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第十一話

「アリアに、話があって…」

「お話ならば当主である私が聞きましょう、殿下」

「いや、俺はアリアと話がしたい…!」


ヴィン様が私を見つめてくる。

私は、この人と話すことは何もない。無言で首を振った。


「娘は貴方様と話すことなどないそうです。ーーどうか、お帰りを」

「失礼いたします、お客人」


ヴィン様が合図をすると、チンピラ門番が殿下の肩を掴んだ。仕事しているのね、門番さん。

門の方へ引きずられる殿下は、抵抗もせずこちらを見ている。抵抗すると大騒ぎになるからだろう、ちょっと頭が良くなったらしい。


「アリア、ごめん!!話がしたかっただけなんだ…!」


殿下がぐ、と唇を噛む。

聞かせないというようにヴィン様が扉を閉めようと手をかける。


「この街の大きな噴水のところで待っている…!少しだけでいいから来てくれ!」


殿下の懇願するような声も虚しく、バタン、とその声を拒絶するように閉まった。



「ヴィン様……」

「行かなくて良い。彼がアリアにしたことは、王族として、男として、決して許されることじゃない」


珍しく顔を顰めているヴィン様が、私から視線を逸らす。食いしばった唇。


ごめん、と言う殿下の言葉が頭に木霊する。

我ながらチョロいかもしれないが、幼少期に仲良くしていた記憶を思い出してしまったのだ。

彼は昔はよく笑い、よく泣き、素直で可愛い子だった。

義弟よりも長く年月を過ごした彼の姿を思い起こし、ちくりと胸が痛む。


幸せにするのだと思っていた、人。



「ヴィン様、わたし…」


呼びかけて振り返ったヴィン様は下唇を尖らせている。

きっと何と言うかお見通しなのだろう。


「………不本意ではあるけれど、アリアが話したいなら仕事のことは考えずに行っておいで」


頭にぽん、と手を置いた。


「でも絶対に、帰ってきてね?」



当たり前です。帰る家はここだもの。


チンピラ門番を護衛に連れていきなさいと指示された通りに連れて、私は家を出た。


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