サキュバスちゃん、デレる
あれから数日経った。
魔王ちゃんはプレゼントに買った髪飾りを無事にサキュバスちゃんに渡すことが出来、それから目の前で手紙を朗読されて精神的に死んだ。
友達宛の感謝と謝罪の手紙を、その友達本人に目の前で読まれるというのは拷問以外の何物でもない。
魔王ちゃんは頭を抱え、茹でだこのように真っ赤になりながらのたうち回り、サキュバスちゃんはそれを見て爆笑していた。
なんでも、嫌な思いをさせられたのだから、仕返しのひとつやふたつくらい、魔王ちゃんは甘んじて受け入れるべきだというわけらしい。
サキュバスちゃんなりの仕返しを受け、魔王ちゃんとサキュバスちゃんはひとまず仲直りが出来た。
毎日整えていたサキュバスちゃん用のベッドも今は毎日フル稼働だ。
午前中はサキュバスちゃんが眠り、夜になると魔王ちゃんを捕まえてきてまた眠る。
「サキュバスちゃん……これ、サキュバスちゃん用のベッドなんだけど……」
「えへへー、二人で寝たほうがあったかいんだもーん」
「確かにそうだけど……私、人と寝るの苦手なんだよね……」
魔王ちゃんは頭にツノがある。
羊のような巻き角だが、これが眠るときに割と邪魔になる。
ひとりで寝るぶんには全く困らないのだが、隣に人がいると、怖くて寝返りが打てないのだ。
サキュバスちゃんに刺さってしまわないか心配で、昨日の夜もあまりよく眠れなかった。
そんなことを思っていると、サキュバスちゃんがこちらのほうを見つめてくる。
「魔王ちゃんは私と寝るの、そんなに嫌なのー?」
「う……嫌じゃないよ! だけど、角が刺さらないか心配で……」
「えへえへー魔王ちゃんそんなに私のこと心配なんだー? ふーん? まあ、私は魔王ちゃんの大切な部下で、"特別な"お友達だもんねー?」
"特別な"とは……たぶん、普通の友達ではいられないと言ったことが原因だろう。
あの日からサキュバスちゃんは目に見えて距離を詰めてくるようになった。
魔王ちゃんは今までサキュバスちゃんに冷たくされることのほうが多かったので、未だに現状に慣れず、対応がぎこちない。
対してサキュバスちゃんは魔王ちゃんにデレデレだ。
今までは魔王ちゃんを守るため、部下として、そして友達として彼女に接してきた。
あまり強くは言えなかったが、悪いところがあればやんわりと伝えるようにして、魔王ちゃんの行く末をどうにか良い方向へと導こうと努力していた。
もちろん、今でもその努力は怠らない。
しかし、方針は変わった。
魔王ちゃんは自分のことを、ただの友達ではいられないと言った。
それはつまり、特別な友達だということだ。
覚悟、死ぬこと、願い、夢……その全てを受け入れて欲しい。
魔王ちゃんはそう言った。
これはつまり、"告白"なのではないだろうか?
サキュバスはそれを思い出し、ベッドの中にうずくまる。
ここ数日、あの時のことを思い出しては、魔王ちゃんとは別の意味でゆでだこのようになり、ベッドの中に潜る日々を続けている。
サキュバスはまだ魔王ちゃんの告白に答えを出せずにいる。
魔王ちゃんとサキュバスが特別な友達であることは間違いない。
しかし、これ以上の関係となると……
「うぅ~困るよ~」
正直まんざらでもない。
魔王ちゃんにこうして抱きついたり甘えたりするのも、魔王ちゃんの全てを受け入れるのだから、当然魔王ちゃんも自分の全てを受け入れてくれるだろうという心理から来ている。
「サキュバスちゃん、一体どうしたの……? 最近おかしいよ……?」
いっぽうこの鈍感魔王は上記サキュバスの心理を一切汲み取っていない。
言葉面以上の意味は何一つ込めていなかったし、当然、告白したつもりも一切ない。
つまり、この二人の関係性はより一層面倒なものになってしまったのだ。
(えへへー、魔王ちゃん大好きー)
サキュバスは魔王ちゃんに抱きついて、また惰眠を貪り始めた。
二章長かった……




