魔王ちゃんとメチル、ダンジョンボスに遭遇する
食事と水分補給によって心身共に回復した。
魔王ちゃんは先ほど新たに生成した破戒式を二振り、二刀流で装備している。
「お前のその剣、光るんだな」
「うん! これは焔・順式と焔・逆式だよ!」
焔はその名の通り、内部に炎の術式を宿すことによって高熱を発する剣だ。
熱によって切断能力を上げつつ、炎の光によってメチルからの視認性を高めている。
術式を内部に格納し、本体を壊さない程度に発動し続けることで、魔法阻害の結界内でも扱えるようになっている。
熱と光自体は魔法に伴う"現象"でしかないため、敵の術理に阻害されることなく存分に効果を発揮できる。
また、一度だけだが内部の術式を最大出力で発動することで火炎放射も可能だ。
例によって本体を突き破って発動する構造のため、一回使い切りの必殺技となる。
「順式と逆式に違いはあるのか?」
「ないよ! でも別々の名前付けたほうがカッコいいでしょ?」
「ややこしい。今からそれは火炎剣だ。右手のほうが火炎剣・右、左手のほうを火炎剣・左でいいだろ」
「酷い!! 折角カッコいい名前にしたのに!! そんな適当なやつにしないで!!」
「分かりやすさ第一だ。戦闘中に名前が分からなくなると困る」
メチルはローブの中に十本の辻斬りナイフを装備し、スパークレイピアを腰に佩く。
基本的には素のスペックが高く肉弾戦に対応できる魔王ちゃんが前衛、体力に自信がなく回復も出来ないメチルが後衛から援護する形を取る。
魔王ちゃんが相手の気を引き付けつつ、メチルは弓とナイフで援護を。
万が一、敵の注意がメチルへと向き、メチルに肉弾戦を強いられるような状況では、強化されたスパークレイピア・改の高圧電流で自衛するといった方針だ。
メチルが肉弾戦を強いられる事態は最悪の展開であり、そうなった時点でこちらの不利は確定している。しかし相手が高位魔族だったとしてもスパークレイピア・改の放電を使えば確実に数秒は動きを止められる。
放電は一度しか使えないが、その数秒を上手く使えば魔王ちゃんが形勢をひっくり返せるだろうとった算段だ。
「基本的にはメチルちゃんに近づかれないように頑張るけど、状況によっては守り切れない場合もあるから。その時は何とか時間を稼いでね」
「魔法さえ使えればと心の底からこの状況を呪うよ。まあ、任せておけ。いくら僕が運動の出来ない後衛魔法使いとは言え、レベル26の基礎スペックがあれば並大抵の状況は力づくでも何とかなると証明してみせよう」
「それは楽しみだね!」
魔王ちゃんとメチルは共に鉄の扉に手を掛けた。
「……いくよ」
「言われなくともそのつもりだ」
ゆっくりと扉が開かれ、二人は奥の間へと足を踏み入れる。
辺りには石造りの彫刻が立ち並び、その中央に赤茶色の甲冑が静かにかしずいている。
静謐な雰囲気の中、その甲冑はゆっくりと立ち上がる。
全長三メートル程の巨体の奥、空っぽの甲冑の底に赤い炎がゆらりゆらりと揺れている。
――剣の亡者、レベル49
「おい、そのレベルは高すぎるだろ……」
「メチルちゃん、最初の段取り通りに行こう。心配しなくても大丈夫。だって私たちは一人じゃないから」
二刀流を構え剣の亡者を見据えるネメス。
その姿に、メチルは肩を竦めた。
(やるときにはやる奴だったか……。まあいい、僕もやるだけやってみよう)
メチルは弓矢を構え、ネメスの背後に回る。
「いくよ――!!」
「ああ!!」
二人の戦いが、始まる――




