Restart Of The DarkLord.(前編)
罪魔ネメス――。
罪を司る魔物。
やがて魔王になり、世界を滅ぼすに至る、全生命の敵。
生まれながらに視るもの全てが罪悪として映り、彼女の視る景色は全てが灰色に染まっていた。
誰も彼もが醜く、何もかもが歪んで見える。
暴力虐待虐殺絶望後悔憎悪失敗貧困苦痛憤怒苦悶裏切無念欺瞞悲嘆離別憂鬱無視不幸死別嫉妬沈痛外道喪失屈辱悲運殺害孤立混沌犠牲処刑苦悩罪悪迷惑処罰策謀禍根悔恨悲運滅亡懲罰叱責残酷敵対徒労
これが罪魔ネメスの見える"世界"のかたち……。
それでも彼女はこの世界に生まれ落ちたことを、自らが生まれたこの世界そのものを、愛する努力を怠らなかった。
彼女はこの世界に生まれたことを一度も後悔しなかった。
絶望もしなかったし、苦しいとも思わなかった。
そこに生きる人々みんなを愛し、許し、優しく接することを当然のこととして、いつも笑顔で、みんなが幸せでいられるこの世界のことを愛していた。
……そんな自分を偽って、演じて、結局何も得られない。
それが罪を司る魔物の生きる道だった。
生まれながらに罪を負わされ、その償いのために生きる魔物。
この世の誰かが殺害という罪を作り出した。
それを罪魔ネメスが担い、共に罪悪感に苛まれて生きていく。
この世の誰かが策謀という罪を作り出した。
それを罪魔ネメスが担い、共に罪悪感を受け入れて生きていく。
この世の誰かが犠牲という罪を作り出した。
それを罪魔ネメスが担い、共にその罪の償いを果たすために生きていく。
故に、彼女はなるべくして"魔王"になった。
全ての禍根の中心にして、全ての責任を負うべき立場としての"王"という座に。
彼女の持つ強力な力は、その罪を全て為すことを可能とするだけの、必要最低限のものである。
故に、彼女はこの世界を救えない。
なぜなら、彼女はこの世の全ての罪を為し、その責任を負うための存在であるから。
仮にこの世の罪が、悪が滅びたとするのなら、それは同時に罪魔が消えることと同義である。
故に罪魔ネメスは世界を救う存在ではない。
虐げられ、それと同時に虐げることを強制され、その両方の性質を併せ持ち、運命的に、世界の敵であることを義務づけられた。
彼女は"世界"にそう位置づけられた存在であり、これは変更の叶わない確定した事象である。
「それが、何……?」
「私はそんなルールなんて知らない」
「私は生きたいように生きる! みんなを愛する! 好きなことを見つけて、楽しいことを見つけて、みんなと一緒に『あぁ、幸せだなぁ!』って、言いたいの! それが私の本当にやりたいことなの!」
暴力虐待虐殺絶望後悔憎悪失敗貧困苦痛憤怒苦悶裏切無念欺瞞悲嘆離別憂鬱無視不幸死別嫉妬沈痛外道喪失屈辱悲運殺害孤立混沌犠牲処刑苦悩罪悪迷惑処罰策謀禍根悔恨悲運滅亡懲罰叱責残酷敵対徒労!!!
「あなたがそう決めたとしても、私は知らないよ。運命が例えそう決めていたとしても。私は私が生きたいように生きるの。それが罪だというのなら、私はあなたと戦う。戦って、乗り越えて、絶対に幸せになるんだから……!」
そうして、罪魔は"世界"に抗い、自らの周囲に彩りを視た。
鮮やかで美しく、楽しく暖かく、優しくて綺麗で愛すべき世界を見出した。
しかし、その反逆が罪魔ネメスの最大の罪だった。
彼女が幸福を見出し、"世界"に勝利したその日。
"世界"は、この世に青き炎を撒き散らした。
彼女が自らの責務から逃げ、その職務を放棄した罰。
それが、この世界の全てを燃やす青き炎の正体。
ネメスの愛した世界を灼き、ネメスに罪の意識を自覚させる。
世界を救う? 誰もが笑っていられる世界にする?
お前のせいでみんな苦しんでいるのに?
「……知らない。私のせいじゃない!! だって、私は普通に、みんなみたいにしたいだけなの!! あなたが勝手に決めたことでしょう!! こんなルール、私は一ミリも納得してない!! 私のせいじゃない!!」
暴力虐待虐殺絶望後悔憎悪失敗貧困苦痛憤怒苦悶裏切無念欺瞞悲嘆離別憂鬱無視不幸死別嫉妬沈痛外道喪失屈辱悲運殺害孤立混沌犠牲処刑苦悩罪悪迷惑処罰策謀禍根悔恨悲運滅亡懲罰叱責残酷敵対徒労!!!
「そう、あくまで私にそれを押し付ける気なんだね……。じゃあ、私はあなたが押し付けてきた"魔王"になってあげるよ。でも、ただの魔王じゃないよ。私は罪魔ネメスなんて、知らない。今日から私は、"魔王ちゃん"だから……!!」




