魔王ちゃん、戦力の増強を続ける
この数日間の間にキュピス諸島の生態系は初期の頃からは考えられないほど様変わりをした。
第一防衛ラインから第三防衛ラインにかけて、全ての島々にベーシックスライムと雷トカゲの繁殖・配備に成功。
また新たな戦力として下級上位の大型ワーム、中級下位のガーゴイルを生成し、本島での繁殖を待っている。
首尾よく行けば来週末には中級中位の魔物"キメラ"の生成も可能だろう。
そこまでいけば、ここは並みの冒険者では立ち入ることの出来ない危険領域に指定される。
現状、キュピス諸島の危険度は人族の規定するダンジョンランクでいうところの上から三番目。
いわゆる『危険度ランク:C』相当の領域だ。
もっとも、キュピス諸島は厄介な海中生物たちに守られた天然の砦であるため、人族の規定するランクによって一概に危険度を測ることは無意味な行為だ。
とりあえず、現状魔王ちゃんのすべきことは大型ワームとガーゴイルの育成。
その次にキメラを生成することだ。
大型ワームは下級の冒険者たちに立ちはだかる最初の壁だ。
倒し方さえ分かってしまえばどうということはない相手だが、コツを掴まないうちはかなり苦戦する。
取り立てて特徴の無い魔物ではあるが、それ故にステータス上の欠点も特にない無難なところがこの魔物の持ち味だ。
現状、キュピス諸島には正面切って戦える魔物が銀翼竜以外には一匹もいない。
ベーシックスライムはエサでしかなく、雷トカゲはどちらかというとトラップに近い。
そういうわけで、大型ワームはこの領域では最初のメインアタッカーを務める存在だ。
中級のメインアタッカーが現れるまでの間は彼らが防衛の要になる。
上限のレベルは5。
下級にしては悪くない数字だ。
そしてここに来て初めて生成した中級の魔物、ガーゴイル。
羽根の生えたこの石像は今まで作ってきた他の魔物とは一味違う。
何と言っても、使える魔法の数が三つもある。
火球を放つ「ファイアボール」
石球を放つ「ストーンボール」
あとは中級魔法である「下級魔族の呼び寄せ」だ。
そもそも、今まで作ってきた魔物はろくな魔法を使えない。
せいぜいが雷トカゲの「放電」くらいのもので、ベーシックスライムと大型ワーム、鉄ゴーレムは魔法とは無縁の物理攻撃主体の魔物である。
つまり、ガーゴイルはこの島で初の魔法による援護射撃要員だ。
敵を見つけ次第メインアタッカーの大型ワームを「呼び寄せ」して、協力して敵を排除してくれるはずだ。
レベルの上限は8。
中級下位では、まあ、普通くらいだ。
これで前線のメインアタッカーと後方支援のガーゴイルという最低限の戦闘単位が完成する。
これに雷トカゲのトラップが組み合わされば中級の冒険者パーティにも十分に対応出来る。
「よし! そこそこキュピス諸島の戦力も整ってきたね!」
「魔王ちゃんの手際が思ったよりも早くて私は驚いてるよー。流石に死にまくって同じこと繰り返してるだけあるねー」
「普通に褒めてよ! それに毎回同じってわけじゃないし!!」
サキュバスちゃんの軽口に頬を膨らますネメス。
「ごめんごめんー。でも、私は魔王ちゃんのそういうとこまで含めて好きなんだよー?」
「あ、ありがとう……? サキュバスちゃんなんか最近優しいね……」
「んふふー、まあねー」
サキュバスは魔王ちゃんにデレデレだ。
"告白"がサキュバスの勘違いだったと知れば、一体この後二人がどうなってしまうのかは想像に難くはないが……。
「ま、私としては嬉しいからいっか!!」
魔王ちゃんはニカっと笑った。
何故サキュバスが最近やたらとデレデレとくっ付いてくるのか、ネメスは全く気付かない。
勘違いで、勝手に彼女面している女みたいになっているサキュバスと、何の悪気もなくフラグを立てまくる無自覚最低系クソ主人公ムーブのネメス。
サキュバスは魔王ちゃんの肩に頬ずりして幸せそうだ。
「魔王ちゃん好き好き―」
「え、えへへ……私もだよっ! サキュバスちゃん!!」
この二人の勘違いは暫くの間は続きそうである。




