魔王ちゃんとメチルと覚悟の魔法 その一
魔王ちゃんの剣が袈裟斬りに振り下ろされる。
剣の亡者は先ほどから微動だにせず、ただ真っ直ぐに真正面を向いている。
(やれる……!!)
そう思った刹那、火花が弾けた。
「――ッ!?」
鉄と鉄の弾ける音、次いで右手に走る激しい痺れ。
魔王ちゃんは続く二撃目を左の火炎剣で受け止め、そのまま壁へと吹き飛ばされる。
痛む体を無理やり転し、その次の瞬間、すぐ真横に強烈な蹴りが入った。
一瞬遅れで壁に亀裂が入り、こちらを睨む甲冑と視線が重なる。
(この子、速い……)
瞬時に斬り抜かれた足元の空間を眼下に見下ろし、咄嗟に跳ねた魔王ちゃんは火炎剣の切っ先を亡者へと向けた。
「術式、最大出――」
甲冑が左手を突き出すのを見切り、魔王ちゃんは魔力放出して後方へと退がり、距離を開けた。
火炎剣の術式最大解放を見越して、剣の亡者は左手を突き出してきた。
それはつまり、相手は防御魔法を所持していることの証明だ。
レベル49の魔物から放たれる防御魔法となれば、火炎剣の最大出力を以てしても深手を負わすことは難しい。
それに、魔王ちゃんの現状のレベルは僅か8……。
身体能力的にも、種族としての地力を以てしても互角が良いところだ。
魔王ちゃんは視線を逸らし、弓の狙いを付けているメチルを流し見た。
力量が互角、判断力も互角、パワーも互角。
そうなれば、この戦いはメチルの行動次第で是とも非ともなりうるわけだ。
魔法を使えない彼女が狙われ、重荷となれば敗北に。
逆に、有効な援護を差し挟める技量と、戦局を見極める目が彼女にあるのなら、この戦い、勝機は十全にある。
「は――ッ!!」
懐へと跳び込み、火炎剣を薙ぐ。
軽い身のこなしの魔王ちゃんに対し、目の前の巨躯は勝るとも劣らない機動を見せる。
瞬時に反撃の剣が向けられ、魔王ちゃんはもう一方の刃でそれをいなす。
二刀流というものは、基本的にはメインとなる一振りにサブの一振りを合わせた形を取ることが多い。
攻撃寄りの利き手に防御寄りの逆手。
攻防を併せ持つことにより一刀流に対抗する。
しかし、魔王ちゃんのスタイルはこの世界に多く見られる二刀流とは違う流派のものだ。
「ッ!!!」
振り下ろされる刃を右の火炎剣で弾き、左の刃を突き込む。
魔王ちゃんの二刀流に"左右の違い"はない。
右の剣と左の剣、その両方が攻の剣であり、同時に防の剣でもある。
これは銀翼竜の時にも見た、サキュバスちゃんの二刀流を真似したものだ。
本家には及ばないものの、これでも形にはなっていると魔王ちゃんは自負している。
甲冑の脇を削り取り、そのまま背後へと抜ける。
剣の亡者、レベル48――
レベル一つ分のダメージを与えたが、このままではかなり分が悪い。
刹那、甲冑は勢いよく剣を振り上げた。
カンという音と共に、後方へと弾かれた弓。
「クソ……今のは当たっただろ……」
二本目の矢をつがえ、さらに狙いを定めるメチル。
弓の精度が僅かにだが上達している。
甲冑はメチルのほうへと視線を向け、バイザーの奥の赤い炎を揺らめかせる。
「――ッ!!」
衝撃。
腹部へと叩きつけられる刃。
ギシりと軋む音と共に、甲冑が吹き飛ばされる。
剣の亡者は壁まで後退り、なんとか体勢を立て直し、その奥の炎を強く発光させた。
魔王ちゃんはメチルと目を合わせ、頷く。
「私たちは絶対にここを出る」
「夢を叶えるためにもな」




