこと言うよねー」
「ひ、酷い! 私そんなに怖いこと言った……?」
上目遣いで瞳をうるうるとさせながら聞いてくるネメス。
こういうことは、自分にだけやってくれている間は嬉しいが、もし他人にも同じことをやっているところ見掛けたら本気で殺したくなるやつだ。
「うーん、ちょっとだけ? それより、これってつまり敵の船が来た時の防衛装置ってことだよねー?」
キュピス諸島には現在、魔王城のある本島とは別に、三つの防衛ラインを敷いている。
この防衛ラインまでの道のりは激しい潮流と危険生物に阻まれており、攻め込むにはかなり難儀する。
単純に考えれば物量作戦によるごり押し以外にはないだろう。
多くの船はここへ辿り着く前に轟沈するはずだが、それでも、潜り抜けてきた船を全てこの装置で迎え撃つことは難しい気がする。
この装置は見た限り一発撃ちきりで、構造上、一度命中すれば二度目の射出は不可能のはず。
どう見ても手数が足りていない。
それを魔王ちゃんに伝えると、彼女はニヤリと笑い、装置を巻き取り再度射出準備を始めた。
巻き取られたパイルバンカーに魔力を充填し、轟音と共にその碇が飛んでいく。
向こうの島まで飛んだそれは岸の岩に突き刺さると、巻き取り機によってチェーンがピンと張られる。
島と島を繋ぐ一本の鉄のロープの完成だ。
「こんな感じで、移動を邪魔することも出来る!」
「確かにこれなら複数相手の足止めも出来るかも……考えたね魔王ちゃん」
サキュバスが感心する横で魔王ちゃんは胸を張る。
「折角防衛ラインを作ったのにスルーされたら意味ないからね。一応、これで各防衛ラインを上手く連携出来ると思う」
キュピス諸島の自衛能力は着実に強化されつつある。




