魔王ちゃんと銀翼竜と炎 その一
銀翼竜は咆哮、口元に火炎を纏いネメスとサキュバスを威嚇する。
「魔王ちゃん、どうするー? 起きちゃったよー?」
「あ、あわわわわ! あわあわわわわっ!!!」
「魔王ちゃん落ち着いて……」
ガタガタと震える魔王ちゃんに、サキュバスは呆れたように肩を落とした。
その直後、サキュバスは銀翼竜の口元に魔力が揺らいだのを見取った。
高等魔法の発動エフェクト――、
刹那にして、揺らめく炎がネメスとサキュバスたちのいる地面を焼き払う。
直前に跳んだサキュバスは、天井に突き刺したスパークレイピアにぶら下がり、ネメスを抱えながら燃え盛る炎を見下ろした。
「うわーイヤだなあ……。これ普通に強いやつじゃん……面倒くさ……」
「ひ、ひぃい…………!!」
「気性が荒いのはテイムの効果が薄れているからかなー」
「あわわわわわ!! サキュバスちゃん死んじゃうよぉ!!! 私帰る!!! 帰るったら帰る!!!」
魔力の揺らぎ。
サキュバスは天井に足を付け、一気に蹴り込み、レイピアを引き抜いた。
火球が暴れ狂い、壁へと跳んだサキュバスは舌打ちする。
炎が着弾地点の天井を伝って自分のほうへとやって来る。
「熱い暑いあつい熱い!! やだやだやだやだ!!!!」
「この炎……何かを燃やした炎じゃない。100パーセント純粋な魔力で構成されている。つまり」
サキュバスはネメスを宙に放り投げた。
「え……サキュバスちゃん!? なんで!? いや!! 捨てないで!! やだ!!」
サキュバスは空いた左手に辻斬りナイフを握り、それを襲い来る炎に振りかざした。
風の斬撃が炎を断ち切り、赤い魔力が散り散りになって霧散する。
「はは、やっぱりなー」
サキュバスは再び跳んで、地面に落ちる直前でネメスを拾う。
「は、は、は! 酷いよ! 酷いよ……! サキュバスちゃん……!」
過呼吸気味の魔王ちゃんを尻目に、辻斬りナイフで背後から襲い来る炎を斬り伏せる。
スパークレイピアはもういらない。壁に突き刺さったままのレイピアを放置し、とりあえずナイフで辺りの炎を消火する。
魔力由来の炎は術式だ。
術理さえ破壊出来れば、炎の魔法は霧散する。
「普通の炎だったらこうは行かなかったけどー……」
ナイフをかざし、サキュバスの眼光が銀翼竜を見据える。
術の摂理さえ理解出来れば、野生の魔物など取るに足らない。
攻撃方法もワンパターンで、追尾式の炎で追い回すだけ。
結局、能の無い魔物では魔王軍幹部相手に傷一つ付けることが出来ない。
「じゃあ殺すねー」
その言葉に魔王ちゃんはハッとする。
「ダメ!!」
サキュバスをぎゅっと掴むネメスに、竜の咆哮。
意識の逸れたサキュバスの背後に、消し損なった炎が襲い掛かり、目の前からは銀翼竜が飛び掛かる。




