第五話
ヴィン様と暮らし始めると、なるほどヴィン様の周囲の人の大変さがよく分かった。
「ヴィン様、ユンという男性がいらっしゃいましたが、お友達…え?この前、金を貸した人??この前っていつですの?は?三年前????」
「ヴィン様、野良猫に餌をあげてはダメと説明しましたでしょう!飼えないのに餌付けをするなんて、野良猫のためにもなりませんのよ!え??飼うのはもっとダメです!!」
「ヴィン様、また沢山お手紙が…って待ってそれ差出人は!?はあ?!アンドリューってこの前安い絵画をばかみたいな値段で売って来た男でしょう!捨てなさい!!!」
毎日いろんなものが届いたり来訪者をさばいたり。
それをしているだけで一日が終わることもよくあった。
慌ただしく、常にヴィン様に怒鳴る毎日だが、王妃教育に勤しみ完璧な令嬢であらねばとプレッシャーに押しつぶされそうだった昔に比べると、とても楽しい。
秘書のようなことをしているからか、持病があり休みがちの執事のバンからは助かりますと感謝されている。
バンが休みの日にヴィン様がやらかすことが多かったらしく、私がこの屋敷に来て随分と減ったそうだ。
そのやらかし当主は今、執務室で静かに書類仕事に勤しんでいる。
…かと思ったらペンを置いた。真面目そうなフリをして気を抜けるとこまで抜く人だということをここ数ヶ月でよく分かった。
輝かせた目をこちらに向けてくる。
こういう時は大概録でもない。
「アリア!街へ行こう」
「何言ってるんですの。今日中に決済や整理が必要な書類が山積みに」
「明日やれば間に合うやつばかりだから大丈夫!」
「そう言って昨日は商人と長々話し込んで、一昨日は貧民街に行って色んな人と話して進まなかったでしょう!」
「その商人に聞いたんだよ〜。王都で流行っているケーキのお店がうちの領地でもできたんだって。アリアと行きたいなぁと思って」
眉を下げてこちら伺ってくる。
く…!そんな捨てられた子犬のような顔したってダメなんだから…!!
しかし流行りのお店のケーキ…。
「街もゆっくり見たことなかったでしょ。ね、いこ?」
はい、陥落しました。
心のなかのバンさんが、何故ですかお嬢様…と項垂れているが、流行りのケーキというパワーワードとヴィン様の魅力に理性が勝てませんでしたごめんなさい。