第六話
さて、やってきました。街です。
ヴィン様が治めているメンデル領は、海に面しており、貿易が盛んな街である。行き交う人も異国の民も多く、とても活気付いている。
まるでお祭りように縁日も出ているが、これで普段通りらしい。
「アリア、はぐれないようにね」
「はい、ヴィン様…っと、」
きょろきょろと周囲を見渡していた視線をヴィン様に戻すと、膝のあたりに衝撃を感じた。
慌てて下を向けば、二歳くらいの少女と目があった。どうやらこの子とぶつかったらしい。
しゃがみ、目を合わせる。
「ごめんなさい!怪我はなかったかしら?」
「らいじょーぶ!ユイもごめんなしゃい」
そう言ってにぱっと笑う少女。
か、かわいい…!
このくらいの歳の子と関わる機会があまりないせいか免疫がなく、思わず心臓にズギュンと矢が刺さった。
「ちゃんとごめんなさいが出来るなんて偉いね」
褒めて頭を撫でると、また天使のように笑った。
「す、すみません…!!」
少女の背後から人混みを割って、私より少し歳上くらいの男女が現れた。
少女の両親だろうか。明らかに貴族の格好をしている私と自分の娘がぶつかったのを察し、顔を青ざめさせている。
両親へ気にすることはないこちらこそ前方不注意で申し訳ないと伝え、謝りながら去っていく彼らを見つめる。
両親にそれぞれ手を繋がれ、飛び跳ねて喜んでいる女の子。きっともう逸れることはないだろう。
それにしても。
あの女の子の両親は私と同じくらいの歳だった。
私ももう子供がいてもおかしくない年齢だと気がつく。
貴族の子女は学園を卒業後、婚約者がいる者はすぐ結婚する。私の同級生も、もうその身に子を授かっている人がいるかもしれない。
公爵家を追放されてなければ、友人の結婚式に参加したり、友人の子を可愛がったりできただろうに。
学園時代仲良くしていた彼女らは元気だろうか。
私もこれから結婚して、子どもを産んだりするのだろうか。できるのだろうか。
「…アリア?」
ヴィン様が顔を覗き込んでくる。
いけない、家族連れを見ながらボーッとしてしまった。
「ケーキ、行きましょう。ヴィン様」
服の裾を軽く引っ張り言えば、にこっと笑ってくれるヴィン様。
その笑顔を見ていると、結婚だの子どもだのがどうでもよくなってくる。
今はただ、この人の傍にいられることが幸せだ。