短髪ツリ目→副団長 体格のいい人→団長 ハットの人→委員長
手枷をつけられた後、瞬間移動みたいな術で私だけ飛ばされた。目の前の景色が急に変わっただけでなく、エレベーターが最上階から一階に降下した時のように胃がフワッとなりちょっと気持ち悪い。
飛ばされた先は一目で見渡せるほどの部屋だった。前世住んでた八畳のワンルームぐらいの大きさ。
簡素な机と二脚の椅子のみが部屋の真ん中に鎮座している。
この部屋唯一の小窓もはめ殺しで明かり取りという意味で天井付近に取り付けられているためか、外の景色を確認することもできない。
殺風景な部屋は人をもてなすための部屋というより取調室といった雰囲気だ。
あまりの静寂に手枷の鎖が擦れる音が一際大きく聞こえてくる。
精霊達は一応ひっついている。けれど、中にいるプーちゃんを出そうとしても出ない。
この手枷に何か仕掛けがあるのかな。
ダメ元で扉を開けようと試みる。押しても引いてもびくともしない。
うん。鍵がかかってますねー。
いきなり牢屋に入れられなかっただけマシだと思おう。
エマ大丈夫かな。
精霊だから何とかなると思うけど、美人さんだからね。変な奴に声をかけられていないか心配。
荷物も置いてきちゃった。
馬の怪我は大丈夫かな。
貰ったお菓子も食べないまま。
トゥナさんにもお礼を言えてない。こんな事ならちゃんと伝えればよかった。
する事もないので椅子に座って机に突っ伏す。
地味に手枷が重いからどこかに乗せると楽だと気づいた。
「……ん。イラくん! イラ君! 大丈夫か?!」
あ? 誰よ。私の名前はイラじゃない。私の名前は――――……。
あれ? ここどこ?
慌てて辺りを見回す。
取調室みたいな何もない部屋。いつのまにか寝てしまったみたい。
私を起こしたのは手枷をはめた腕章をつけたあの騎士、短髪ツリ目野郎だった。
一気に気分が急降下する。
「動かないから心配した」
騎士は大きく安堵の息を吐き出し向かいの席に腰掛ける。
私は机の上に置いていた手を膝の上に移動させた。
手枷をつけた時と随分態度が違いますねー。
「目が痛むのか? 医師を呼ぼうか?」
「いえ、ヒマなので寝てしまっただけです」
包帯をしているけど見えてますから。言わないけど。
「わたしの名前はフラヴィオ・ペレキフォラ。騎士団の副団長を任されている」
「ご存知かと思いますが、イラと申します(偽名だけど)」
気にくわない相手だろうが丁寧に挨拶されたら丁寧に挨拶を返す。ペコリと頭を下げた。
「待たせて悪かった。テッポードクガエルの駆除と事実確認に手間取ってしまってな」
「何故私は拘束されているのでしょうか?」
手枷を掲げて見せる。重くて二の腕がプルプルするが、我慢。
「君はまだ子どもだ。魔力暴走する可能性があったため手枷で封印させてもらった。説明をする前に勝手に転移させたことは謝罪しよう。イラ君。すまなかった」
やっぱり子ども扱いか……とショックだったが、短髪ツリ目野郎は机に額がつくほど頭を下げて謝ってくれた。
年上が年下に謝るなんてプライドの高い人なら絶対無理だから、この人は説明不足だったけど誠実で良い人なんだね。
心の中で短髪ツリ目野郎と呼んでいた事を訂正して二度と呼ばないと誓う。
「それに君は見たこともない魔獣を従えていたから……」
「プーちゃんは魔獣じゃないです。私が作った子なので」
「?」
「あ、えっと、魔力を圧縮、具現化してクラゲボディを作ってから光・闇・火・土のそれぞれの精霊に入ってもらって動くようにした私のお手伝いをしてくれる子です。とても良い子ですよ。最初に作ったのは人型だったのでそれと比べたらとても簡単でしたし」
あれ? 説明下手だったかな。
鳩が豆鉄砲をくらったような顔ってこんな顔っていうぐらい口を開けてポカンとしている。
「精霊の具現化について誰から師事を受けたか聞いても?」
「魔術書を読みました」
エマがまだ光の玉だった頃。光ってこっちにおいでと言われている気がしてついて行ったら、魔術書と服が置いてあった。
最初は読めなかったが魔術書には平仮名で文字の読み方を説明する紙が入っていた。
難しい単語には丁寧に注釈も入っていてとてもわかりやすくて助かった覚えがある。
それからエマはどこからか魔術書と服を調達してくるようになったんだよね。
身体を作ってから尋ねたら「盗品ではございません」って言うだけで詳しく教えてくれなかった。
服は手作りだと言って引かないし。
人型ならまだしも玉の状態で裁縫は無理でしょ。
目の前の短髪ツリ……じゃなかった、副団長さんは何やら頭を抱えていた。
「あの、大丈「そんな男のことを気にする必要はないですよ」
声をかけようとしたら初めて聞く声に遮られた。
声のした方向に目を向ければ、副団長さんと同じ軍服を着た体格のいい男の人と細身のハットを被った男の人が立っていた。
「いくら騎士とはいえ罪のない女性を捕らえ、個室に二人きりというのはいかがなものでしょうか。騎士団は良くても彼女に良くない噂がたってしまいます」
ハットを被った人が近づいて来て手枷に触れる。
まるでパズルが崩れるように手枷がバラバラに分解されていく。
「彼女はこちらで保護させていただきますね」
「ちょっと待て! さ……委員長! 嬢ちゃんは騎士団で預かる」
「馬車での一件で多数の苦情が来ています。まずはそちらを何とかしてから来てください。だいたい男ばかりのむさ苦しい所に女性を放り込むなんて酷いことをなさるんですね」
「もちろん女騎士をつけるに決まっとるだろうが!」
ハットの人と体格のいい人が言い争っている。特に体格のいい人がムキになっている気がするのよね。
言い争いに参加していない副団長さんに仲裁に入ってもらおうとチラリと見れば気を失っていた。
「え? なんで?」
「ああ、そいつは気に入らなかったので意識を刈り取りました」
「はぁッ!?」
思わず出た疑問の言葉に笑顔でハットの人が答えてくれた。
体格のいい人が目を剥いて驚いている。
「てんめぇ、フラヴィオになんの恨みがあって。殺してないだろうな」
「彼女の前では殺りませんよ。では団長はソレを。わたくしは彼女を。これで解決ですね」
何が解決かわからないが、ハットの人は私の手を取って殺風景な部屋を出て行く。
背後から団長と呼ばれた体格のいい人の抗議の声が聞こえてくる。
いきなり会った人について行くのは本来はダメだろう。だけど、この人は私の事を子どもとしてではなく一人の女性として扱ってくれた。
不思議と不安はなかった。




