魔王ちゃん、テイマー市場へと向かう
大通りを抜けてテイマー市場へと入って行く魔王ちゃん。
その足取りは軽く、るんるんと嬉しそうだ。
胸元で小包を大事そうに握り締め、口元を綻ばせている。
「えへへ~お金たくさん貰っちゃった」
約六時間でチップも含めて23,000ゴールド。
魔王ちゃんはこの金額が安いのか高いのかよく分かっていないが、たぶん沢山貰えたはずだ。
「これだけあればきっとたくさん戦力を整えられるはず……!」
それはそうと、お店で出した料理はお客さんたちから絶賛され、魔王ちゃんは鼻が高かった。
いつもいつも、殺されてはサバイバルして、復活しては狩りをして……
そうして培われたサバイバル技術は、食材に無駄な部位を出さず、素材ごとの特性を理解し活かす知識となった。
勇者ちゃんに殺され続けることによって磨かれた料理の腕前は、素材の良さを極限まで引き出す。
一朝一夕では身に付かない文字通り命懸けで習得してきた生きた知識が、ネメスの料理技能の下地となっているのだ。
正直、魔王ちゃんは戦うことより、こうして料理をしたり何かを作ったりすることのほうが好きだ。
戦って得られたものなど、それに付随して生まれた痛みや悲しみと相殺される。
だけど、こうして何かを作って誰かと共有すれば、みんなが幸せになれる。
魔王ちゃんは、そういうことのほうが好きだ。
もとより才能のあった戦闘技能より、必死になって覚えた料理のほうが愛着があるというのも実際のところ大きなウェイトを占めている。
「っと、ここがテイマー市場……」
奥まった裏路地を抜けると、籠に入った下級魔族の並ぶ露店街へと出た。
籠を見て物色している人たちは恐らく冒険者……テイマーの人たちだ。
魔王ちゃんは通りを歩きながら陳列された下位魔族を眺める。
「槍モスキートが9,000ゴールドで、キラーラットが11,000ゴールド……。高い……」
魔王ちゃんの目的は島の生態系の多様化であり、購入する魔物は漏れなくつがいにする必要が出てくる。
そう考えると、ここに陳列されている金額の二倍はないとお話にならない。
暫く物色していると、物陰にバチバチと発光する魔物が見えた。
近寄って見てみると、小さなトカゲが放電している。
「雷トカゲだ! これ結構防衛能力高いんだよね~」
「お嬢ちゃん、どうだいそれ。今ならオマケして一匹25,000ゴールドで手を打とう」
「うっ……一匹も買えない……」
魔王ちゃんは小包をぎゅっと握り締め眉根を寄せた。
やはり魔王ちゃんが欲しい魔物ともなると、市販されている中ではそれなりの値段がしてしまうらしい。
とはいえ、この雷トカゲも下級の中では中くらいの階層にあたる魔物で、そう滅茶苦茶強いというわけでもないのだが……。
「すみません……もうちょっと見てみます……」
思ったよりも魔物の取引価格は高い。
というより、魔王ちゃんの所持金があまりに少なすぎる。
あと一日か二日働いてから出直すべきか……。
「でもあまり白のテリトリーに長居するのもリスキーだし……」
そこまで考えて、魔王ちゃんはハッとした。
小走りで先ほどの露店の前まで戻り、店主の前で小包をひっくり返し、全財産の23,000ゴールドを机上に並べた。
「2,000ゴールドおまけして、そこの雷トカゲ買わせてください!!」
「ふん……それ以上の持ち金は無いってか? まあいい、持ってけよ」
「ありがとう!」
そう言うと、魔王ちゃんは雷トカゲを一匹だけ購入して露店街を後にした。




