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どうすればいい?

 サキュバスは自陣へと戻り、回復魔法を使える者たちに負傷者の手当を指示し、それから手の空いている者には武器防具の点検を命じてシルフィたちの元へと戻った。


「サキュバスさん、すまない……解析はある程度進んだんだが、まだ肝心な部分が読み解けていないんだ。苦労を掛けさせていることは分かっているんだが、あともう少しだけ時間が欲しい……」


「ううん……。私がお願いしてることだからー……」


 シルフィの言葉に力無い声で返し、サキュバスは俯く。

 その姿をみて、アズサがサキュバスに声を掛ける。


「サキュバス……大丈夫か? 身体が震えているけど……」


「え……?」


 サキュバスはそう言われて、自分の身体へと視線を降ろす。

 ぼろぼろのローブの中で、両手が震えているのが見える。


 意識すると全身が酷く寒い。

 心臓が凍てついたかのように痛み、手足の先はまるで氷水に浸したかのように冷たい。


「あ、はは……私、わたし……」


 サキュバスは力が抜けたかのように、木の生え際に腰を下ろした。

 全身の震えを抑えるように身体を抱き、俯く。


「怖いよ……まおうちゃん……わたし、こわい……」


 サキュバスはぽろぽろと涙の粒を地面に溢し、自分が泣いていることに気付き、驚きながら、その目を擦る。

 だけど、自覚した恐れは止まってくれない。

 これは……そうだ。皆がすでに経験していたはずのものなのだ。


「私は罪魔教の教祖になった……魔王ちゃんに会うために、自分の目的のためにみんなに命令を下してきた……。これは魔王ちゃんがやって来たことだ……。みんなの命を、私の願いのために使う……。それがどれだけ重いことなのか……」


 サキュバスは今まで死者を出さずに戦ってきた。

 それは、やろうと思えば出来る範囲の、ごくごく小さな作戦だったからだ。

 だけど、事の規模が大きくなれば死者が出るのは避けられない。


 魔王ちゃんは、領域戦争を背負っていた。

 世界を救うために、世界全ての責任を背負っていた。


 彼女が背負っていたものの重さを、サキュバスは初めて実感として理解した。


「私は、人の夢を見ることが出来る……。人の深層心理に入って、それを追体験出来る。だけど、それはあくまで見るだけなんだ……。その人の気持ちなんて分かんない……。っ……分かんなかったんだよ……」


 何でも知っている気になっていた。

 だけど、そうじゃない。


 大切なのは"事実"じゃなくて"真実"だ。

 感情の伴わないものは真実とは言えない。

 今までサキュバスが見てきたものは、ただの事実の羅列に過ぎない。情報に過ぎない。


「女神ちゃん……シルフィが死んで、その後ろ姿を追った時、あなたはこういう気持ちだったの……?」


 アズサはそれを聞き、何も言わずに俯いた。

 それを見て、サキュバスは奥歯を噛んで、さらに零れる涙に耐えられなくなった。


 みんな、何かの辛さを背負っているんだ。

 全部見えていると思っていた自分には、それが見えていなかった。


 今サキュバスは魔王ちゃんの背負っていたものを背負っている。

 女神の受けていた苦しみを受けている。


 ノーム、ウンディーネ、メチル、ニトロ、カンナビス、シルフィ、ラジウム、アズサ、シアン……。

 誰にだって、思い思いの何かが、十字架がその背に架かっているのだ。


「1パーセントを探さなくちゃ……」


 サキュバスは自分に出来ることが何なのか分かった気でいた。

 剣撃と、真我乖離(ヴァルキヤ)だ。


 でも、それだけじゃない。


 歩くための足がある。

 掴む為の手がある。

 考えるための脳があって、見るための目がある。

 そして、聞くための耳と、話すための口も。


 本当に大事なのは魔法でも、剣の腕でもない。

 この身体にあるもので、どうにかなるはずなんだ。


「みんなの意見を聞きたい」


 サキュバスは震える声を振り絞って、そこにいた全員に呼びかける。


「私は、みんなは、この世界は……どうするべきなのかな?」

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『Mephisto-Walzer』

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