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友のもとへ

 ウンディーネはネヴィリオの町の教会へとやって来ていた。


「転移盤は既に三回使い切られてますね……。それもそうか……」


 町は混乱した人々の叫び声や悲鳴で埋め尽くされ、青き炎が荒れ狂い、まさにこの世の終わりに相応しい狂乱の様相を呈している。

 この絶望の中で、ウンディーネはどうしようもなく立ち竦む。


「サキュバスさん、とりあえずお水でも飲んで落ち着きましょう? 魔王ちゃんだって、何か考えがあってあんなことを言ったはずですよ!! だって、魔王ちゃんがサキュバスさんを裏切るはずないじゃないですか!!」


 ウンディーネはおぶったサキュバスにそう呼びかけるが、サキュバスは何も言わない。

 ただぼんやりと地面を見つめるだけで、その目の焦点も朧気で合っていない。


(うぅ……本当に、こんなところで終わってしまうんでしょうか……?)


 ウンディーネは水を司る魔物だ。

 水になって地下水に溶け込んだり、川を伝って移動することは出来るけれど、ネヴィリオを流れる大きな川は無いし、地下水もどこかに繋がっているわけではない。

 つまり、ウンディーネはここから歩いて移動するしかないわけだ。


(とは言っても……とても歩いて行けるような距離では……)


 仮にここからアルカディアまで歩いて行ったとしても、恐らく数ヶ月はかかるはずだ。

 その頃にはとっくに世界は終わっている。


「あぁあああ!!! 一体どうすればいいんですかぁ~!?!?」


 頭を抱えてぼろぼろと泣いていると、突如、轟音と衝撃が教会の壁を破壊した。


「うわぁああぁあ!?!? 何ですか!? 何!?」


 砕けた瓦礫がそこら中に舞い散り、銀色に輝く巨体が腰を抜かしたウンディーネを見下ろしている。


「ぎ、銀翼竜さん……それにゴーストさんも……」


 銀翼竜の背に乗るゴーストが、ぴょんぴょんと跳ねウンディーネのほうに何かを伝えようとしている。

 ウンディーネはゴーストの身振り手振りを察して、うるうると目を潤ませてぐっと拳を握った。


「二人とも……みんなのとこに運んでくれるんですね!!」


 ゴーストは上下に大きく頷き、銀翼竜はウンディーネとサキュバスを咥え、自らの背に乗せる。

 太陽の光を受け輝く銀翼が勢いよく開き、教会の柱や壁が四散する。

 刹那、土煙を巻き上げ巨体が浮かび、突風を撒き散らしながら空へと舞った。


「うわぁ!! 教会がぶっ壊れ……この際どうでもいいか……。それじゃあ銀翼竜さん!! メチルさんたちのいるアルカディアまでひとっとびですよ! 魔王ちゃんが大変だって伝えないと!! って、あれぇ!?!?」


 銀翼竜はアルカディアとは全く別の方角へと全速力で飛んでいく。


「なんで!? そっちはパルパ半島ですよ!!! 違うって!! 行先が違うんですよぉ!!」


 ウンディーネが銀翼竜の背を叩くが、ゴーストと銀翼竜はまるで意に介していない様子で一目散でパルパ半島へと向かっている。

 その姿を見て、ウンディーネは二人に何か考えがあるのかと思考を巡らせる。


(なぜパルパ半島に……あそこにはもう使われてない魔王城の廃墟があるだけで、それ以外には何も……ということは、その魔王城以外の要因は考えられないわけで……。メチルさんたちは首都アルカディアにいますし……)


 そこまで考え、ウンディーネはある可能性に辿り着く。


「まさか……パルパ半島に魔王ちゃんたちがいるんですか……?」


 ウンディーネの問いに、銀翼翼が視線を彼女のほうへと向けた。

 ゴーストが勢いよく頷き、それを見たサキュバスがピクりと僅かな反応を見せる。


「なるほど……銀翼竜さんはパルパ半島のあのダンジョンと契約した魔物ですし、そういうことが分かるとしても、何もおかしくはないですよね……」


 ウンディーネはサキュバスのほうをちらりと見て、それから覚悟を決めたように息を飲み、銀翼竜の体にしがみつく。


(本当はメチルさんたちに伝えたほうがいいけど……仕方がありません。私と銀翼竜さんとゴーストさんだけでも……それに、魔王ちゃんを前にしたら、サキュバスさんも動いてくれるかもしれませんし……)


 シルフィとネメス、その二人を相手に戦って勝つのはウンディーネには難しい。

 だけど、何もしないわけにはいかない。

 たとえ望みの薄い賭けだとしても、話をするくらいのことは、自分にもできるから……。


 そう考えたとき、ふとサキュバスの手がウンディーネから離れた。

 彼女は風圧に飛ばされ、そのまま地面へと落ちていく。


「サキュバスさん!? 銀翼竜さんッ!!!」


 銀翼竜は急転直下しサキュバスに追いすがるが、このままでは地面に激突する。


(サキュバスさん何で……ッ!! 間に合わない……!!)


 地面に叩きつけられるその刹那、サキュバスの身体が現実世界から消失する。

 銀翼竜は地表すれすれを滑走し再度上空へと飛び上がり、ウンディーネはサキュバスが消えた辺りを見回し、混乱した頭で状況を整理する。


「す、少なくとも死んでないですよね……? サキュバスさん、一体どこに行ってしまったんですか……」


 少なくとも自殺ではない。

 どこかの誰かの夢の中に消えたと考えるべきだが……。


「まさか、直接魔王ちゃんと会いに……? でも魔王ちゃんの中にはサキュバスさんも入れませんし、シルフィも……」


 様々な可能性を考えるが、結局どれも憶測の域を出ない。


「考えたって仕方がないですね……。銀翼竜さん、引き続き、魔王ちゃんのほうにお願いします……」


 サキュバスがいないとなると、魔王ちゃんたちと戦闘になれば、ウンディーネに勝ち目はない。

 しかし、それでも退くわけにはいかない。

 銀翼竜が翼を貸してくれているのだから……。


「私ひとりじゃない……銀翼竜さんと、ゴーストさんも一緒ですから……!」


 ゴーストが跳ね、銀翼竜が羽ばたく。

 仲間と共に想いをひとつにして、目的の場所へと目指す。

 ウンディーネは強くない。だからこそ、仲間と一緒にいることで勇気がもらえる。


「私はまだみんな仲間だと思ってますから……! サキュバスさんも、メチルさんも、魔王ちゃんも……。約束、したんですからね……! 破ったら許さないですよ!!」


 三人は魔王城を目指し、蒼空を飛ぶ。

 あの時した約束を守るために――。

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『Mephisto-Walzer』

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