悲しみよこんにちは
目が覚め、一筋の涙が頬を伝った。
「夢……また、この夢か……」
シルフィは膝の上の本に視線を落とし、それからその本をそっと開いた。
シルフィは本を読むのはあまり好きじゃなかった。
退屈で、つまらないものだと思い込んでいた。
だけど、こうして読んでみると、案外面白いものだ。
過去の偉人の言葉や、数々の物語。
悲しみも喜びも、すべて手のひらの中に収まっている。
彼女が本を読むようになったのは、昔の友達が本を読むのが好きだったからだ。
シルフィの知るこの世界の素晴らしさは、全てその友達が教えてくれたものだ。
美しく儚く綺麗で、言葉では全てを表現仕切れないような、広く深いこの世界を、彼女は愛していた。
だけど、この世界はその友達を受け入れてはくれなかった。
シルフィは本をそっと閉じ、頬の涙を指で拭う。
シルフィは泣かない。
どれだけこの世界が残酷でも、柔らかく微笑むと決めている。
自分が一番尊敬する彼女が、いつもそうしていたように。
シルフィは薄汚れた椅子から立ち上がり、すっと深呼吸をする。
この椅子も、その友達の家から持ってきたものだ。
彼女は本を読むとき、よくこの椅子に座っていた。
そして、よく過去の偉人の言葉を教えてくれていた。
色々な人の考えが分かれば、多様な側面から物事を測れるようになる。
そうなれば、少しでも誰かと分かり合えるようになると思うから、と……。
「違うよ……シルフィ。私たちがいくら分かり合う努力をしたって、誰も、応えてはくれなかったじゃないか……」
シルフィは廃墟の部屋の窓から、外の世界を見渡した。
そこらじゅうで青き炎が燃えている。
ここは悲しみも苦しみも想い出も、全部まとめて燃やし尽くす火葬場だ。
その火葬場を眺めながら、シルフィはそっと優しく微笑んだ。
「でもね、もういいんだ。これで全部綺麗にカタが付くから。本当は……レイゼンアグニを解析して、君にもう一度だけ会いたかったんだけど……でも、きっと向こうで会えるよね?」
シルフィは椅子に腰掛け、優しく本を撫でる。
もう悲しまなくていいんだ。
もう苦しまなくていいんだ。
「シルフィ……。君を否定したこの世界を、私が否定してあげるからね……」




