魔王ちゃん、再会する
風が舞い、メチルは元の場所へと戻ってきた。
腹に空いた風穴は塞がって、全身の傷も治りきっている。
魔導士メチル、レベル1――
鑑定の結果、自分のレベルが1からやり直しとなっていることも分かった。
まあ、蘇れるだけありがたいのだが、ここら辺もなんとかして欲しかった。
贅沢は言えないが。
あと気になることと言えば、鑑定の結果、自分のスキルに新たな加護が追加されていることくらいだろうか?
女神の加護・鑑定――
破壊神の加護・復活――
(うわ……こうして見るとちょっと嫌だな……)
破壊神と女神は現在絶賛戦争中だ。
自分の体内にこの二人の加護があると思うと、いつか力同士が退け合って、身体が破裂でもしてしまうのではないかと心配になる。
しかし、今のところは大丈夫そうだ。
「メチルちゃぁああん!!!」
弱った体に盛大にタックルを受け、メチルは地面に後頭部を打ちつけた。
「あ、ごめん!! 痛かった!?」
「お前ぇ~!!!」
魔王ちゃんをポコポコと殴るメチルと、それに泣きながら、でも嬉しそうな魔王ちゃん。
メチルはひとしきり魔王ちゃんを殴り、魔王ちゃんはひとしきり殴られると、お互いに疲れた様子で地面に倒れ込み、二人で笑った。
「メチルちゃん帰ってきてくれてよかった……。破壊神ちゃん、ちゃんと助けてくれたんだね」
「思ったより悪い奴じゃなかった。それに、アイツも僕たちと同じ夢の持ち主なんだな」
それを聞いて、魔王ちゃんは嬉しそうに転がった。
メチルのほうを向いて、ニっと笑う。
「でしょでしょ!? 破壊神ちゃん、普段は冷たいけど本当は優しい子なんだよ~! 元気かな~? 会いたいなぁ……」
「それは駄目だろ。アイツに会うってことは、死ぬってことだからな。いくらお前が頑丈と言えど、復活できなくなるリスクはいつだってあるんだ」
「分かってるよぉ! それを言うならメチルちゃんだって!! 復活の加護も無いのにあんな無茶しちゃダメだよ!!」
痛いところを突かれ、メチルは目を逸らす。
「あれは……最強の魔法使いを目指して世界を救うって言った手前、あそこで退くのは格好が悪いだろ……」
魔王ちゃんはメチルの額にデコピンを食らわせる。
「いった……何するんだお前!!」
「何してるのはこっちのセリフだよ!! カッコいいとか悪いとか、そんな馬鹿みないな理由で自分の命を軽く投げ出さないでよ!!」
「お前がそれを言うのか……。その言葉吐き出す前に呑み込んで、お前こそ自分のやり方を考え直したらどうなんだ!? その私は痛くても大丈夫!! みんなのために頑張るよ!! みたいな、いかにもな良い子ムーブ……狙ってやっているなら虫唾が走る!! もう少し自分本位になって見たらどうだ!!」
「ひ、酷い……!! 私そんな良い子に見られたくてやってるわけじゃないよ!! というか、メチルちゃんこそ痛いはずなのにあんな魔法使って!! これからはあの魔法禁止だから!!」
「お前に何の決定権がある!! お前こそあんな自虐的な方法を即座に実行に移すのをやめろ!!」
ギャーギャーと喚き合う二人。
一通り罵り合い、二人は疲れたように溜息を吐いた。
「まあ、なんにせよ一件落着だ。今はそれでいいだろ。はあ……」
「そうだね……」
並んで寝そべり、ダンジョンの天井を眺める。
「ねえメチルちゃん……」
「なんだ?」
「メチルちゃんは白のテリトリーに帰っちゃうの? 私、メチルちゃんさえよければ魔王軍に歓迎するよ? 魔王城のみんなは良い子だし、きっと仲良く出来ると思う。せっかくお友達になったんだから、メチルちゃんともっと一緒にいたいよ……」
ネメスのそんな言葉に、メチルは考え込み、それから口を開いた。
「僕は……やっぱり白のテリトリーに戻る。シアンやカンナが怪しむだろうし、ここで帰らなかったら、次はアイツらが来るはずだ。そうしたらお前が殺される。僕はそれが嫌だ」
メチルは天井からネメスのほうへと視線を向けた。
「思うんだが、友達というものは、きっと遠くに行ってもずっと変わらないものだと思うんだ。友達のいない僕が言っても説得力は無いかもしれないけど、でも、そんな気がするんだ」
それを聞いて、ネメスは息を飲んだ。
「メチルちゃん……今、私のこと友達って言った……」
「え、あ、あぁ……お前がそう言ってたから……。嫌か……?」
もじもじとするメチルに、ネメスはぱぁっと笑顔を輝かせると、勢いよくぎゅっと抱きついた。
「メチルちゃんメチルちゃんメチルちゃん~!!!」
「う、苦しい!! お前ぇ! はなせ!!」
ネメスを突き放し、ぜえぜえと息を整える。
レベルが下がったせいか、体力も一段と低くなったようだ。
「えへへ~私、メチルちゃんから友達って言ってくれて嬉しいよ!!」
「そうか……そりゃあ良かったよ……」
疲れ果てたメチルは、額に手を当て、瞼を閉じた。
「僕はお前のお陰で夢を思い出した。それに、新しい夢も見つけた。まあ、その……感謝、してるよ……。あと」
メチルは覚悟を決めたように、口を開く。
「僕も……お前のこと、"魔王ちゃん"って呼んでもいいか?」
ネメスはその提案に両手をぎゅっと握り、ぶんぶんと頭を上下に振る。
「もちろん! もちろんだよぉ!! えへへ、嬉しいことが沢山だ~!!」
「よかった……」
二人が騒いでいると、ふと、天井からパラパラと土埃が落ちてくる。
耳を澄ますと、地響きのようなものも聞こえる。
「なんだ……?」
「……」
主代わりのゴーレムを倒して、ダンジョンそのものを保っていた術式が失われたのかもしれない。
もしそうなら、この迷宮ダンジョンは崩落し、二人は生き埋めだ。
「不味いね……早く脱出しないと……」
「脱出って、どこからだよ……。入り口の穴はなくなったし、僕たちはまだ出口を見つけてないんだぞ?」
次第に地響きは激しくなり、天井が徐々に崩れ始めている。
パラパラと土や石が落ちてくる中、魔王ちゃんとメチルはあわあわしているしかない。
「また破壊神ちゃんに怒られる!!」
「アイツそんなに怒るのか!?」
刹那、天井が崩落した。
二人は落ちてきた岩盤を全力で回避し、土煙に噎せ込みながら、その光景を目の当たりにした。
銀の竜と、露出の激しい高位魔族にゴースト……。
「サキュバスちゃん!?」
驚く魔王ちゃんは、改めて天井のほうへと視線を向けた。
見慣れた景色だ。
「ここって……」
「お察しの通り、魔王城直下でーす。魔王ちゃん、助けに来るのが遅れてごめんねー」
「うわぁあああああん!!! サキュバスちゃぁああああああん!!!! また会えてよかったよぉおおおお!!!!」




