そして、世界が終わる
シアンの聖剣が空を薙ぎ、ネメスの聖剣が弾かれる。
乾いた金属音が響き渡り、血濡れの二人はボロきれのような身体で互いの剣を弾きあう。
もはや互いに魔法を使えるほどの余力はない。
身体は限界で、動く度に関節が悲鳴を上げる。
肺は破れ、心臓は限界の速さで脈打っている。
それでも二人が戦うのは、何故だろう。
魔王の剣が勇者の左腕を割き、勇者の剣が魔王の右目を潰す。
声にならない苦悶の声を、奥歯を噛んで圧し殺し、それでも剣を握り目の前の相手にそれを振るう。
これは、もはや意地だけの戦いだった。
壊れ逝く世界の中、勇者が勇者として、魔王が魔王として……自らの意地を賭けてぶつかり合う。
そこには戦う理由も、魔族の希望も、人類の絶望も、何も関係無い。
彼女は勇者として生きた。
彼女は魔王として生きた。
ただ、それだけだ。
「いい加減……しつこい……!」
「お前こそ……そろそろ負けを認めたらどうだ……」
「私は負けてない……!」
「私もだ……!」
聖剣同士が爆ぜ、赤い火花が散った。
その火花を美しいと感じたのは、ここにいる二人だけではなかった。
終わる世界の中で、想い出と友情を砕きながら……。
青き炎がネメスを灼く。光の風が勇者を苛む。
そして最後の斬撃が、勇者シアンを切り裂いた。
「はぁ、はぁ……。私の、勝ち……? いや、違うか……。まったく、勇者ちゃんは……」
ネメスはシアンから聖剣を引き抜き、彼女はその場に崩れるようにして倒れた。
「私を何度も殺しておいて……最後には勝手に逝くなんて……本当に、自分勝手だよ……」
ネメスは限界まで傷付いた身体で、息絶えた勇者を見下ろして呟いた。
今まで、この勇者には何度も酷い目に遭わされた。
だけど、最後には友達になれた。
「次の世界では、もっと幸せになってね……。勇者ちゃん……」
そして、立ちはだかる者のいなくなった魔王の間で、魔王ネメスは自らの最後の魔力を魔法陣へと注いでいく。
これでリスタート計画が完遂する。
この世界の全てを焼失させ、冥界で最後の魔法を発動し、そうして……
「みんな、さようなら……」
魔王ちゃんは、誰からも忘れ去られる。
正直、勇者ちゃんが邪魔に入って来たときは少しだけ期待してしまった。
このまま自分を殺して、計画が未遂に終わったのなら、自分もみんなも、みんな同じように消滅して終われる。
そうしたら、自分だけが忘れ去られるなんて悲しいことにはならずに済む。
それも少しだけ、いいなと思ってしまった自分がいた。
「だけど……」
だけど、ネメスはシアンに勝った。
勝ってしまった。
だから……。
「私は、この計画を完遂しなくちゃいけない……全ての責任を、果たすために……」
魔法が発動し、何もかもが終わる。
青い炎が全てを飲み込んでいく。
全てが、魔力に溶けていく……
その最後の瞬間、一振りのレイピアが魔王を貫いた。
「一人では行かせないよ……! 魔王ちゃん!!」




