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なんで、殺しあうんですか?

 鉄剣が爆ぜ、爆風の中から風刃が牙を剥き出す。

 その風を新たな剣が裂き、本体に対し、地中からドリル型の破戒式が追撃を掛ける。

 ドリルの一本一本が真紅の爆炎を上げ、シルフィはその爆風を逆手に、自らの風の切れ味を研ぐ。


 避けた背後からは原始魔法の青き炎が襲いかかり、それに対してシルフィの青き炎が立ちふさがる。

 炎と炎が互いを相殺し、ネメスの放った刃をシルフィが躱し、背後で弾けた刃から無数の鉄楔が四方八方へと飛散する。


 風で身を守ったシルフィに、ネメスが跳び、その鳩尾に膝蹴りを叩き込む。

 シルフィは吹き飛ばされ壁にぶつかり血を吐くが、その次の瞬間には追撃の刃が刺し込まれる。


「それだけの実力がありながら……ッ!!」


 シルフィはすんでのところで刃を躱し、圧縮した風による砲撃でネメスとの間合いを開ける。


「よくもまあ自らの出自を隠し通せたものだ……。これでもまだ手加減しているんだろう? 本気で来いよ……吹き消してやる……」


 シルフィは自らの体内に魔力を輪転させ、周囲の風の全てを掌握する。

 強がりの台詞に魔王はふっと笑い、その背後に無数の刃を現出させる。


「違う……囮、罠!」


 シルフィは僅かな風の振動から背後で地表へと現れたドリルの群れを流し見た。


(違う! ブラフ……本命はやっぱり刃のほう……違う。両方か!!)


 ドリルが赤く発光し、刃の群れがこちらへと加速するコンマ数秒。

 シルフィの濁りきった瞳の奥に、女神の術式が表出する。


 刹那、爆風と刃がシルフィの痩躯を八つ裂きにする。

 骨が砕け皮が裂け肉が千切れ臓物が破裂する。





























 死……


 そして……




























「来たれ――福音よ――」



























 スキル

 女神の加護、復活――。

 シルフィは光の風を纏い、傷一つない元の痩躯で蘇る。


「ッ! そうか、そうだね……! 中身が女神ちゃんってことは、そういうことも有り得るのかもね……!」


 蘇ったシルフィに、一瞬の動揺。

 その隙に突き込まれた刃がネメスの喉元を掠める。


「ッ!! 残念……」


 紙一重で躱したネメスの一撃がシルフィの腹を抉り、シルフィは血を吐いて絶命する。

 しかし……


「福音よ……来たれ……」


「…………」


 光の風が舞い、蘇ったシルフィは風を纏い立ち上がる。


 復活にはデメリットがある。

 復活時、加護を受けた者はレベル1の状態で蘇る。

 しかしシルフィにはそのデメリットの効果が薄い。


「なるほど……確かに凄いね。風を司る魔物……大気中の魔力を操れるってことは、体内魔力の量なんて関係無いってことだもんね……。じゃあ、これを使うしかないか……」


 ネメスの掌に紫色の光が舞い、新たに一振りの剣が現れる。


「術具解禁、最高位破戒式。零全火天――」


 聖剣を担う魔族の王を前に、シルフィは周囲の大気を自らに集中する。


「ごめんシルフィ……。あなたの身体、もう少しだけ使わせて……!!」


 ネメスがレーゼンアグニを構えると共に、シルフィの胸に光の風が舞い上がる。


「死を、死を、死を、繰り返せ……。福音を、福音を、福音を……繰り返せ!!!」


「ッ! 何をするつもりか知らないけれど……」


 ネメスは駆け、聖剣をシルフィの胸に突き立てる。

 しかし、その刃は彼女の元へと……()()()()


「何……?」


「これが……私とシルフィだからこそ出来る、最後の死々繰……」


 術式によりレベルの限界を超え、他者を喰らうことで再現無くレベルを上げる技術……。

 それが死々繰計画。

 であれば、復活により無限に蘇る女神は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 今のシルフィのレベルは、事実上無限大だ。


 ネメスの突き出した聖剣を、胸元の無限の風が遮る。

 そして無限の風を纏った拳が魔王ネメスを貫いた。


 魔王を殴り飛ばし、荒い息の中、シルフィは瞳から鮮血の涙を流す。

 ネメスは血を吐き、立ち上がり、息絶え絶えのシルフィを見据えて苦しげに笑った。


「一度限りの最強の一撃……残念だったね……」


 ネメスの腹には聖剣から生み出された青き炎が燃え移っている。

 そして、シルフィの殴った右腕はその炎に飲まれて消えていた。


「私も後が無いんだ……今の、まともに喰らったら魂が壊れちゃってたから……背に腹はかえられないよね……」


「受けた瞬間に衝撃を炎に飲ませたか……だが、それではお前ももうじき消えてしまうな……」


 ネメスは苦しそう言う。


「その言葉、そっくりそのままお返しするよ……。復活は無制限に出来るわけじゃない。私の魂の強度が異常なだけで、歴代の魔王は全員レーゼンアグニで一撃だった……。自分を喰らって死々繰をするなんて、自殺行為も甚だしい……」


「こちらも同じだ。背に腹は代えられない、というやつだな。お前の一撃を相殺して、こちらの必殺を撃ち込めれば勝ち目はあったが……」


 互いに限界が近い。


 魔王ネメスは青き炎に焼かれ、魂の強度も限界だ。

 風魔シルフィは必殺の一撃を使い果たし、ネメス同様、もう復活を使えない。


「次の一撃で最後か……」


「あくまで殺りあうんだね……まあ、私はどっちでもいいんだけどさ……」


 ネメスが聖剣を構え、シルフィが最後の風を纏う。

 二人がその刃を構え、駆けた。

 その瞬間……


「待って!!!」


 二人の刃が逸れ、互いに声の主のほうへと視線を移す。

 そこに立っていたのは、魔王ネメスの、風魔シルフィの――


「もう……もうやめて……もう、嫌です!!! もう嫌なんです!! このままじゃ二人とも死んじゃう……死んじゃいますよぉっ!!!」


「ウンディーネ……」


 二人の、かつての仲間だった。

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『Mephisto-Walzer』

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