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命令された

 


「王妃を殺せ」



 十年ぶりの父と娘の会話があまりにも物騒すぎる。



 愛しのあの人と別れて十年。

 私は十六歳になった。



 ◇



 あの人と別れた直後、腹いせに一階で騒いでいた連中を殴ろうと音のする方向に向かった。

 包帯のせいで目が見えなかったけど、不思議と不安はなく、むしろやれそうな根拠のない自信があった。


 その予感はすぐに当たることになる。

 頭が戦闘モードに切り替わった途端、真っ暗な世界に物や人が白く浮かび上がって見えるようになった。

 白黒の世界。

 細かい表情までわかるのであの人と会っている時に出来るようになっていればと後悔したぐらいだ。



 あらかた殴り倒した時、背後からの「止まれ」という静止の声で体が動かなくなってしまった。

 これが呪いか。


 後から来たリーダーっぽい男の人が私を止めたみたい。「ご当主様をお待たせするな」と何故か怒ってた。

 この人達は本邸の使用人達で私の様子を見に来たそうだ。

 あ、ちゃんとあの人の約束通りお人形のフリしてましたよ。下手に喋るとバレそうだったので黙ったままでいたのがよかったみたい。

 緊張していたからかずっと白黒の世界のままだったけど。

 どうやってオンとオフを切り替えるのだろうか。




 リーダーっぽい男の人に地下通路を通って本邸に連れて行かれた。他の人は片付けがあるらしい。

 なんか(にお)いが凄かったんだよね。床もビチャビチャだったし。

 それよりも地下通路があることにびっくりした。虫みたいな石像の後ろに通路があるんだもん。忍者屋敷みたい。


 そこである男の人と対面したんだけど……。


 私に背を向け執務室の大きな窓から外を眺め煙草を燻らすその姿は、横にぶくぶく太って見るに堪えない。

 その吸っている煙草(太いから葉巻かな?)も髪の毛が燃えた臭いと酸化した油が混じったような異臭を放っているから吸うのをやめてほしい。

 鼻がもげそう。


 そこで知らされたこの人は私の父親。

 一応血は繋がっているが、私はよくあるお父様が使用人に手を出して産ませた子だということ。

 母親はすでに死亡。

 私は使用人見習いとして働いていて、隣国から兵士が攻めてきた時に巻き込まれて怪我をしたと王都から来た騎士に説明しろ。

 余計な事は喋るな。

 終わったら速やかに帰れ。

 そこで今まで通り屋敷に侵入する動くもの全てを壊せ。


 と、冷たい口調で言われ普通の子どもなら泣くo rグレると思う。



 ◇



 そしてそこからの十年放置。


 理不尽な命令をされなかったのはよかった。あの人との約束も守れるし。

 寂しい? そんなことは思ったこともない。前世でもほとんど放置されていたからね。

 それに、私の住んでいる屋敷には週に一回の頻度で()()()がやってくるから、そのおもてなしをしなければならない。

 今だって来客中だったのを、お父様の呼び出しに馳せ参じたというのに開口一番「王妃を殺せ」宣言。


 私は入ってきた扉の横の壁にぴったりと背をつけて立っている。

 お父様に会うときはできるだけ離れるようにと厳命されたからだ。


「異世界の女が図々しくも王妃だと?! しかもあちらの世界ではただの平民という話ではないか! 側室でも許せぬというのに身の程をわきまえぬ愚か者が! わしの可愛い娘のほうがよほど似合いだ!」


 あ、ちなみに可愛い娘というのは私のことではない。

 正妻との間に女の子を設けておりどんなワガママでも許してしまうほど溺愛しているそうだ。

 そんな可愛い娘の口癖が「陛下と結婚するの~」「迎えに来てくれるのを待ってるの~」と、脳内お花畑。


 お父様も様々な手を尽くして可愛い娘(笑)を王妃にしようと画策したらしいがそのすべてが無駄に終わり、さあ次の手を……というところで突然の陛下結婚宣言。

 その事実を知った可愛い娘(笑)は部屋に閉じこもって泣き暮らしているらしい。

 一度も会ったことないけどね。全部聞いた話。


 それで「うちの娘可哀想!」と先ほどからお父様が怒りを爆発させている。


「~~~~~~っ!! 全くあのクソ魔王も見る目がない!」


 まだ文句を言っていた。今の言葉だけで断首コースですよ。お父様。


「とにかく! お前は近々王都で開催される御前試合を見に行くのだ。優勝者は陛下直々にお言葉を頂ける。必ず王妃も隣にいるから、陛下の目の前で惨たらしく殺せ。わしの可愛い娘を選ばなかったことを後悔させてくれるわ!」


「かしこまりました(誰が言うこと聞くか! 自分でやれや!)」


 言いたいことはたくさんあるがお父様の決定に口を挟んではいけない。

 私が発言できる言葉は「はい」「かしこまりました」この二つだけである。




 私に前世の記憶がなく愛しのあの人に会っていなかったら、なんの疑問も持たずに王妃様を殺しに行ったと思う。




「おい」


 執務室を出ると、執事長であるローガンが声をかけてきた。リーダーっぽいなと思っていた男の人は執事長だったんだよ。

毎回毎回オールバックだから将来ハゲると思う。むしろハゲろ。


「用が済んだら早く帰れ。必要事項は全てこの書類に記載されている。あとこれを必ず身に付けるように」


 無表情を装いながら無言で書類と小箱を受け取る。


 実は私の魂に呪いを刻んだのはこの男ではないかと推測している。

 使用人達を殴り倒した時この人の静止の声に体が反応して動けなくなったからだ。

 しかも「ご当主様の命令には従うように」と言われ、私はお父様の命令に逆らえないでいる。


 でも、包帯を巻いていて目が見えない時抱いて運んでくれたんだよね。荷物を運ぶみたいにぞんざいな扱いではなく、お姫様抱っこという女の子の一回は憧れる丁寧なやつ。

 呪いをかけた相手に優しくするもの?

 でも、最初は優しかったのに段々と冷たくなってきたから、この人が何を考えているかわからない。


 もう一人の呪いをかけた候補はお父様。

 心の中でどんなに文句を並べ立てようともお父様のことを他の呼び名(ひどいあだ名)で呼べないあたり可能性はゼロではないと思う。


 頭を使うのは苦手だから知恵熱出そう。


 それより私はこの国の成人年齢である十五歳をとっくに過ぎているのに、あの人が未だに迎えに来ないのは一体どういうことなの?!


 再会の合図の腹パンは正しかったのかもしれない。



誰よりも名前が先に出た執事長ローガン。


ヒロインは隣国の兵士を自分が倒したと自覚していない。

指摘されても愛しのあの人が代わりにやっつけてくれたんだなと思う。

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