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オセロニアおはなしえほん

パティシエになった まおう

作者: 山岸マロニィ

 あおく かがやいていたそらは ゆっくりといろをかえ、うっすらあかく そまっていきます。


 まちいちばんの パティシエ シュクレは、かんばんを かたづけながら、ゆうやけぞらを みあげました。

「きょうも たくさんのおきゃくさんに、ケーキをたべてもらえて よかったわ」

 からになった ショーウィンドウのまえに かんばんをおいて とびらをしめに もどった そのとき。


「……あら?」


 たくさんの ハエが おみせのまえに あつまっています。

「さっきまで いなかったのに どうしたのかしら?」

 シュクレは くびをかしげました。




 「ケーキがほしい。とびきりじょうとうで おいしいのを よういしろ」

 すぐうしろから こえがして、シュクレはビックリ、とびあがりました。


 ふりかえると、そこには おおきなとがったツノを あたまにはやした、おんなのひとが たっていました。

「はやくしろ!」

 おんなのひとは、こわいかおで シュクレをみおろしました。


「ごめんなさい、きょうは うりきれてしまったの」

 おそるおそる、シュクレはこたえました。

「ならば、いまからつくれ。いいか、わたしがつくったことにするんだ」


 シュクレは ふしぎにおもいました。

「どうして、あなたがつくったことに するの?」

 すると、おんなのひとは はずかしそうに かおをそらしました。

「やくそくを したんだ」




 おみせのなかに あんないして、シュクレは はなしをきくことにしました。


「わたしは ベルゼブブ。まかいで いちばんつよい まおうだ」


 シュクレは ビックリしました。


「てんかいから やってきた ルシファーさまの かんげいパーティーに、ケーキをよういしたいんだ」


 サタンやベルフェゴールや、なかまのあくまたちに じぶんがケーキをつくると いったはいいものの……。


「まかいの こむぎこは しつがわるい。なんかいやっても、パサパサでボロボロだったり、こげてまっくろになったり ぜんぜんダメだ」


 そこで、シュクレのケーキを もってかえって、じぶんでつくったことに したいと……。


 シュクレは パチンと てをたたきました。

「なら、わたしといっしょに つくりましょ!」




 おとものハエたちは そとで おるすばん。


 シュクレは、ベルゼブブにききました。

「どんなケーキがいいの?」

「じつは……」

 ベルゼブブは ながいつめで あたまをかきました。

「ケーキというのを たべたことがない。まかいには、フルーツもないし、おいしいたべものなんて すこしもないんだ」


 シュクレはすこしかんがえて いいました。

「なら、とびきりフレッシュな フルーツもりたぐさんの、フルーツタルトなんて どうかしら?」


 シュクレは てをあらいながら、ベルゼブブにいいました。

「ケーキをつくるときは、つめをみじかくしましょ」

「なぜだ?」

「おりょうりは、おいしいだけじゃダメなの。あんしんして たべられないと。だから、つめをみじかくして、せいけつにするのよ」


 ベルゼブブは すこしまよいましたが、ながくてとがったつめを きりました。

「これでいいか?」

「うん、バッチリ!」


 それから、ざいりょうを はかります。

「……このどうぐは なんだ?」

「はかりよ。ケーキは、キッチリざいりょうを はかるのが すごくだいじなの」

「そうなのか……」




 まずは、タルトきじから。

 バターとさとうをボールにいれて、あわだてきで まぜます。

「バターが とけてきたぞ」

「それでいいのよ」


 しろっぽくなってきたら、らんおうを いれて、もっとまぜます。


 そこに、ふるいをかけながら こむぎこと アーモンドパウダーをいれます。

「なんでこんなことをするんだ?」

「こむぎこが ダマにならないようにね」

 そして、サックリとまぜます。

「まぜすぎちゃ ダメなの。サクサクかるい しあがりに したいから」

「………」


 こなっぽさが なくなり、しっとりした きじを、すこし ねかせます。


 そのあと、ねかせたきじを うすくのばして、バターをぬったかたに おしつけていきます。

「あつみに ムラがないように……」

「あなが あいたぞ」

「きじのはじを ちょっともらって、はりあわせましょ」


 そこに、アーモンドクリームをしいて、オーブンでやきます。


「つぎは、カスタードクリームよっ」


 ボールに らんおうとさとうをいれて、しろっぽくなるまで まぜます。


「まだ まぜるのか……」

「パティシエは まぜるのが おしごとなの」


 そこに、コーンスターチと ぎゅうにゅうをいれて、もっとまぜまぜ。

 それを、ザルでこしながら なべにいれて、とろりとなめらかになるまで あたためます。


「もう いやだ。つかれた。おまえがつくれ」

「そんなときは、たべるひとが しあわせなかおをするのを そうぞうするの。

 どう?げんきが でてこない?」

「……そう、だな」


 それを、バットにうつして さまします。


「ちょうど タルトきじも やけたわ。これもいっしょに さましましょう」


 さめるまでのじかんに、フルーツをじゅんびします。


「たべるひとのイメージで えらびましょ。ルシファーさまは どんなひとなの?」

 すると、ベルゼブブのほほが あかくなりました。

「そ、それはだな、つよくて、たよりがいがあって、その……。

 と、とにかく、すばらしいおかたなのだ」


 シュクレは、ならんだフルーツから、いくつかを てにとりました。

「フルーツのおうさま メロンに、フレッシュなあじわいの オレンジ、とろけるあまさの モモと……」

 そして、ベルゼブブをみて ニコリとしました。

「あなたのきもちのかたちの、イチゴ!」

 すると、ベルゼブブのかおが まっかになりました。

「さあ、きって じゅんびしましょ」


 タルトきじがさめたら、カスタードクリームを塗って、いろどりよく フルーツをならべます。

 さいごに、ナパージュで ツヤを出したら……

「とくせい フレッシュフルーツのタルトの かんせいよっ♪」




 キラキラとかがやく フルーツタルトをみて、ベルゼブブは ニコリとわらいました。

「これをプレゼントすれば、ルシファーさまも よろこばれるであろう」

「でも、いちばんだいじな エッセンスは……」

 シュクレは ベルゼブブにむかって ほほえみました。

「その えがおよ♪」

 ベルゼブブは ゴホンと せきをして、タルトをうけとりました。

「その……、ありがとう」




 よるのまちに きえていく まおうとハエたちを みおくりながら、シュクレは あんしんしました。


「まおうというから、どんなこわいひとかと おもったけど、すてきな ひとだったわ。

 どんなひとでも えがおにしてしまうから、やっぱり スイーツがだいすき!」


 ベルゼブブがえがおで たいせつなひとと タルトをたべている すがたを そうぞうして、シュクレも えがおになるのでした。




 ──おしまい──



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