魔王ちゃん、サキュバスちゃんの機嫌を損ねる
あれから一週間が経った。
「ねーえー! サキュバスちゃん許してよぉ!! ねーえー!!」
「……」
「サーキューバ―スーちゃー……ん゛ーッッッ!!!!」
「ッ!!?! はあ……うるっさ…………」
魔王城地下第四層【竜の間】
一週間前に戦いがあったこの場所で、ネメスはサキュバスの肩を掴んでひたすら彼女のことを揺さぶっている。
「サキュバスちゃんごめんね……。ごめんね……。サキュバスちゃんゆるしてよぉおおお!!!!!!」
城中にこだまする大声にサキュバスは明確に不快そうな顔つきで彼女のことを睨み付ける。
「べっつにー? 許しても何も、私は魔王ちゃんに何かをされたわけじゃないからー? てか何謝ってるのー?」
「うえーん!! なんでそんな冷たいのぉおおお!!!! 許してよぉ!! サキュバスちゃーん!!!」
他人行儀のサキュバスに涙目で縋るネメス。
かれこれ一週間こんなことを続けている二人を、部屋の隅から銀翼竜が冷めた目で見つめている。
あれから魔王城が建築されたことにより銀翼竜のコントロールがこの城の支配下に置かれた。
魔王城は魔王ちゃんの支配下にあるので、言ってしまえば銀翼竜は魔王ちゃんの使い魔と言って差し支えない。
直属の支配下に置くことも出来なくはないが、最初から拠点防衛用に生成されていた銀翼竜はダンジョンとの契約のほうが相性がいい。
そもそも魔王ちゃんはあの直後に一度死んでしまっていたため、あの時は城でコントロールするしかなかったという事情もあった。
わざわざ契約を更新する手間もあるし、銀翼竜の相性や能力も鑑みて、とりあえずはこの城を守る番竜とすることにした。
「サキュバスちゃん…………」
「ふ、ふーんだ。そんな顔しても意味ないよーだ。私は関係ないからねー、愚図で鈍感な馬鹿魔王様ー? せいぜいそこで勝手に謝ってなー?」
「う……ひぐっ、……ぐす……」
サキュバスの心無い言葉にネメスは崩れるようにして地面にへたり込む。
「ま、魔王ちゃん!? そ、そんなガチ泣きするなんて……ごめんね! 実はね……」
サキュバスが魔王ちゃんの肩に寄り添い心配した様子で声を掛ける。
対してネメスは「にひひ」と笑いながら顔を上げた。
「てへっ! うそ泣きでしたー!! 敵を騙すなら味方からってね!! にっしっしー、サキュバスちゃーん? 実はなあに~??」
舌を出してウインクするネメスにサキュバスは歯軋りする。
「サイッテー……。もう魔王ちゃん嫌い。魔王ちゃんなんて死んじゃえ」
いつもより二段階ほど低い声音のサキュバスに、ネメスはあわあわと両手を振って弁明する。
「ち、違うのサキュバスちゃん!! うそ泣きはうそ泣きでも、これは良いうそ泣きなの!! サキュバスちゃんがお話してくれないから、ちょっと気を引こうと思っただけで!!」
「そういうとこだよ魔王ちゃん。クソじゃん。クソ女じゃん!!」
「ひ、ひどい!! 酷い酷い酷い酷い酷い!!!」
「さて、酷いのはどっちかなー? 嘘つきの魔王ちゃんとはもう一生お話しませーん。ばいばーい」
そう言ってサキュバスはどこかの誰かの夢の中へと消えていった。
静まり返った魔王城に、魔王ちゃんの微かなすすり泣きが聞こえてくる。
銀翼竜とゴーストは顔を見合わせ、心底嫌そうな表情をしている。
「…………じゃないもん」
魔王ちゃんはサキュバスの消えた空間に叫ぶ。
「クソ女じゃないもん!!!!!」
どこがだよ――――
銀翼竜とゴーストはそう思いながら、おんおんと泣くクソ女を見つめていた。




