勇者ちゃん、パーティメンバーと再会する
「シアン、来客だ」
ノックとともに扉の向こうからメチルの声が聞こえてくる。
宿屋の二階、一番奥の部屋。
そこに勇者シアンは宿泊している。
ベッドから起き上がり寝間着のまま扉を開けた瞬間、その少女は有無を言わさず抱きついてきた。
受け止めたはいいものの、あまりの勢いに一、二ほど後ろによろめいてしまう。
「シアン~!! 久しぶり~!!」
顔を上げニカっと笑う少女にシアンはふっと微笑む。
「カンナか。どうしたんだ、本当に久しぶりじゃないか」
視界に様々なパラメータが浮かび上がるが、そんなものは既に見慣れている。
カンナビス、レベル19――
真っ赤な髪を後ろで結んだ、活発な容姿の少女。
背には大振りの槍を背負い、腰には左右に剣と刀を佩き、太ももに巻いたホルスターにはナイフやダガー、クナイといった刃物がぎっしり。前腕には専用のナイフホルダーが括り付けられ、懐にも当然のように大量の刃物が潜んでいる。
彼女はかつて旅を共にした前線のアタッカーだ。
あらゆる流派の剣技を修め、剣聖に勝るとも劣らないと語られる生粋の武術家。
それが彼女、カンナビスだ。
「冒険者ギルドで聞いたんだよ~!! シアンがこの街に来てるって!! 私もう居ても立ってもいられなくなっちゃって、この街の宿屋は全部見てきたんだよ~!!」
「それで偶然見つけた彼女をここへと連れてきた。まったく、人様の迷惑を考えてほしいな」
メチルが溜息を吐くのも気にせず、カンナビスはニコニコと笑っている。
「ま、こうして無事再会出来たんだからいいってことよ~!!」
「まったく……」
とりあえず二人に部屋に入るよう促す。
カンナビスはベッドにダイブし、メチルは目を細める。
「これでかつての勇者パーティが全員集合ってわけか」
「すごい偶然だね~!! これってもしかして運命なのかな~!?」
「自分から探し回っておいて運命か」
「運命は自分の力で切り開くものだからね~!!」
カンナの言い分にメチルはむっと口をつぐむ。
いつも上から目線のメチルだが、彼女のペースには滅法弱い。
「それより、カンナはなぜこの街に?」
シアンの問いに、カンナは少し考え込み、それからニカっと笑う。
「分かんない!!」
「そうかそうか。確かにお前に聞くのも野暮だったな」
「なんかね、ここに来たら面白いことが起こりそうって思ったんだよ~!! 血が騒いだっていうか、戦の匂いだ!! ってなって~!!」
カンナは昔から戦の勘に優れていた。
理論、理屈に頼るより、直感に物を言わせる天才肌。
センスだけで数多の戦を潜り抜けてきた、刃を纏った猛獣。
それ故に、彼女の勘を根拠が無いからと無下に切り捨てるわけにもいかない。
彼女の勘は当たる。
「お前が言うならそうなんだろうな。もしも魔王ネメスがこの辺りにいるってんならすぐにでも殺しに行きたい気分だが……残念なことに、俺は国王に呼び出されていてな」
「そっか~!! それじゃあ私が独り占めしちゃおっかな~!!」
「お前の好きなようにするといい。無茶はするなよ」
「待てシアン。なぜこの付近に魔王がいることを前提に話が進んでいるんだ……。カンナの言うことには何の根拠もないんだぞ」
メチルがもっともらしいことを言っているが、カンナはそれを笑い飛ばす。
「戦に根拠なんていらないよ~!! とにかく、私は魔王と戦う!! だって戦いたいから!!」
「話の通じない奴だ……」
メチルがそう呟くのを尻目に、カンナビスはこれから先の戦いを想い舌なめずりをする。
「最強の魔物ネメス……一体どれくらい強いんだろう~!! もう戦う前からゾクゾクしちゃうよ~!!! はあ、早く戦いたい!!! 早く殺したい!!! 恋焦がれすぎて胸が張り裂けそうだよ~!!!」
二章入りました。
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