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さよならの戦い

「残念だけど……そのお願いは聞けない……」


「なんで! だって、もうこれ以上は何もないでしょ!? シルフィは崩壊の術式を止めてくれた!! あとは、滅茶苦茶になった世界を立て直して、それでみんな幸せに――」


「本当にそう?」


 ネメスは壁にもたれ、青き炎に灼かれながら苦しげに問う。


「世界の八割は無くなったよ。残り二割で、人族と魔族の両方がみんな仲良く、おてて繋いで仲良しごっこ……本当に出来ると思う?」


「……っ!」


 たじろぐウンディーネに、魔王ちゃんは皮肉に笑う。

 悲しげに、だけどその瞳の奥には赤い信念が燃えている。


「無理だね。断言するよ……私だからこそ言える。残り二割の世界で、シルフィが消したのは所詮自分が点けた炎だけ。元からある青き炎は、これからもこの世界を焼き続けるよ。誰にも消せないからね! どっちにしろ終わりが近いんだよ。分かるでしょ? ここからどうやって事態を好転させるっていうの? ねえ、ウンディーネちゃん……」


「それを考えるのがお前の仕事の筈だろう」


「……はあ。勇者ちゃんにメチルちゃんまで……」


「一人忘れてるよ~?」


 シアン、メチル、カンナの三人が奥から現れる。


「メチルさん! どうしてここが……」


「今はそんなことはどうでもいい。……魔王ネメス。無様な姿だな」


「メチルちゃん……あはは、ちょっと酷いんじゃないかな……? 私たち、友達でしょ? 魔王ネメスだなんて……魔王ちゃんって呼んでよ」


「今のお前はそう呼ぶに値しない」


「酷いなぁ、みんな……。まあ、最初からそうだったけど……。勇者ちゃんは私のこと何度も殺したし、メチルちゃんも沢山私のこと叩いて、話聞いてくれなかったよね……」


「それは……」


「話を逸らすな。お前は世界を救う存在だ。世界を滅ぼす奴じゃない」


 シアンの言葉にネメスは嗤う。


「勇者ちゃん、"魔王"って単語知ってる?」


「皮肉のつもりか? お前らしくもない。お前は何度私に殺されたって諦めない奴だった。どれだけの困難の中でも精一杯の笑顔で、人族も魔族も関係無く、誰も彼もに愛嬌を振りまいて、仕舞いにはお前の物分りの悪さに根負けして、勇者ですらお前の言い分に従わざるを得なかったんだぞ。それが急にどうしたっていうんだ。お前の持ち前の明るさはどうした? いつもの笑顔はどこに忘れてきた? 根性は、泥臭さは、悪知恵は、勇気は、どこに置いてきた……」


 シアンの言葉にネメスは歯軋りし、痛む身体を抱き、荒い息でシアンを睨む。

 その表情にシアンはたじろぐ。


「一体どうしたんだ……。私たちは仲間のはずだ。これから先もずっと――」


「仲間? 私をたくさん斬ったじゃん……」


「それはそうだが……」


「何度も何度も……」


 ネメスの苦痛に満ちた表情にシアンは何も言えず黙り込む。

 それに対して、メチルが前に出る。


「……魔王ちゃん。あの時のシアンは死々繰で」


「関係ないよ」


「関係……あるだろ。魔王ちゃんからしたら、確かに痛かっただろうし、許せないかもしれないけど……でも一度は仲直りしたんだろ? それを今さら蒸し返して、どうしたんだ……」


「メチルちゃんは私が燃えてるのが見えないの?」


 ネメスは自らを燃やす青き炎を見て、それからメチルたちのほうへと視線を上げる。

 その瞳には様々な色が宿っている。

 怒り、苦しみ、悲しみ、諦め……。

 その全てがない交ぜになった瞳で、魔王ちゃんは彼女たちを睨む。


「私に構わないで。もう、全部……私が終わりにする」


「お前、言ってることが滅茶苦茶だぞ……終わりにするって、それに構うなと言っても、お前はあれだけ――」


「うるさいなあ……」


 ネメスは自らの保有する原始魔法、魔力徴収を発動し、テリトリー一帯の魔族から魔力を徴収する。

 そうして集めた魔力を、自らの足元の魔法陣へと流し込む。


 世界は再び青き炎に包まれ、終末へのカウントダウンを刻み始める。


「魔王ネメス……貴様……」


「シルフィちゃんが死んで、大気中の魔力への干渉がしやすくなった……。本当に、あの子は厄介だったな……。あの子のせいで出来ないこと、沢山あったから……でも、あの子が残していったこの魔法陣だけは、役に立つね……。ふふっ……」


「魔王ちゃん……何を言ってるの……?」


「ウンディーネちゃん……そうだったね、ウンディーネちゃんはシルフィちゃんの仲間だったもんね……」


 ウンディーネは拳を強く握り、ネメスを睨む。


「魔王ちゃんの仲間でもあるよ……。でも、シルフィをそう言うのはやめてほしい……」


 怒りに震える彼女の声に、魔王ちゃんはそれを嘲笑うかのように魔導波を放った。

 あまりの衝撃にそこにいた全員が強烈なダメージを受け、銀翼竜とゴーストは壁に叩き付けられ気を失う。


「魔王ちゃん……何を……!!」


「何って……始めようよ。最期の戦いだよ」


 魔王ネメスはよろめきながら立ち、両手を開いてその場にいる全員に呼びかけた。


「勇者シアン、魔道士メチル、剣鬼カンナビス、水魔ウンディーネ……かかってこい」


 魔王城最奥、王の間にて。

 これが、本当の最期の戦い――。

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『Mephisto-Walzer』

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