それはまるで人間の愛のようだった
朝、うるさいほど囀る鳥がとまる木が窓から見えた。
「おはようございます。ご主人様。」
窓とは反対側からそんな声が聞こえた。そこにはいつもの様にメイドが立っていた。
彼女はこの屋敷で雇われてからもう数年は経っていた。
思い出す度に想う。彼女はとても美しかった。
その髪は夜でも眩しき光を放ち、その瞳は目に映るもの全てを綺麗にうつし、その上、屋敷に入ってきた虫を逃がしてやる、時には家で飼うほどの優しい心の持ち主だった。
「ご主人様、1つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
彼女は完璧な女性と言っても過言ではなかった。寧ろ、完璧な女性が彼女なのではないかと言うくらいだった。
「なぜ、私は...」
ある日、そんな素晴らしい、女神とも呼べる彼女も、ひとりの人間。いつかは散りゆく運命にあるのだと悟った。
「なぜ...」
そんなこと、考えたくもなかった。
「君は執事長の彼に思いを寄せているのであろう?ひとの、ましてや自分の屋敷のメイドの恋を応援しない理由はないだろう?」
彼女がどんな状態であっても、彼女はこの世に存在しているべきだ。
彼女は、目に涙を浮かべていた。
その命が、果てるまで。
それは、まるで人間の愛のようだった。
気づけばあれほど煩かった鳥がそこにはいなかった。