お仕置きとご褒美
いやー、ディノさんは騎士の人と比べたら細身だから肉体派じゃないんだろうなと思っていたけど、自分と同じ身長の人をアイアンクローするなんて意外と力持ちなんですね。
足、宙に浮いてますよ。凄いですねー。
「この格好の時はわたくしの事は委員長とお呼びください……と通達したはずなのですが。二度目はないですよ」
「りょ、了解でありますぅ。すいませんっした。いっ、委員長~」
「お願いしますね」
お相手の人、半泣きじゃないですか。語尾が震えていますよ。しかし、綺麗な型だなぁ。すごい。
ディノさんの見事な技に感心していたら何やら話がついたみたいで、アイアンクローをしていた人をぺいって音が聞こえそうなほど軽く投げ捨てていた。
ディノさんはあの有無を言わせない笑顔で私を見るとこう言った。
「では次はイラのお仕置きをしましょうか」
「へ?」
お仕置きという単語の不穏さとディノさんの綺麗な笑顔の対比がより恐ろしい。
思わず後ずさるがすぐ手を掴まれてしまい動けなくなってしまった。
アイアンクローをして人を宙に浮かせていたディノさんから逃げられる気がしない。あと、逃げたらもっとひどいことになりそうだと本能が告げていた。
「魔力探索使いましたね。また気分が悪くなったらどうする気ですか。一度言ってもダメでしたら……」
ダメならどうなるの?
「体に覚えさせたほうがいいですかね」
ディノさんの笑顔が消えてハットで影になっていた瞳がきらりと光った。
比喩的表現じゃなくて本当に光ったんだよ! 魔力探索を使った白黒の世界でもはっきりわかるほど!
「ごめんなさい。もうしません!!」
「ここは大丈夫ですが、王城などの重要施設で許可なく魔術を使うと問答無用で牢屋行きですので気を付けてくださいね」
何それ。怖い。
ヘドバンする勢いで頷いてすぐさま魔力探索をオフにした。
「では時間もないので転移で移動します」
ひんやりとした空気から温かい花の香りのする場所に一瞬で移動したのがわかった。
ただ、胃がフワッと浮く感じがしなかった。
もしかしてディノさんは術の扱いが物凄く上手な人なのかもしれない。
ついディノさんを見上げれば吸い込まれそうなネイビーブルーの瞳が私を見つめていた。
しかも瞳がキラキラとラメみたいに煌めいている。まるで美しい夜空。目が離せない。
ふわふわの艶のある銀髪も触ってみたいな。
……………………。
あれ……銀髪? ネイビーブルー? なんで見えているの?
思わず自分の顔に手をやれば包帯がない!!
私が見えてるって事はディノさんからも私の色が見えてるって事だから、梅干し色の目が見られた?!
