side???前半
全力で森の中を駆け抜ける。
小枝が頬に当たりピリッとした痛みが走るが構ってなどいられない。早く追いつかなければ。
転移で行けば早いが一度も行った事のない場所は座標が安定しないため、下手をしたら地中深くに転移し窒息死なんて珍しくもないため使えない。
魔力持ちでも緊急時にはさほど役に立たないと一人舌打ちをする。
隣国のルビーロウ王国に潜入調査中、アホな王の思いつきで百人近い兵士が我が国カクタス国に向けて進軍したと情報が入った。
ただでさえ最近不法侵入が多くて手一杯だってのに、仕事増やしやがって……!
カクタス国からも騎士がこちらに向かっているが、奴らに一番近い俺が足止めのため急ぎ追いかけている状況だ。
ルビーロウ王国は八十年前も異世界人を集団召喚して戦争を仕掛けてきた。異世界人の特徴も知らず安易に召喚なんてするから盛大に自滅していたが。
カクタス国の国民は力の差はあれど全員が魔力持ち。保有する魔力の影響か寿命も長い。最低でも千年。長いと五千年生きた賢者がいると記録があるが真偽のほどは定かではない。
対して隣国のルビーロウ王国は魔力持ちが生まれず、寿命も六十年ほど。我が国が不老不死を独占していると難癖をつけて戦いを挑んでくる。毎回大敗しているのだからいい加減諦めて欲しいが王が変わる度に同じ事を繰り返す。
魔力持ちからしたら、魔力のないルビーロウの国民が羨ましい。魔力持ちは子どもが非常に出来にくく、出来たとしても幼少期は魔力暴走で死にやすいため人口が増えない。
カクタス国はルビーロウ王国の人口の三分の一にも満たない。
俺がルビーロウ王国に潜入していたのもあちらの動向を探ると共に出生率の高さを調べるためでもあった。
お互いないものねだりだな……と乾いた笑いがこみ上げてくる。
ふと、違和感に気づき足を止める。
……何かに誘導されている。
ここはもうカクタス国、国境沿いのイセリア領のはず。普通は国境を越えると目の前に丑寅の大樹が見えるが、いつのまにか俺の視界の遥か後方に大樹がそびえ立っていた。
魔力持ちの俺が微かに覚える事のできた違和感。
隣国の兵士は不思議に思う間も無く進んでいる事だろう。その証拠に土を踏み荒らした真新しい足跡が続いている。
あえてその誘導にのってやろうと慎重に足を進める。
奇襲に備え念の為に防御結界を展開しておく。
見えてきたのは古い屋敷。植物の蔦が屋敷全体を覆いその古さをより際立たせている。
侵入者を拒む鉄の門扉が破壊されていた。
間違いなく隣国の奴らはこの屋敷に入っていったはずだが、この静寂は何だ?
屋敷の中を伺おうとしたら突如目の前に赤い物体が迫り腹部に衝撃が走った。
「がはッ?!」
数十メートルほど吹っ飛ばされる。
おいおい、防御結界を一撃で破壊ってどういう事だ? 結界を張っていなかったら肉を抉られてたぞ。
受け身を取りながら二体の土人形を生成し、赤い物体に向かわせる。
赤い物体を注視すると血で真っ赤に染まった子どもだった。
動く度に頭から血を出しているから怪我をしているのが見てとれる。だが、その大半が返り血だろう。
割れた窓ガラスから屋敷の中を見れば、先程まで人であった物体が散乱していた。
隣国の隊服の切れ端が血に染まっている。
防御結界を一撃で破壊するほどの威力だ。全滅は免れないな。
百人の兵士をこの子どもが?
子どもの瞳を見れば、血よりも赤く輝いていた。猩猩緋の瞳は魅入られるほどの美しさだが、焦点が定まっていない。
何者かに操られているな。
複雑な命令は動きを鈍らせるから「屋敷に侵入する者を殺せ」「動くものを破壊しろ」のどちらかだろう。後者の可能性が高いな。子どもは土人形を破壊しようと攻撃を繰り出しているが、術者である俺を狙ったほうが効率がいいからだ。
子どもを操るなんて外道がっ……!!
我が国では子が生まれにくいため国民全員で子どもを慈しむ。不慮の事故で親が亡くなった場合でもすぐに引き取り手が現れるし、周りの大人全員で守り育てようとする。そのため孤児なんて存在しない。
そんな国の宝でもある子どもを操る奴は即刻死刑案件だな。
とにかく子どもを止めなければこのままでは死んでしまう。
土人形を破壊した子どもはこちらに向かってきている。あえて攻撃を受けその隙に両目を潰す。
悲鳴すらあげないとは、感情も抑制されているのか……。
考え事をしていたせいでまたも腹部に一撃くらってしまった。
だが、最初の攻撃よりだいぶ弱い。そのまま子どもを抱きしめれば気を失っていた。
急いで治癒術をかけ頭と目の傷を塞ぐ。
細かい傷と体の浄化を精霊に頼む。精霊は俺達と一緒で子どもが大好きだから傷跡も残さず綺麗に治してくれるだろう。
俺は魔力探索をして屋敷の中を探った。
やはり、隣国の奴らは全滅で屋敷内には生き物の気配がない。それ以前にこの屋敷は侵入者をおびき寄せるためだけの可能性が高い。人が生活するには物が異様に少ないからだ。
屋敷の一階は血の海で臭いがひどく、二階の唯一ベッドのある部屋に子どもを寝かせた。
ようやく見つけた少し大きめの服に着替えさせようと衣服を脱がせる。
そこで気づいてしまった。
子どもが女であるということを。
予約投稿の日付間違えた。
明日は必ず0時に投稿します。