Restart Of The DarkLord.(中編)
「魔王ちゃーん。言われてた通り-、シルヴィアテリトリーの地形図書いておいたよ-?」
「ありがとうサキュバスちゃん!! えへへ~! サキュバスちゃんのお仕事ぶりはいつ見ても惚れ惚れするね~!!」
「別にそんなに大したことはしてないけどねー? それよりー、約束通りー、今日は一日中お休みってことでいいんだよねー? 嘘だったら怒るからね-?」
「あ、あはは……実はまだサキュバスちゃんに頼みたいお仕事があって……」
「魔王ちゃーん……?」
「な~んてね! 今日はサキュバスちゃんはお休みの日!! 下げてから上げたほうが心理的に幸福度が高いってどこかで聞いたから試してみたの!! 平日だと思ってた日が休日だと嬉しいでしょ? どうかな、サキュバスちゃん、嬉しい……?」
「そういうとこだよ魔王ちゃん……」
この子の名前はサキュバスちゃん!
私が"魔王ちゃん"になってから、出来た、最初の友達!
というより、私は魔王だから、部下って言ったほうがいいのかな……?
でも、友達って言ったほうが、何か嬉しい気がするから……私はサキュバスちゃんのこと、ただの部下だとは思ってなくって、やっぱり友達だなって思う!
「えへへ~、サキュバスちゃん大好き~!!」
「ちょっと、しつこいよ魔王ちゃん……」
とかいって、サキュバスちゃんは私のこと大好きなんだ!
……と思う。
正直、私にはその自信がない。
それに、私に愛される資格なんてどこにもない。
この子たちが苦しんでいるのは、青き炎に怯えて暮らしているのは、全て私の罪悪が原因だから……。
暴力虐待虐殺絶望後悔憎悪失敗貧困苦痛憤怒苦悶裏切無念欺瞞悲嘆離別憂鬱無視不幸死別嫉妬沈痛外道喪失屈辱悲運殺害孤立混沌犠牲処刑苦悩罪悪迷惑処罰策謀禍根悔恨悲運滅亡懲罰叱責残酷敵対徒労!!!
違う……。
私は罪魔ネメスじゃない……。
私は"魔王ちゃん"だから、サキュバスちゃんのこと、信じていいんだ……。
「ねえ、魔王ちゃん?」
「な、何!? サキュバスちゃん!!」
「いい加減、魔王ちゃんの計画が何なのか、私にも教えてくれてもいいんじゃなーい? 流石に秘密主義が過ぎるよー」
暴力虐待虐殺絶望後悔憎悪失敗貧困苦痛憤怒苦悶裏切無念欺瞞悲嘆離別憂鬱無視不幸死別嫉妬沈痛外道喪失屈辱悲運殺害孤立混沌犠牲処刑苦悩罪悪迷惑処罰策謀禍根悔恨悲運滅亡懲罰叱責残酷敵対徒労!!!
「そ、それは……ひーみつ!! 私に任せておけば、万事上手くいくからねっ!! 信じてよ、サキュバスちゃん!!!」
嘘つきだ。
私はそうして嘘の笑顔をサキュバスちゃんに見せて、元気なフリをして、大切な友達をずっと騙し続けるんだ。
それがお前に化せられた罪と罰だ。
罪魔ネメス。
お前が何を名乗ろうと、お前がそういう存在であるという事実は何ら変わることはない。
「うるさいな……」
「魔王ちゃん……?」
「な、なんでもないよ! えへへ~! 今日の晩ご飯のこと考えてたの!!」
「まったく、魔王ちゃんはいつも呑気だねー」
そういられたら、どれだけ幸せだったのかな。
私は、この"世界"そのものと戦争をしている。
領域戦争の背景にあるのは、私と"世界"との小競り合いだ。
私が幸せを求める限り、私が諦めない限り、この青き炎は収まらない。
でも、私が諦めて本当にこの炎が消えてくれるのかも、確証がない。
それだけ、この"世界"は悪意と憎悪に塗れている。
だからこそ、私は"世界"そのものに対して、抗い続けるしかなかった。
私に出来ることを、"魔王"なら出来ることを、何でも試した。
色々な実験をして、魔法や魔力に関する情報を集めた。
色々な土地や風習を勉強して、人族のことも沢山学んだ。
当然、自ら従える魔族についても……。
そして、私は自分に出来る範囲内で、唯一この世界に勝ちうるたった一つの可能性を見出した。
それが、リスタート計画。
私と同じく、世界に在り方を縛られ続ける破壊神ちゃんと一緒に、この世界を根本から覆すために考案した、私の全てを賭けた一大事業。
それを実行するためだけに、私は一番の友達にすら、嘘を吐き続ける選択を選んだ。
「どこまで行っても、所詮は罪魔だよなぁ……」
友達に嘘を吐く。
親友を騙して、付きあわせる。
こんな罪を負ってまで、私はここまで歩き続けるしかなかった。




