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御前試合

 翌朝、ディノさんと一緒の朝食。

 昨日トゥナさんに教えてもらったマナーを実践したら「所作が美しくなっていますね」とディノさんに褒められた。嬉しい。

 だが、その後のセリフに耳を疑った。


「今日は御前試合ですので早めに会場に行きましょう。イラも準備がありますしね」

「準備ですか?」


 昨日王都に来て次の日が御前試合だなんて観光する余裕も、あの人を探す時間もないじゃないの。

 エマが早く王都に行こうと急かしていたのも楽しみだったんじゃなくて、御前試合に間に合わせるためだったんだ。

 どこまで穴だらけの計画なのよ。


 でも、準備? 観戦するだけなのに?


「あ、もしかして良い席を取るための場所取りですか? 頑張ります」

「違いますよ。イラは御前試合に出場します」

「?!」

「なんだい、出場するのかい。応援するから頑張りな」

「……」


 相変わらずの綺麗な笑顔でサラッと爆弾発言したディノさんと驚いて絶句する私。のほほんと応援する発言のトゥナさん。

 そしてそれを無表情で見ているエマ。


「どうして出場することになっているんですか」

「御前試合を少しでも盛り上げるために、魔力登録で基準値を超える魔力をお持ちの方には出場をお願いしています。それにわたくしは御前試合実行委員会の総合委員長を務めておりますので、優秀な人材には是非参加していただかなくては」


 魔力登録……昨日手続きであの玉に触って魔力を流した時か! アイアンクローで詳しく聞けなかったやつ。


「カクタス国は実力主義ですので年齢・出自・身分を問わず御前試合で活躍すれば良い職につけますよ?」


 私、職探しに来たんじゃなくて命令を口実にあの人を探して呪いの件をなんとかしようとしていたのに。


「あと優勝すれば魔王陛下から望みをひとつ叶えて貰えます」

「御前試合に出場します!」


 ええ、チョロいと罵ってくれていいわよ。……なんかデジャヴ。

 それより優勝すればあの人のことを教えてもらえるかもしれない。

 手掛かりなしで探すより知っていそうな人に聞けるならそのほうがいい。

 やる気が出てきた。




 やってきました。御前試合の会場です。

 コロッセオみたいな円形闘技場だった。


 闘技場の前でそれぞれ別れる。

 ディノさんは委員長のお仕事。トゥナさんとエマは観客席へ。私は選手控え室へ。

 契約している精霊の持ち込みもオーケーらしく、またプーちゃんが震えて置いて行かないで! と可愛らしく抗議してきたのでプーちゃんが私の相棒だ。

 エマは回復特化だし、私は身体を作ったけど契約はしていないしね。


 別れ際、トゥナさんが抱きしめて「無理するんじゃないよ」と声をかけてくれた。それを見てエマも同じことをしてくれた。

 何か張り合ってる?


 ディノさんも抱きしめようとしてきたので遠慮したら、両手を取られてそれぞれ手の甲にキスされた。

 真っ赤になった顔を見られたくなくて思わず逃げた。

 指先から全身に熱が広がっていく感じがする。


 スキンシップ激しすぎだよ。





 選手控え室に着くと、壁にトーナメント表が張り出されていた。


 ん? リューノスケ・アマキ? 明らかに日本人の名前を見つけた!

 是非お話したい。周りを見ても日本人らしい人は見当たらない。



 一回戦を勝てば二回戦で戦えるみたいだけど、私が最初に戦う人はフラヴィオ・ペレキフォラ。

 首をひねって思案する。


「どこかで聞いたことがある……ような?」

「嬢ちゃんを捕まえた騎士団の副団長だよ」

「ああ! 副団長さん! え?!」


 慌てて振り向くと軍服を着た体格のいい人が立っていた。

 小声で「騎士団長さん」と思わず呟くと聞こえていたみたいで、ニカッと弾けるように笑った。


「お? 嬢ちゃん、おれのこと知ってたか。リッカルド・アストロフィツムだ。リッカルドでいいぜ」

「イラです。リッカルドさん」


 右手を出してきたので私も出して握手する。


 紺色の軍服は手首と首元に繊細な金色の刺繍が施されていて体格のいいリッカルドさんの大人な雰囲気を演出していた。

 リッカルドさんはマゼンダ色の髪とルビーのような赤目の人。

 ディノさんの言った通り。赤目の人いた。


「なぁ、嬢ちゃん。今からでも遅くない、おれのトコに来ないか?」


 私は考える間も無く首を横に振る。

 それを見てリッカルドさんは困ったように微笑んだ。


「フラヴィオのした事は悪かったと思ってる。だが、あいつは妹を魔力暴走で亡くしててな。嬢ちゃんと重ねちまったんだろうよ。悪く思わないでやってくれ」

「副団長さんのことは怒ってないです」


 謝ってくれたし。


「そうか。フラヴィオも喜ぶ。気にしていたからな」

「捕まえた事を気にしていらっしゃるならお気遣いなく」


 ずっと怒るのも結構大変なんだよね。

 私の場合一発殴ればそれで終わりがほとんど。


「それだけじゃなくてな、嬢ちゃんはおれのこと覚えてねぇか? 十年前に会っているんだが……あの時と同じで包帯をしていたからすぐわかった」


 十年前、あの時と同じ包帯という発言に動揺を隠せなかった。

 リッカルドさんが愛しのあの人?

 いや、でも再会の合図に私の名前を呼んでくれるはず。それがないし、何かが違う……と思う。


 でも、十年前私が包帯をしていたことまで知っていた。

 どうしよう。わからない。


 つい、否定の言葉を紡いでしまった。


「覚えていないです。ごめんなさい」

「いや、いいんだ。それより委員長には気をつけろよ。あいつは使えるやつはトコトン使うからな。嬢ちゃんも利用されている可能性が高い」


 最後に不穏なセリフを残してリッカルドさんは「忠告はしたからな」と言って手を振って控え室から出て行った。


 ディノさんが私を利用?

 リッカルドさんがあの人かもしれない可能性よりもそちらのほうがより私の心をかき乱した。


御前試合

その昔、王都から出ることができない魔王の心の憂いを取り除くため、罪人同士で戦わせたことが御前試合の起源。今では人材不足甚だしいカクタス国の貴重なスカウトの場となっている。


御前試合が武を競う場なのに対して、知を競う大会も開かれている。


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