魔王ちゃん、再起を図る
クソ女こと、魔王ちゃんこと、魔族の王ネメスは死んだ魚のような目で虚空を見つめている。
「もうおわりだぁ……」
サキュバスちゃんが逃げ出し小一時間泣き続け、気付けばもう次の日の朝である。
夜通し魔王ちゃんのすすり泣く声を聞かされ続けたゴーストと銀翼竜はぐったりとした表情で、壊れたマリオネットのようになった主の姿を眺めている。
「サキュバスちゃんに嫌われた……。どうして……? 私はサキュバスちゃんのことこんなにも好きなのに……。ひどいよ……。悲しいよ……。私ってそんなにクソ女なのかな……?」
魔王ちゃんは魔力でうさぎのぬいぐるみを生成し、それを操って会話をし始めた。
「そんなことないよ!! 魔王ちゃんは可愛くて人望もあってすっごくみんなに好かれてるよ!! 魔王ちゃん大好き!!」
「本当に!? ありがとううさちゃん! おかげで元気出たよ!!」
裏声を使ってうさぎのぬいぐるみと会話をする魔王ちゃんに、ゴーストと銀翼竜はドン引きしている。
魔王ちゃんは基本的に拗らせている。
友達がほとんど存在せず、数少ない理解者のサキュバスにもつい先刻逃げられた。
魔王ちゃんは孤独に追いやられ精神的に耐えかねる状況に陥ると、友達と遊ぶ妄想をしたり、こうして仮想の友達と一緒にお話をすることでセルフコントロールを行い精神崩壊を未然に防ぐようにしている。
「よしっ! 元気出たし頑張るぞー!! おー!!」
うさちゃんを消滅させ立ち上がる魔王ちゃん。
その姿は傍から見たら狂人そのもの。
「まずはお外に出よう。外の空気を吸ったら何か変わるかもしれないし」
ぐずぐずしていても仕方がない。
とりあえず城から出て何かしなければ。
魔王城を建設したとはいえ、まだやるべきことは山積みなのだ。
「っとその前に……」
ダンジョン内の隣の部屋へと向かい、その中央に設置してある巨大なベッドをせっせと整える。
この魔王城を建設して、復活して戻ってきてから真っ先に生成したサキュバスちゃん専用のベッドだ。
復活直後のレベル1の段階でこれを作ったため魔王ちゃんはまたもや死にかけ、そのせいでサキュバスちゃんは怒り狂って一度もこのベッドを使ってくれていない。
サキュバスちゃんはネメスにとって一番大切な友達だ。
眠るのが好きで、面倒くさがりで、優しい高位魔族。
そんなサキュバスちゃんに感謝の気持ちを届けたい。
このふかふかのベッドで思う存分熟睡して欲しい。
サキュバスちゃんだって、いつまでも怒っているわけではないだろう。
いつ寝ても大丈夫なように、ネメスは毎日こうして、このベッドをミリ単位で整えている。
「これでよしっと! さあ、魔王活動再開だー!!」
第三階層、第二階層、第一階層を経由して地上へと出るネメス。
ダンジョンの入り口には先日生成した鉄ゴーレムA・Bが左右に控えている。
この一週間のうちにダンジョン内に新たに三体の魔物を配置した。
魔王ちゃんが一日に生成出来る魔物は一体のみ。
しかもその生成には体内魔力を必要とするため無闇やたらと毎日生成するわけにもいかない。
そんなわけで魔王ちゃんがこの一週間で生成した魔物は鉄ゴーレムが二体、あとは歩くヒヤシンスが一体だ。
鉄ゴーレムは魔王城の門番として生成し、歩くヒヤシンスはサキュバスちゃんの機嫌を直すために試しに出してみたものを放置している。特に役に立たないが、一応観葉植物なので魔王城に彩りが増えたという点では無駄ではなかったと思う。
外の空気をいっぱいに吸い、朝の陽気に背伸びをする。
「いい朝だー!」
魔族は闇夜に潜みし者。
ただし、魔王ちゃんは朝も好きだ。




