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目をつけられた

 三十匹以上のカエルがこちらを凝視している。怖っ。

 このカエルが馬に怪我させた? 遠いのにどうやって?


 カエルが一斉に頬を膨らませかと思ったら水の塊を勢い良くこちらに発射してきた。


 私一人なら避ければいいだけだが、背後に馬車があるからどうしようか。

 考えていたらプーちゃんの触手が水の塊を薙ぎ払ってくれた。


 馬車の割れた窓から触手だけを出すというシュールな絵面だけど、ありがとう!


「イラ! 大丈夫かい?!」


 馬車からトゥナさんが出て来て私に駆け寄って来る。


「私は大丈夫です。トゥナさんこそ怪我はないですか?」

「あれくらい平気さ。それよりテッポードクガエルだよ! 早く逃げな!!」


 テッポードクガエル? 鉄砲毒蛙かな? なぜ和名。


「あいつら皮膚から毒を出してくるから接近戦では倒せないし、遠距離だと毒を飛ばしてくる厄介な奴なんだよ!」


 水の塊は毒だったのね。逃げるにしても周囲は遮蔽物のない荒野だし、馬の治療が終わっていない。カエル達は獲物認定したのかすっごい見てくるから逃がしてくれそうにないし。


「みんなで倒したほうがいいと思うんですけど……」

「何言ってんだい! 訓練された騎士団員じゃない限り害獣指定特Aのテッポードクガエルは倒せないよ! ほら、早く」


 トゥナさんが手を引っ張って走り出そうと促してくれるけど、そうはさせじと毒の塊が飛んできた。

 またプーちゃんの触手が薙ぎ払ってくれたが、今度は触手が溶け落ちてしまった。



 ……………………ぷつり。



 私の中で何かが切れた。


 害獣指定特A?

 接近戦は毒。

 遠距離も毒。


 それがどうした。そんなの知るか。

 プーちゃんを傷付けた罪は重い。

 一発殴る。


 トゥナさんの手を振り払い、一蹴りでカエルの眼前に迫りとりあえず一匹殴り飛ばした。

 他のカエルを巻き込んでドミノ倒しのように倒れていく。カエル達は突然の私の行動に混乱しているのかゲコゲコゲロゲロ鳴いているだけだ。


 ちっ、頭を潰す勢いで殴ったのに魔力封じの包帯のせいで吹っ飛ばしただけか。

 一匹一匹殴っていたんじゃ時間がかかるなぁ。

 ゾウ並みに巨大だし。

 こいつらの出す毒のせいでちょっとクラクラする。

 ……そうだ、落とそう。



 地面に拳を叩きつけカエルごと地盤を陥没させた。

 即席の落とし穴だ。

 吸い込まれるように穴に落ちていく。実は風の精霊さんに頼んで逃げようとするカエルも穴に落としてもらった。


 中を覗くと穴の底でカエルが蠢いている。気持ち悪い。


 生き埋めはさすがに可哀想だし、穴からはそう簡単に出てこられないだろうからこのまま放置でいいかな。


 一発殴ってスッキリしたわけじゃないよ。無害な村娘を装わなきゃいけないことを今思い出したんだから!



 力を貸してくれた風の精霊さんと落とし穴を作るのに協力してくれた土の精霊さんにお礼を述べて魔力を渡す。

 気がついたら怪我を治してくれたり、攻撃力を増幅したり協力してくれることが多々あったから、頭の中でこうしたいとお願いしてみたらその通りになったんだよね。


 それ以来いつもお世話になってます。

 魔力を渡すと光り輝くからとっても可愛いの。



 戻る途中トゥナさんが追いかけて来てくれた。逃がすか! と言わんばかりに手首を掴まれて馬車に着くまでずっと怒られた。


「イラ。いくらなんでも害獣に殴りかかるのはどうかと思うね。しかもアイツら毒を持ってるんだよ?! だいたい

 ……………(中略)……………

 女の子なんだからもっと自分を大切にするべきさね。傷が残ったらどうするんだい?! アンタは一人しかいないんだよ」


 トゥナさんが怒っているのは私のことを心配してくれているからだとわかるから、嬉しくて笑いたいのに、泣き叫びたい。そんな衝動にかられる。


 お母さんってこんな感じなのかな。声にならない「ありがとう」をトゥナさんの背中にそっとつぶやく。



 馬車に戻ると同じ格好をした男の人達が馬車を取り囲んでいた。

 詰め襟のかっちりした格好は軍服?! 軍服ってやつですか?! カラーで是非見たい。


 軍服の人達は馬車……というかプーちゃんを警戒してる?


「騎士団の連中さ。さっき御者が救難信号上げてたんだよ」


 トゥナさんが軍服の人について説明してくれた。

 十年前本邸で会った騎士団の人達は鎧着てたけど、軍服もあるのね。

 あ、それよりプーちゃんが触手をびたんびたん地面に叩きつけてイライラしている。大きすぎて馬車から出られないもんね。


「お疲れ様。ありがとう。助かったよ」


 プーちゃんに近づき、触手に触れて私の中に仕舞う。


「なっ?! 消えた?!」


 騎士団の人が驚いている。


「だから何度も言ってるだろ! あの変なのは俺たちを助けてくれたんだって!」

「馬車を襲ったのはテッポードクガエルだ!」

「早く駆除してくれ!」

「そーだ! そーだ!」


 どうやらプーちゃんが馬車を襲ったと勘違いされていたみたい。それを馬車に乗っていた人達が止めてくれていた……と。


 プーちゃんが変なの呼ばわりされてた件についてはあとで話し合いたい。クラゲってこっちにいないのかな。


「君があの魔獣の主か?」

「は?」


 腕章をつけた軍服の人が私に話しかけてきた。

 プーちゃんが魔獣だと? 失礼な。


 がしゃん。

 返事をする間もなく両手に手枷がはめられた。


「ちょっと! 何やってんだい! この子はアタシ達を守ってくれたんだよ?! テッポードクガエルだって向こうで穴に落ちてる!!」


 トゥナさんが私をかばってくれる。



 え? え? 私、逮捕されたの? なんで?



テッポードクガエル

湿地帯を好み、池や湖に身を潜め背中だけ出し甘い毒の香りで獲物をおびき寄せる。近い獲物は皮膚から出る毒で仕留め、遠い獲物は体内で生成した毒を直接ぶつける。誘引性の毒、致死性の毒、酸性の毒と三種類作り出せることが確認されている。

通常であれば単体で行動しているので害獣指定はBだが、繁殖期になると群れで行動するため害獣指定は特Aになる。


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