とっさに両手で顔を覆いうずくまる。
「どうしました? イラ?」
「あの、あの、なんで、包帯っ」
気持ち悪いって思われたらどうしよう。目から涙が溢れてくる。
「お仕置き……と言いましたよね? 半分冗談でしたが包帯が邪魔だったので消しました。隠す必要はないですよ。こんなに綺麗な瞳はもっと見ていたいです」
ディノさんはゆっくり私の顔を上げさせると親指で涙を拭ってくれた。
気がつけばディノさんも床に膝をついている。私に目線を合わせてくれるその優しさにまた涙が押し出される。この人に嫌われたくない。
「でも赤目の人と今まで会ったことないし、無害な村娘を装えって命令」
しまった。動揺して言わなくてもいいことまでポロっと言ってしまった。
「赤目は珍しいですが忌避されるものではないです。それに騎士団長のリッカルド、あいつも赤目ですよ」
「騎士団長?」
「イラを迎えに行ったとき、わたくしの隣にいたうるさい奴です」
あの体格のいい人、騎士団長だったんだ。
白黒の世界だったから色まではわからなかった。今度会ったらよく見てみよう。特に軍服。
「ところで命令とは? 詳しく教えていただけますか?」
「…………お父様に王妃様を殺せと命令されて」
命令と呪いについて前世以外のことをすべて喋りました。なぜかディノさんに嘘は吐けなかった。
今までの「壊せ」というあいまいな命令から、今回の「殺せ」という明確な命令に無意識にストレスでも感じていたのかな。こうして誰かに話してしまうほどに。
「なるほど。ありがとうございます。あとはこちらでなんとかしますね」
「ご迷惑をおかけして……ごめんなさい」
「わたくしになら好きなだけ迷惑をかけて構いません。むしろ頼ってください。正直に話してくれたイラにはご褒美をあげないといけませんね」
「ご褒美?」
入っていいですよとディノさんが少し大きめの声を出すとドアが勢いよく開いた。そこにいたのは……
「トゥナさん?!」
「イラ!」
馬車で優しくしてくれたトゥナさんが立っていた。
トゥナさんは私を抱きしめて「無事でよかった」「心配していた」などなどあたたかい言葉をいっぱいかけてくれた。思わず私も抱きしめ返す。
「お嬢様。エマもおります」
トゥナさんに抱きしめられている状態から首だけ動かせば、無表情ながら不機嫌な雰囲気を漂わせたエマがいた。
「エマ!! よかった! 心配していたの!」
トゥナさんが腕を緩めてくれたのでエマに突進して抱き着いた。普段はこんな過剰なスキンシップしないが嬉しかったからしょうがない。
エマも最初はビックリしたのか固まっていたけど、おずおずと腕を回してくれた。うちの子可愛いなー。
「馬の治療をしてくれてありがとう。どうやってここに?」
「トゥナ様の中にしばらく入れていただきました」
「そうだったの。トゥナさんありがとうございます」
エマに抱き着いたままトゥナさんに頭を下げる。失礼かなと思ったけどトゥナさんは微笑ましいものを見る目でこちらを見つめていた。
「こっちも世話になったからね。それより坊ちゃんの知り合いだったとは偶然だね」
坊ちゃん?! そういえばトゥナさんは坊ちゃんに呼ばれて王都に行くって言っていたような。それがディノさんだったんだ。本当に偶然。
あれ? でもディノさんにトゥナさんのこと話したっけ? ご褒美と言っていたから知り合いって知っていたってことだよね?
疑問の目をディノさんに向ければにっこりと微笑んでくれた。ついこちらも頬が緩む。
「女性同士積もる話もあるでしょう。わたくしは仕事がありますのでこれで失礼しますが今日はこのままこちらに泊まってください」
「え、そこまでご迷惑をおかけするわけには……」
「迷惑ではありません。そうですね……どうしても気になるのでしたら明日の朝食をご一緒していただけますか?」
「もちろんです!」
嬉しい提案に即答した。
明日の朝楽しみにしていますと言ってディノさんは去っていった。
それからは夜までずっとトゥナさんとエマとおしゃべりを楽しんだ。
トゥナさんは私の赤目のことを変に思ったりせず、むしろ見えるようになって良かったと喜んでくれた。
私はエマの自慢話をこれでもかと話せて満足したし、エマもとても楽しそう。
こんなに笑ったのもこの身体になってから初めてかもしれない。
ただ、トゥナさんはマナーに非常に厳しかった。
お茶の飲み方からカトラリーの細かい扱い方、座り方、その他もろもろ。あんなに緊張した夕食はしばらく勘弁。
ベッドに入るころには精神的にクタクタで泥のように眠るってこういうことなんだと思い知った。
でも決して嫌じゃない。心地良い眠りだった。
今日から出張行きます。
海の向こうに行くので更新が満足にできないと思うので今のうちにストック全部予約投稿しておきますね。
帰国予定の水曜日以外毎日更新します。
水曜以降更新無かったら死んだと思ってください(笑)
だって飛行機怖くないですか?私だけ?




