第三話
なぜ、ヴィン様は私を引き取ってくれたのだろうと疑問に思っていたのは、馬車の中だけだった。
「ヴィン坊、また庭で野良猫に餌をあげたじゃろう。庭に行くと集まってきて大変なんじゃが」
「ちょっとヴィン様!?知らない子供が台所にいましたよ!?物取りかもしれないから無闇矢鱈に屋敷に入れるなとあれほど!!きゃーー!玄関に浮浪者が!!!」
「あぁ、いたいた、ヴィン坊ちゃん!悪い賭博ですっちゃってさ、金貸してくんね!?明日には返すから!まとまった金が入る予定だから!」
「ヴィン様また高価そうな壺が届きましたけど、誰から何用で買ったのですか!???」
「おっけー」
庭師をなだめて、メイドに子供と浮浪者に食事を与えるよう指示し、チンピラ門番に金を差し出し、壺を持った執事をうまく躱すヴィン様。
あぁ、なるほど。
この人は、ただのお人好しだ。
私が一人達観して周囲を観察しているうちに、ヴィン様の執務室に案内された。
整理整頓はきちんとされているが、所々妙な置物がある。珍妙な猫?のような動物、金ピカに光る龍、不思議な形をした植物など。
趣味に統一性がないことからきっとこれは贈り物やお土産なんだろうなと察する。箪笥の奥に仕舞い込まず、見えるところに置いておくあたりお人好し加減が滲み出ている。
「ここが私の執務室だよ、アリア嬢」
「…どうか呼び捨てで、アリアとお呼びください、ご当主様」
いつまでも丁寧に接してくるヴィン様にそう言うと、照れたようにはにかんだ。
「…ご令嬢を呼び捨てにするのは、慣れていなくて……ごめんね、アリア?」
ん゛
…おっと変な声が出るところでした。
この方は本当に三十を越しているのだろうか。
王太子殿下にこの初さを見習ってほしい。
「アリア、も、私のことはお父様…と呼ぶのは嫌かなぁ」
「かわいい!!!!」
「え?」
「すみません、外にいる猫が可愛かったもので騒いでしまいましたわ」
あはは、ほんとだ猫ちゃんだ〜と窓の外の木の上に登っている猫を見ている。
ごまかせて良かった。
グッジョブ猫!と猫に親指を向けておく。あとで牛乳でも貢ごう。
「お父様はさすがに……。ヴィン様、とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「うん!ありがとう!」
ぱああと顔が華やぐヴィン様。
やめてくださいまた変な声が出そうです。
何この人かわいい。リリイなんて目じゃないくらい可愛くて貢ぎたくなるのですが。
今なら殿下や義弟の気持ちがわかる気がする。